second dice

N&N

文字の大きさ
上 下
59 / 73
6.魔の弁当箱

しおりを挟む
ん?

茉?

そう言えばこの冬休み、クスミは茉と接触して仲良くなったじゃないか。

茉が強引に関わってきただけのような気もするが、一応は料理を教わることもできたわけだし、仲良くなったと言ってもいいだろう。

クスミに頼んで茉の弁当箱を返してもらおう。

クスミが茉の教室に現れたら一瞬疑問に思う人がいるかもしれないが、そこから何か噂が広まることはないだろうし、オレが行くより怪しまれなくて済む。

そうだ、そうしよう。

我ながらいいアイデアだ。

始業式が終わって教室に戻る途中で、オレは早速クスミに声をかけた。

「クスミ、ちょっとお願いがあるんだけど」

「何だ?」

クスミの隣りにいる兄キが代わって返事をした。

兄キは反応が早いし、クスミは行動が1テンポ遅い。

「兄キじゃなくて、クスミに言ってるんだよ」

「クスミっちに用事ならまずはオレを通してもらおうか」

兄キがクスミの代理をして何を引き受けられると言うのだ。

「・・・まぁいいや。クスミ、冬休みの間に茉と仲良くなっただろ?オレに代わって届け物をして欲しいんだけど」

「・・・届け物、ですか?」

今度はクスミが答えてくれてホッとする。

兄キは茉という言葉が出たために少しフリーズしたようだ。

オレはその間に経緯を説明した。

冬休みにいきなり茉がオムライスを作って持ってきたこと。

それが弁当箱に詰められていたこと。

使い捨ての箱ではないので返したいこと。

茉は違うクラスなので持って行きづらいこと。

「だから仲良くなったクスミが代わりに届けてくれないかな?」

兄キが途中で復活しないように、オレは要点をまとめながら早口で一気に説明をした。

そのせいか、クスミは少し黙り込んでいる。

一生懸命オレの言葉を理解しようとしてくれているのだろう。

頼む、あともう少しだけ兄キよ、フリーズしておいてくれ。

クスミがはいと言ってくれるまで!

しかしその願いは叶わなかった。

兄キが復活した・・・・・・・・・のではなく、クスミが首を横に振ったのだ。

「え!?ダメ!?」

オレは思わず大声で返していた。

そのせいか、兄キも目覚めてしまった。

「当たり前だろ。何でクスミっちが弁当箱を一真の代わりに持っていかないといけないんだ」

「いやぁ、だって・・・」

「だいたいメデューサに呪われたのは一真であって、オムライスの呪いを受けたのも一真だろ。呪われるのは一真だけで十分だ。犠牲者を増やすな」

なんていうひどい言われようだ。

オレを助けるという選択肢はないのか。

クスミは兄キの言葉に同意するわけでもなく、じっとこちらを見ている。

やがて口を開いた。

「あの、それは良くないと思います」

「良くないって、代わりに弁当箱を返してもらうこと?」

「はい。悲しむと思います」

「悲しむ?茉が?」

「はい」

何でだ?

茉に限って悲しむということはないと思うが、何で最近仲良くなったクスミが返しにくると悲しむんだ?

「何で?」

「だってそのお弁当はユノモトくんに渡したものなので」

「そうだけど」

「メデューさんは・・・」

「メデューサ!!」

「??」

クスミも茉のことをメデューサと呼んでしまっている。

いや、メデューになってはいるが。

そしてそれが自然すぎてオレが突っ込みを入れても気づかないでいる。

兄キか?

兄キがそう呼ぶからそれが自然になってしまったのか?

「メデューさんはユノモトくんに渡したから、ユノモトくん以外から返ってきたら悲しむと思います」

クスミはさっきの言葉に人物名を付け加えただけで、全く同じことを言った。

おかげでオレは意味がわからないままだ。

「例えばこのスタンプですが」

そう言ってクスミはNキャラが彫られた消しゴムスタンプを出してきた。

「これは先ほどユノモトくんの手に渡りましたが、ユノモトくん以外から戻ってきたら悲しみます」

「何で?」

「ユノモトくんがこれを気に入らなくて他の人に渡したのかなと思います」

「それはちょっと考えすぎでしょ」

「いえ、表情が気に入らないから怒って他の人に渡してしまったのかなとか、赤インクじゃなくて黒インクが良かったのかなとか」

「え・・・」

「本当は"でよ"も入れて欲しかったのかなとか、複数いるバージョンが良かったのかなとか、線がもっと太くて・・・」

「わかった、もうわかったから」

クスミが次第にマイナス発言ばかりしていくのが恐くて、オレは慌てて止めた。

「とりあえず渡した人以外から戻ってきたら何かあったのかと不安になるからやめた方がいいってことだよな?」

「はい」

「わかった。やっぱり自分で返すわ。変なこと言って悪かった」

というか、クスミに依頼していたら本人にメデューサと呼んでいただろうし、やめて正解だ。

やっぱりこれは自分で何とかするしかなさそうだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

twice dice

N&N
青春
これで良かったのかなんて疑問は 他人が抱くものじゃないな

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

GIVEN〜与えられた者〜

菅田刈乃
青春
囲碁棋士になった女の子が『どこでもドア』を作るまでの話。

8年間未来人石原くん。

七部(ななべ)
青春
しがない中学2年生の石原 謙太郎(いしはら けんたろう)に、一通の手紙が机の上に届く。 「苗村と付き合ってくれ!頼む、今しかないんだ!」 と。8年後の未来の、22歳の自分が、今の、14歳の自分宛に。苗村 鈴(なえむら すず) これは、石原の8年間の恋愛のキャンバスのごく一部分の物語。

*いにしえのコトノハ*2 レインドロップス

N&N
青春
私、後悔まではしてないから

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ヤマネ姫の幸福論

ふくろう
青春
秋の長野行き中央本線、特急あずさの座席に座る一組の男女。 一見、恋人同士に見えるが、これが最初で最後の二人の旅行になるかもしれない。 彼らは霧ヶ峰高原に、「森の妖精」と呼ばれる小動物の棲み家を訪ね、夢のように楽しい二日間を過ごす。 しかし、運命の時は、刻一刻と迫っていた。 主人公達の恋の行方、霧ヶ峰の生き物のお話に添えて、世界中で愛されてきた好編「幸福論」を交え、お読みいただける方に、少しでも清々しく、優しい気持ちになっていただけますよう、精一杯、書いてます! どうぞ、よろしくお願いいたします!

ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます

沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

処理中です...