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5.メデューサの呪い
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「あ!!」
兄キが突然大声を上げた。
兄キが奇声を発するのは今に始まったことではないが、突然声を上げられるとオレも変な目で見られるので不快だ。
幸い今は周りに人は誰も見当たらないが。
「一真、ちょっとオレの荷物を持ってくれ」
「は?嫌だよ」
オレは両手に荷物を抱えている。
比べて兄キは片手だけだ。
その代わりにオレの両手の荷物より重い商品を入れている。
これで2人の荷物量を分配したつもりだ。
兄キが持っている荷物が重いことを知っている分、絶対に引き受けたくない。
「頼む!急がないとダメなんだ!頼む!」
「何だよー、小便か?」
家まではあと1,2分もあれば着く。
この通りを数百メートル歩けば着く距離なのだ。
トイレなのであれば我慢してもらいたい。
しかし兄キは急かすように言って、オレがうんとも言わないうちに自分の荷物をオレの手に預けてきた。
「うっ」
重い。
すごく重い。
思わず元々持っていた荷物を持ち替え、左右の重さが釣り合うようにする。
オレの指が、第二関節が、重さで食い込んで痛いと嘆いている。
一方、荷物から解放されて身軽になった兄キは、何を思ったのか来た道を逆走し始めた。
「おい!どこ行くんだ!」
トイレに行きたいなら自宅へ向かって全力疾走しろよ。
兄キはオレの問いかけにも聞く耳を持たず、ひたすら真逆の道を走っていった。
「にーげーろー」
走りながら叫んでいる兄キの声が聞こえる。
なっ・・・あいつ!!
荷物をオレに預けて逃げやがった。
家まであともう少しだというのに・・・。
こんなことは日常茶飯事だが、今日はわりと順調に来ていたから油断していた。
兄キと出かける時は、家に着くまで気を緩ませてはいけないといつも気をつけていたのに。
悩んでいても仕方ない。
早く家に着かないと、オレの指が限界を超えるだけだ。
オレは仕方なくトボトボと歩みを進めた。
重みが増したせいで歩くスピードが心なしか遅くなった気がする。
くそっ、兄キのせいだ。
やっぱり卵チョコを兄キが持っている袋に入れていたのが間違いだった。
家に着いてから渡せば良かった。
重さに加えて寒さのせいで指はかなりのダメージだ。
ハンドクリームなんて女が使う物をオレは持っていないから、後で母ちゃんにこっそり貸してもらおう。
ふう、ふう、たった数百メートルの距離がかなり長く感じる。
やっと家の玄関が見えてホッとしたのも束の間、近くの電信柱から人影が出たことにオレは驚いた。
「ーーーっ」
驚いた時に声が全く出なくなるというとはこういうことだったのか、と思うほど声を失った。
オレは生まれてから16年間、こんなに驚いたことはなく、この年にして初体験をしてしまった。
そして声が出なくなってしまったのでは、と急激に不安になり
「あいうえお」
なんてどうでもいい言葉を発して相手の顔を怪訝にさせた。
「何よ、それ。新しい挨拶?」
目の前に現れた主はそう言って冷ややかな視線を投げてくる。
メデューサだ。
いや、間違った。
茉だ。
きっとオレがゲームの世界の主人公だったら、敵と出くわすたびにこういう経験をするんだろうな、と思うほどさっきのできごとは生々しかった。
どうしよう。
戦うも逃げるもこの荷物じゃどちらもできそうにない。
主人公に荷物の制限があるのはこういうことなのか。
今度からゲームをする時は必要最低限の持ち物だけにしてあげようとどうでもいいことが頭に浮かんでくる。
「買い物してたの?荷物多すぎでしょ。買う量考えなさいよ」
オレの両手の荷物を見て茉が苦笑した。
「兄キと2人で行ってたんだ。だから多すぎることはなかった」
「ユノモト兄、いないじゃない」
「兄キはついさっき突然走り去った。オレに荷物を預けて」
「何それ、最低。相変わらず使えないわね」
走り去るならせめて荷物を持って家の方に行って欲しかった。
でも荷物を置いて逆の方に走り去ったせいでオレは・・・。
兄キが突然大声を上げた。
兄キが奇声を発するのは今に始まったことではないが、突然声を上げられるとオレも変な目で見られるので不快だ。
幸い今は周りに人は誰も見当たらないが。
「一真、ちょっとオレの荷物を持ってくれ」
「は?嫌だよ」
オレは両手に荷物を抱えている。
比べて兄キは片手だけだ。
その代わりにオレの両手の荷物より重い商品を入れている。
これで2人の荷物量を分配したつもりだ。
兄キが持っている荷物が重いことを知っている分、絶対に引き受けたくない。
「頼む!急がないとダメなんだ!頼む!」
「何だよー、小便か?」
家まではあと1,2分もあれば着く。
この通りを数百メートル歩けば着く距離なのだ。
トイレなのであれば我慢してもらいたい。
しかし兄キは急かすように言って、オレがうんとも言わないうちに自分の荷物をオレの手に預けてきた。
「うっ」
重い。
すごく重い。
思わず元々持っていた荷物を持ち替え、左右の重さが釣り合うようにする。
オレの指が、第二関節が、重さで食い込んで痛いと嘆いている。
一方、荷物から解放されて身軽になった兄キは、何を思ったのか来た道を逆走し始めた。
「おい!どこ行くんだ!」
トイレに行きたいなら自宅へ向かって全力疾走しろよ。
兄キはオレの問いかけにも聞く耳を持たず、ひたすら真逆の道を走っていった。
「にーげーろー」
走りながら叫んでいる兄キの声が聞こえる。
なっ・・・あいつ!!
荷物をオレに預けて逃げやがった。
家まであともう少しだというのに・・・。
こんなことは日常茶飯事だが、今日はわりと順調に来ていたから油断していた。
兄キと出かける時は、家に着くまで気を緩ませてはいけないといつも気をつけていたのに。
悩んでいても仕方ない。
早く家に着かないと、オレの指が限界を超えるだけだ。
オレは仕方なくトボトボと歩みを進めた。
重みが増したせいで歩くスピードが心なしか遅くなった気がする。
くそっ、兄キのせいだ。
やっぱり卵チョコを兄キが持っている袋に入れていたのが間違いだった。
家に着いてから渡せば良かった。
重さに加えて寒さのせいで指はかなりのダメージだ。
ハンドクリームなんて女が使う物をオレは持っていないから、後で母ちゃんにこっそり貸してもらおう。
ふう、ふう、たった数百メートルの距離がかなり長く感じる。
やっと家の玄関が見えてホッとしたのも束の間、近くの電信柱から人影が出たことにオレは驚いた。
「ーーーっ」
驚いた時に声が全く出なくなるというとはこういうことだったのか、と思うほど声を失った。
オレは生まれてから16年間、こんなに驚いたことはなく、この年にして初体験をしてしまった。
そして声が出なくなってしまったのでは、と急激に不安になり
「あいうえお」
なんてどうでもいい言葉を発して相手の顔を怪訝にさせた。
「何よ、それ。新しい挨拶?」
目の前に現れた主はそう言って冷ややかな視線を投げてくる。
メデューサだ。
いや、間違った。
茉だ。
きっとオレがゲームの世界の主人公だったら、敵と出くわすたびにこういう経験をするんだろうな、と思うほどさっきのできごとは生々しかった。
どうしよう。
戦うも逃げるもこの荷物じゃどちらもできそうにない。
主人公に荷物の制限があるのはこういうことなのか。
今度からゲームをする時は必要最低限の持ち物だけにしてあげようとどうでもいいことが頭に浮かんでくる。
「買い物してたの?荷物多すぎでしょ。買う量考えなさいよ」
オレの両手の荷物を見て茉が苦笑した。
「兄キと2人で行ってたんだ。だから多すぎることはなかった」
「ユノモト兄、いないじゃない」
「兄キはついさっき突然走り去った。オレに荷物を預けて」
「何それ、最低。相変わらず使えないわね」
走り去るならせめて荷物を持って家の方に行って欲しかった。
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