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4.始まらない冬休み

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っていうか、こいつ冒頭でオレの彼女ぶってなかったか?

恋人になったわけでもないのに勝手にこんなことを言われたら、オレの今後の恋人ゲット人生が大いに狂ってしまう。

オレも現役高校生。

少しくらいは彼女がいる人生に憧れてもいるのだ。

「ねぇ、オムライスおいしかった?」

玄関のドアを開ける直前、茉は振り向きざまに質問した。

何だ?

今更・・・。

と思いかけて、言われてみれば味の感想を一言も発していなかったことに気がついた。

オレはえぬたまのオムライスが好きで、茉が作ったオムライスもえぬたまのオムライスなのだからおいしくて当然だろう。

それを知っていながら何でこんな質問をするのか。

待てよ。

こいつは急に上機嫌になったり不機嫌になったりわからないところがある。

オレの返事次第でまた急に不機嫌になったりしたらこっちも気分が悪い。

ここは素直に正直な感想を伝えておくか。

「おいしかったよ」

お腹が空いていたことを考慮してもおいしかった。

・・・悔しいが。

「えぬたまで食べたのとどっちが?」

「え?」

えぬたまで食べたのも、今ここで食べたのもどっちも茉が作ったんだろうが。

何を言ってるんだ?

「・・・どっちもうまかったよ」

「どっちかと言えばどっち?」

「何でそんなこと聞くんだよ。どっちも茉が作ったんだろ?」

「どっちが気に入ったか知りたいの!」

何だよ、何言ってるのか全く意味不明だ・・・。

どっちも同じやつが作ったんだから、同じだろう?

「んー、家で作ったやつかな。作る過程見てたからってのもあるけど、さっきのやつがうまかった」

同じオムライスに甲乙つけがたいけど、やっぱりさっきのオムライスはおいしかった。

だからこれでいいだろう。

文句あるか。

「・・・・・・・・・わかった」

茉は一言だけそう言うと、玄関のドアを開けた。

そして捨て台詞のようにこう続けた。

「実はえぬたまで出したのはシェフのオムライスでしたー。私が作ったとか言うのは全部嘘でしたー」

「なっ」

何だとーと言い終わる前にドアは閉まっていた。

シーン。

一瞬だけ静かになった玄関で、何だとー、に続く言葉を考えていた。

が、次に兄キのよくわからない言葉を叫んでいるのが聞こえて、考えが中断した。

「うおおおおおおお、セーブできてなかったあああああああ」

雄叫びが兄キの部屋から漏れてくる。

距離がある玄関でもうるさいのだから、近くにいるクスミはもっと被害が大きいだろう。

まぁそんなことはともかく、茉が吐いた捨て台詞。

えぬたまでオレが食べていたオムライスは茉作ではなくて・・・

「何でだー!!あの時、ちゃんとはいって押したのに!!」

皿にMのケチャップを付けたのは自分作だと言い張っていたくせに・・・

「クスミっちも見てたよな?」

結局シェフが作ってたんだったら、わざわざあんなことを言わなくても良かったじゃないか。

「おかしいぞー!!絶対おかしい!!」

そう、おかしいんだ!!

って、兄キの声、うるせー!!

考えながら邪魔してくる兄キの声がうるさくて仕方ない。

結局、茉は何がしたかったんだ?

えぬたまのオムライスがシェフ作でも茉作でも今となってはどうでもいいが、茉があんなことを言ったことに何の意味があったんだ。

いや、よく考えたらどうでもいいことはないな。

えぬたまのオムライスはシェフ作。

そしてさっき食べたのは茉作。

そしてオレがおいしいと言ったのは茉作。

つまりはあれか?

シェフよりも私の方がおいしいオムライスを作れたということを自慢したいということか?

どれだけ負けず嫌いな性格なんだ。

でもまぁこれでさっきのオレの答えは間違っていなかったということになる。

えぬたまの方と答えていたら、メデューサの攻撃を受けていたところだった。

おっと、いけね。

オレも茉のことをメデューサと無意識に言ってしまっている。

注意しないと。

「くそー、メデューサめー、覚えてろよー」

よくわからない兄キがオレの気持ちを代弁してくれているおかげで、何とか心の中はスッキリしていた。
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