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N&N

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3.不器用で器用なあの子

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「茉はエヌマーのことはそれほど好きじゃないのか?」

「エヌマーはかわいいけど、人が描いた絵を待ち受けにしようとは思わないわよ」

まぁそうだろうな。

普通はそうだ。

でも普通じゃないのがあの2人だ。

一体どこにあのザコキャラの魅力があるのか。

2人の頭の中を覗いてみたい。

「あの2人って本当にNキャラのことばっかり言ってるのね」

茉は2人のやり取りを盗み聞きするのがバカらしくなったのか、テーブルのお皿を片付け始めた。

「いいよ。洗い物はオレがするから」

茉はオレがそう言っても動きを止めようとしない。

「食事は作って片付けるまでが1セットよ」

「そんな茉のルールはどうでもいいんだけど」

オレは腹が満たされれば良かっただけだから、後片付けくらいはしようと思っていた。

なので茉に片付けをされると否定された気になる。

「じゃあ洗うから拭いてよ。食器拭き、どれを使ったらいいかわかんないし」

「・・・わかった」

茉は自分がこうと決めたら実行しないと気が済まないタチなのだろう。

今までの行動でそれは何となくわかる。

だから茉が出してきた提案を拒否すると、きっとまたうるさくなる。

男はこうして女の言いなりになっていくんだろうな。

ってオレは茉の彼氏ってわけじゃないが。

バイトで皿洗いの経験をしている茉は、皿洗いも手際が良かった。

次々と皿が洗い上がっていく。

って言っても皿2枚とグラス2つだけだから、オレでもそれほど時間はかからない。

きっとバイトでは忙しい中で何十枚もの皿を手早く洗っていたのだろう。

オムライスの作り方もすぐマスターするし、器用なやつだ。

UFOキャッチャーの能力はびっくりするくらいないけど。

そんなことを口にしたら絶対発狂するから気をつけないと。

食器を全て拭き終わったので棚へ直そうと後ろを振り返ると、いつの間にかクスミがいた。

「うわっ」

あまりにも突然で、力が抜けて持っていた食器を慌ててつかみ直したくらいだ。

「ちょっと、失礼でしょ?そんな声出して!」

と言いながら、茉も体をビクッとさせていたのをオレは知っている。

何だよ、オレだけ悪者にしやがって。

でもそんなことお構いなしにクスミは無言でオレ達を見ている。

手にはお盆。

空っぽになったお皿とグラスがある。

「あ、食べたの?」

茉の質問にクスミはうなずいた。

心なしか喜んでいる、ように見える。

「ユノモトくんにNキャラ褒められました」

「うん、聞こえてたから知ってる。兄キの声、筒抜けだから」

「喜んでもらえて嬉しいです」

茉は黙って聞きながらクスミにお盆を渡すように促した。

クスミはお盆を渡しながらも続ける。

「一緒にNキャラのことを語りながら食べられて嬉しかったです」

「ふーん」

恋人ってのはそんなもんかね。

オレには恋人もいないし、2人が熱中しているような好きな物もないからわからないけど。

茉はさっきと同じように、手早く食器を洗ってくれた。

っていうか、クスミは普通に食器を渡しちゃうんだな。

一緒に洗います、とかじゃないのか。

鈍臭そうだから洗って割られるよりマシだが。

「オムライスの味は?何か言ってなかった?」

全ての作業を終えた茉は振り向いて言った。

茉は何もしないクスミにちょっとは怒れよ。

オレには文句ばかり言うくせに。

「あ、特に味については何も言ってなかったです」

「なーにー、あんのやろう」

「あ、でもそれはケチャップのNキャラに感動したから味のことは忘れてただけかもしれないから・・・」

そんなわけあるか。

あの半熟加減絶妙のオムライスを食べておいしいの一言すら出なかったら、そいつは人間じゃない。

でも確かに兄キが何かを食べておいしいと言ったのを聞いたことがない。

嫌いな物はないが、好きな物も特にないということか。

「でも良かったです」

クスミはNキャラが褒められたことをしきりに喜んでいる。

まぁ何はともあれ、2人が満足しているならいいか。

茉をちらっと見ると、オムライスの味の感想をもらえなかったことに怒っている、と思いきやクスミの表情を見て微笑んでいた。

茉もこれはこれでめでたしめでたしと思っているに違いない。

オレもホッと胸を撫で下ろした。
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