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3.不器用で器用なあの子

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さて、14時近くの昼食となった今、4人掛けの椅子にはオレと向かいに茉とクスミの3人。

何がどうなったらこの組み合わせで昼食を取ることになるのかわからないが、オムライスを目の前にすればどうでもいい。

早速飯だ。

「じゃあいただきます」

行儀良く手を合わせて、早速オレはオムライスを一口頬張った。

もぐもぐもぐ・・・ん~、やっぱり悔しいがこれはえぬたまのオムライスだ。

口の中に広がる味がえぬたまで食べたのと同じだ。

「やっぱりえぬたまのオムライスの味がする」

悔しまぎれにボソッとつぶやくと、茉はそんな小声も素早くキャッチした。

「だから言ってるじゃない。私が嘘ついて何の得があるのよ」

「そうは言ってもお前、人を騙したことに違いはないんだからな!そんな開き直って言うなよ」

「同じ味で出すなら誰が作っても一緒ですー」

「オレは作ったのがお前だってわかってたら500円出してなかったからな」

「いただいたものは返さないわよ」

「返して欲しくて言ってんじゃねえよ。バレないように他言するなよ」

「私、もうバイト辞めたからバレたって構わないわよ」

なーにー。

だからそんな開き直っているのか。

「何で辞めるんだよ。続ければ良かったじゃん」

「えぬたまのオムライス、自分で作れるようになったのよ?もう居続ける必要ないじゃない」

「え?」

ということは、もしかして茉はえぬたまのオムライスの作り方を盗もうとしてバイトを始めたってことか?

「お前、もしかして・・・」

オレがそう言いかけると、続きの言葉を聞かなくても何を言われるかわかったのか、茉は不気味な笑みをして見せた。

「私はね、手に入れたいと思ったものは絶対手に入れるの。手段は選ばないわよ」

「・・・オムライス、作れるようになりたかったのか」

「オムライスというか、えぬたまが人気だからそこのオムライスが作れるようになりたいと思ったのは事実ね。だって自分で作れたらいつでも食べられるじゃない」

確かに。

もしも今、えぬたまが何らかの事情で閉店したらオレはショックだが、店と同じ物を作ることができる茉は大してショックじゃないはず。

短い期間で習得できる能力があるなら、好きな店に客として行くよりも雇ってもらって店員として働く方が効率的だ。

しかし茉のような考えに至るやつが一体この世にはどれくらいいるのだろう。

少なくともオレはそんな考えなど芽生えることがない。

ご飯は作ってもらうのが1番だ。

卵を割るのが精一杯のレベルとしては。

「あら?クスミさん、食べないの?」

さっきから会話に全く入ってこないクスミをちらりと見ると、オムライスに全く手をつけていなかった。

茉が声をかけてもクスミは食べようとするどころか、兄キの分として用意されているオムライスを交互に見比べている。

これは何だ?

あっちの方がおいしそうだな、とかそういうことか?

「どっちでも好きなの食べていいぞ」

どうせ兄キはここにいないんだし。

と思ったが、そういうことではなかった。

「あの、これユノモトくんの部屋に持っていってあげてもいいですか?」

「「え?」」

茉と同時に声を上げて、同時に顔を見合わせた。

「そこまでしてあげなくてもいいんじゃない?」

「そうだよ。どうせ持っていってもゲームに夢中なんだし」

というか、兄キはこれを作ったのが茉と知ったら食べない可能性の方が高い。

かなり敵視してるし。

「一食くらい抜いたって大丈夫だよ。特に兄キはいつもうるさいくらい元気だから」

って言いながら1回熱でバタンキューになっていたことがあったけど。

「でも・・・」

「大丈夫だって。その分夜ご飯をいっぱい食べれば―――」

「そうじゃなくて」

オレの言葉をさえぎってクスミは大声を上げた。
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