second dice

N&N

文字の大きさ
上 下
27 / 73
3.不器用で器用なあの子

しおりを挟む
オレが言うのも悪いが、クスミは手際が悪かった。

料理をしたことがないと一目でわかるほどの。

オレも普段料理をすることがないし、卵を割る程度のことしかできないが、クスミはそれすらもうまくいかない状態だった。

しかし意外なのは茉だった。

茉は先ほどオレが手早く卵を割っていなかったことにすぐ痺れを切らしていたが、まだ卵を持ったままで止まっているクスミにかける声は優しい。

「クスミさん、卵を割るのはそう難しくはないわよ」

そう言うと、茉は卵を1つ取ってクスミの横に並んだ。

「ちょっと卵の持ち方がまずいわね。まずヒビを入れなきゃ割れないから私と同じように持って」

「はい」

クスミは言われるがまま、茉の言う通りにしている。

あれ?

もしかしてクスミって卵を割ったことがないのか?

オレよりも低ベルな女子がいたなんて。

「じゃあ今度は卵をかき混ぜるわよ。ボウルを少し傾けた方が混ぜやすいから私と同じように持って」

「はい」

いつの間にやら料理教室のようだ。

茉先生の言う通り、クスミ生徒はこなしている。

オレは・・・・・・放置だ。

「じゃあいよいよ焼く過程ね。これは話しながら説明してると焦げちゃうから、私が先にお手本を見せるわ」

「はい」

お手本を見せると言いながら、茉はゆっくり手順を見せる気はないようだ。

ゆっくりしていると焦げるからかもしれないが、手早く卵を焼き上げていく。

なるほど、オレが夏休みに食べていたのはどうやら茉が作ったもので間違いないようだ。

茉がわざとつけていたという印の話を聞いても信じ難かったが、今こうして茉がえぬたまのオムライスを作っていたという事実が確定されていく。

あっという間にえぬたまで提供されているのに似たオムライスが出来上がった。

「はい、完成」

「すごく上手です」

「そりゃそうよ。私、夏休みの間ずっとこのオムライス作っていたもの」

茉の話を聞いてクスミはキョトンとしている。

クスミは茉がえぬたまでバイトをしていたということを知らない。

だから普通は茉の言葉に「どうして?」と投げかけてそこから会話が弾んでいくようなものなのに、クスミから次に発せられる言葉はなかった。

クスミがクラスメイトと仲良く話している姿なんて見たことないもんな。

ガールズトークなんてものは経験がないのだろう。

しかし茉も会話が続かなかったことにはさほど気にしていないようだ。

「じゃあ今度はクスミさんの番ね」

感心しているクスミに茉は卵の入ったボウルを渡す。

いや、待て待て待て。

卵も割れないクスミが卵を焼くなんて無理だろう。

「・・・って言ってもいきなりは無理だろうから、さっきと同じことを私がするからよーく見てて」

さすがに茉もクスミのレベルの低さを理解しているから、あえて無謀な賭けには出なかった。

それを見てホッとため息が漏れる。

・・・って、オレは子を見守る親か。

茉は先ほどと同じように手早く卵を焼き上げて、あっという間にえぬたまオムライスを完成させた。

茉の早業によりあっという間に4人分のオムライスが完成した。

あぁ、オレの腹はもう限界を通り越して背中とくっつきそうだ。

「じゃあ最後にクスミさんにひと仕事」

「え?」

皿の上に乗ったオムライス。

どう見てもオレには完成しているように見えるのだが、まだ未完成なのか。

「はい。これで好きな絵を描いてね」

と言って茉が手渡したのはケチャップだった。

そうか、確かにオムライスの仕上げと言えば、ケチャップで文字なり絵なり描くことだもんな。

って、どうせ胃の中に入るのにそんな手間かけなくていい!!

「クスミ、悪いが絵を描くのはオレ以外の分にしてくれ」

オレはもうケチャップも何もなくていいから早く腹に入れたいんだ。

オレの心の内を理解してくれたのか、クスミは1つうなずくと残りの3つにだけケチャップを垂らした。

「よーし、完成ー!クスミさん、ユノモト兄を呼んできて」

「はい」

茉に促されてクスミは兄キを呼びに部屋へ向かった。

ん?

待てよ。

呼びに行くってことは、兄キも茉も一緒にここで食べるってことか!?
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

twice dice

N&N
青春
これで良かったのかなんて疑問は 他人が抱くものじゃないな

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

GIVEN〜与えられた者〜

菅田刈乃
青春
囲碁棋士になった女の子が『どこでもドア』を作るまでの話。

8年間未来人石原くん。

七部(ななべ)
青春
しがない中学2年生の石原 謙太郎(いしはら けんたろう)に、一通の手紙が机の上に届く。 「苗村と付き合ってくれ!頼む、今しかないんだ!」 と。8年後の未来の、22歳の自分が、今の、14歳の自分宛に。苗村 鈴(なえむら すず) これは、石原の8年間の恋愛のキャンバスのごく一部分の物語。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ヤマネ姫の幸福論

ふくろう
青春
秋の長野行き中央本線、特急あずさの座席に座る一組の男女。 一見、恋人同士に見えるが、これが最初で最後の二人の旅行になるかもしれない。 彼らは霧ヶ峰高原に、「森の妖精」と呼ばれる小動物の棲み家を訪ね、夢のように楽しい二日間を過ごす。 しかし、運命の時は、刻一刻と迫っていた。 主人公達の恋の行方、霧ヶ峰の生き物のお話に添えて、世界中で愛されてきた好編「幸福論」を交え、お読みいただける方に、少しでも清々しく、優しい気持ちになっていただけますよう、精一杯、書いてます! どうぞ、よろしくお願いいたします!

ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます

沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

土俵の華〜女子相撲譚〜

葉月空
青春
土俵の華は女子相撲を題材にした青春群像劇です。 相撲が好きな美月が女子大相撲の横綱になるまでの物語 でも美月は体が弱く母親には相撲を辞める様に言われるが美月は母の反対を押し切ってまで相撲を続けてる。何故、彼女は母親の意見を押し切ってまで相撲も続けるのか そして、美月は横綱になれるのか? ご意見や感想もお待ちしております。

処理中です...