twice dice

５．バカと夏風邪

４

もう帰る時間だ。

「ユノモトくん」

聞き慣れた声に顔を上げると、そこには頭に浮かんだ人物、クスミがいた。

何だか今日はよく声をかけられるな。

「何？」

「あ、あの…」

クスミは言いかけた途端、躊躇して無言になった。

な、何だこの沈黙は。

まさか朝に続いて帰りも一緒に帰ろうなんて言うんじゃないだろうな？

また変な噂が流れるぞ。

「あの、これ！！」

オレの心配はただの心配で済んだようだ。

クスミは両手の上に乗せたものをオレの前に差し出しただけだった。

それにしてもこれは何だ？

一見、Ｎキャラに見えるが…。

クスミが差し出した物を手に取ってみた。

これは正真正銘Ｎキャラだ。

ミニサイズのＮキャラマスコットだ。

指ではじいたら軽く数メートルは飛んでいきそうなくらいの小さいＮキャラだ。

「え…何これ？くれるの？」

「はい。あの…ユノモトくんに」

オレに？

え？

オレＮキャラなんて集めてないし。

でもユノモトはオレだし。

オレが変な顔をしていると、クスミは慌てて言葉を付け加えた。

「あ、あの家で寝ているユノモトくんに渡して下さい」

「あ、あぁ。兄キか」

何だ、兄キの方か。

そうだよな、普通に考えたらそうだ。

Ｎキャラを好きなのは兄キだし。

しかし同じ名字だと呼ばれた時にややこしい。

「これ、貰ってもいいの？クスミもＮキャラ好きなんでしょ？」

「はい。好きですけど、お見舞いに」

お見舞い品にＮキャラってどうなの？

ま、兄キは喜ぶかもしれないけど。

「前お世話になったのに、あれ以来たいしたお礼もできてないし、ずっと気になってて」

「お世話に…って、オレたちが世話になったんじゃん。礼を言うのはこっちの方だよ」

「でも誘ってもらったわけですし…」

何なの？

その考え方。

オレたちがお願いしてゲームセンターに来てもらってＮキャラを取ってもらったのに。

なのにクスミの方が礼を言うなんて…。

絶対クスミの解釈の仕方は間違ってるよな。

「これ、実は私がＵＦＯキャッチャーで取った初めてのＮキャラなんです」

「おいおい、そんな思い出深いもの受け取れないよ」

「いえ、いいんです」

何でいいんだよ。

意味わかんないし。

女って記念の物とか、そういうの大事にするんだろ？

取っておかなくていいのかよ。

貰った後で返して欲しいと言われても、兄キは頑固だから一回貰った物は返さないよ、アッカンベーとか言って絶対返さないぞ？

「ユノモトくんがＮキャラ好きであることはとてもよくわかりましたし、私以上に大切にしてくれると思います」

だからオレはＮキャラなんて…って、兄キの方か。

同じことを二回も…オレ、疲れてんのかな？

兄キはいつも兄キって呼ばれていて、名字で呼ばれるのはオレの方がダントツに多いからややこしいんだよ。