twice dice

１．噂のクラスメイト

５

「お、終わった…」

「兄キ、そんな世界が終わったような顔するの、やめてくれよ」

兄キは軽く涙目になっていて、透明のガラスケースに入っているＮキャラをずっと見ている。

「だって、取れなかったんだぜ？」

「だからって世界が終わるわけじゃないだろ」

「うっ、うっ…」

どんなに慰めてもオレの言葉は兄キに届かないようだ。

「こんなにすぐそばにいるのに届かないなんて、切なくて胸が張り裂けそうだ」

「兄キ、言ってるセリフはロマンチックなのに、対象がＮキャラなだけにドン引きだ」

Ｎキャラの何がそんなにいいのかオレには理解できない。

一度魅力とやらを語ってもらったことがあるが、長すぎて最後辺りは何を言っていたか覚えていない。

簡単にまとめたら、あの無表情の顔がいいとか、そういう理由だったのだが。

「なぁ兄キ。ここで取れなくてもきっとネットオークションに出品されてるよ。それを買えば…」

我ながら短い時間でいいアイデアを思いついたと思ったのだが、兄キはなぜか怒り出してしまった。

「バカ！！」

バカ！？

せっかくいいアイデアを出したのに、なぜかバカ扱いされてしまった。

「ネットで手に入れるのとここで手に入れるのを一緒にするな！欲しい物こそ苦労して手に入れるべきなんだ！」

「な、何で…」

「そうした方が嬉しさセレブ級だろ」

「！？」

セレブ級というランクはイマイチよくわからないが、兄キにとっては欲しい物を楽して手に入れることが気に入らないようだ。

苦労して手に入れた方が嬉しさ倍増というのはよくわかるが、Ｎキャラみたいなザコキャラにそれほど熱を入れるのはどうかと思う。

ま、オレも欲しい物なら多少値が張っても仕方がないと思うし、それと似たような意味だろうな。

「しかし悔しいな。あともうちょっとだったのに」

兄キはＵＦＯキャッチャーを見ながら今さっきの状況を回想している。

「もうちょっと、なんてもんじゃなかったような気がするぞ。第一全然かすってなかったし」

しかし兄キの耳にオレの言葉は届かない。

一体兄キの頭の中でさっきの失敗はどう美化されているのか見てみたい。

「あー、何としてもこのＵＦＯキャッチャーから手に入れたいなぁ」

「そうするには実力をつけるしかないな」

「ここに知り合いが働いてたらいいのになー」

突然兄キは意表を突くようなことを言い出した。

「何で知り合いがいるといいんだ？」

「だって知り合いがいたらこっそり貰えるかもしれないだろ」

何言ってんだ。

さっきのセリフが矛盾しまくりだぞ。