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声をかけられた時、私は手に財布を持っていた。

もちろんこれは鞄に戻そうとしていたところ。

だけど今、その瞬間を目撃した人にとってそんな状況はわからない。

2人にとって私は、ただ金目のものを探しているようにしか見えていなかったと思う。

「とりあえず事情を聞くわ。財布は元に戻して」

さすがというか、副会長は生徒会をしているだけあって冷静さを保っていた。

でも遅かったわ。

私は突然のことで体が動かなかったし、放送や呼びかけで学級委員もぞろぞろとやってきてしまった。

私はどこから見ても盗みを働いているようにしか見えなくて、ついには先生にも目撃されて職員室に連れて行かれてしまったの。

今までに私、言っていたかしら?

私が通っていた学校は進学校だったってこと。

オマケに私立だったのよね。

進学率90%と定評のある学校にとって、スキャンダルなニュースはご法度。

だから私のこの事件は警察に突き出されるようなことはなく、内密に処分が下されたわ。

退学、というもっとも重い処分が。

仕方がなかったと言えばそうだし、むしろこれで安心だったかも。

1度汚点を見られた以上、今までと同じ生活は望めないしね。

彼の前にも姿をさらけ出せないわ。

結局私が職員室に連れて行かれるまで彼には会わなかった。

というか、彼が放送をかける為に教室を出て行って以来、彼の姿を見ていないの。

私が最後に見たのは彼ではなく、折り畳み傘だったっていうのが皮肉よね。

最後まで憎かったわ。
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