いっぽ

第２話

５

女性の手元に目をやると、指輪が付いている事に気がついた。

左手の薬指、それは結婚指輪かペアリングを意味していると思われる。

女性は誰か付き合っている人がいるのだろうか？

それとも既婚者なのだろうか？

しかし昨日は付いていなかったような気もする。

「結婚してるんですか？」

「え？あ、これですか？」

指輪に目を移しながら、女性は答える。

突然のプライベートな質問に、気を悪くしてはいないようだ。

「結婚はしていません。ついでながら、お付き合いしている方もいません」

僕は一瞬、その言葉の意味が理解できなかった。

恋人がいないのに、薬指に指輪？

「ただ、自分の決心で付けているだけです」

そう付け加えられても、やっぱりまだ意味がわからなかった。

「高校の頃、すごく好きな人がいました。これは偶然その彼と再会し、彼以外の人には振り向かないという意味でつけました」

「あ、そうなんですか」

「はい。卒業してもまだ想っているなんて、未練がましいですね」

「そ、そんな事ないと思います。きっとそれだけ想いが本当だったって事ですよ」

女性が何だか悲しそうに語るから、僕は必死に言葉を考えた。

その言葉が女性に喜んでもらえる結果になるかどうかはわからなかったけど、女性が微笑んだのを見て、僕はホッと溜息が漏れた。

「あなたのおかげです」

「え？」

僕のおかげ？

『Ｎ駅ー、Ｎ駅です。お忘れ物のございませんよう、お降り下さい』

話の途中で、Ｎ駅到着のアナウンスが流れた。