*いにしえのコトノハ*5 匿名ごっこ

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紙にはたった一言

『どういたしまして』

だけ書かれていた。

「何よー、ちゃんと返事来てるじゃないのー。これ、うみちゃんからでしょ?」

「わからないよ。今気づいたんだし」

「いやいやうみちゃんから以外に考えられないでしょう」

それはそうなんだけど。

本当に突然すぎて驚いてしまった。

きっとうみちゃんも僕のふせんを見た当初、同じように驚いたに違いない。

「どういたしまして、だって。やっぱりうみちゃんが拾い主だったのね」

「うん」

「こうやって返事が来るってことは、うみちゃんもあのふせんがこうたからだってわかってたのね」

「うん」

良かった。

拾い主がうみちゃんで。

良かった。

うみちゃんとなっちゃんが仲直りできて。

この『どういたしまして』がどっちのメッセージに対してなのか、あるいは両方に対してなのか、それはわからないけど。

でもお互いの気持ちがちゃんと伝わったのは事実だ。

心の声か・・・。

姉ちゃんの言っていたことが何となくわかってきた気がする。

「姉ちゃん、ふせんちょうだい」

僕が姉ちゃんにふせんを催促すると、パッと顔を輝かせた。

「あらー、あらあら!うみちゃんにメッセージ書くの?何?何て書くつもり!?」

ふせんを取り出しながらすっかり上機嫌になった姉ちゃんは、僕に体当たりしながら聞いてくる。

でも僕はそんな姉ちゃんに笑って言った。

「そんなの言わないよ。だって口に出せない一言用だから。ふせんってそういうものでしょ?」

ねえちゃんがふせんをくれる時に言っていた言葉だ。

それを伝えると、姉ちゃんは仕方ないという感じで黙り込み、僕に1枚ふせんをくれた。

僕はそのふせんを受け取ると、丁寧な字で書き込んだ。

うみちゃんに伝わりますように。

この気持ちが届きますように。

一字一字、想いを込めて。
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