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うみちゃんは6年生の時、同じクラスだったから僕とけいすけの関係も知っている。

宝物の交換をしたのは、けいすけがみんなの前で別れの挨拶をした直後。

僕はその物の交換をしながら号泣してしまったから、同じクラスだった人にその光景を印象づけてしまった。

うみちゃんももちろんその光景を見ている。

だから僕が鞄に付けているこのキーホルダーがあの時の物だとすぐにわかったのだろう。

「親切な人が拾ってくれたんだ」

僕は河口先生に教えてもらった通りの回答をうみちゃんに返した。

「親切な人って?」

「わからない。内緒だって言われた」

「何それ」

ふふっとうみちゃんが笑みをこぼす。

少しおとなしいうみちゃんは大声で笑うことはなく、遠慮がちに笑う。

それが女子っていう感じがして好ましい。

それっきり会話が止まってしまった僕は

「じゃあ、またね」

とまた同じことを言って、今度こそ玄関を出た。

1人になったところで改めてキーホルダーのことを思う。

間違ってごみ箱に入れられていたとは言え、捨てられる前に見つかって本当に良かった。

教室のごみ箱はごみの量が日によって異なるし、簡単に見つかったならきっとごみが山のようになっていて、その上に捨て置かれていたのが濃厚かも。

本当、捨てられる前で良かった。

改めて親切な誰かさん、ありがとう。

中学に入学してからずっと鞄に付けたままのキーホルダーだけど、雨風にさらされているから新品には到底見えない。

けいすけから貰った時点で既に買ってから何年か経っているし。

他人にとっては少し薄汚れたごみとして扱われるのは仕方ないけど、これを無くしてしまったらけいすけとの想い出も少し欠けてしまうかもしれない。

日常で忘れてしまいがちな親友のことをこのキーホルダーがかろうじて思い出させてくれる。

僕にとって大事な物なんだ。

そんなキーホルダーをギュッと握り締めて、僕は家路に着いた。
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