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六章 時が過ぎても変わらないもの

窮地

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「隊長! そちらに加勢しましょうか!?」
「余計なお世話だ! お前等陣形崩したら承知しねぇぞ!」
 古城とその周辺は今や中級悪魔の大群に完全に飲み込まれていた。その東側にて悪魔と応戦する彼らはお互いの背を守るように一つに固まり、守備重視で陣形を組んでいる。だが成り行きで隊長とワモルはその島から離れ、二人で応戦していた。
「へへ、了解です。槍士の兄貴、うちの隊長よろしく頼んます!」
 隊長を含め、兵士達もたった数十分前まで敵対していた者と共闘することになんら抵抗を持っていないようだ。ワモルは早くも仲間のような扱いを受けていた。軍兵として有るまじき行為だろうが、彼らに信頼されること自体に悪い気はしない。そして任された以上、守り通さなければ親衛隊士の名折れというものだ。
「あんのやろぉ……」
 片腕を負傷したにも関わらず、その戦闘力は衰えることを知らないようだ。おまけに油断できないこの状況で隊士達を常に気にかけている。先程身を呈して隊士を守ったことといい、何故彼らがこの男についていくのか、ワモルは解る気がした。
「これじゃあ埒が明かねぇな」
 軽く五万は超える数を前に、こちらは既に体力を消耗している。厳しい局面だ。
「おい、何か手はないのか?」
「あるにはある。あいつらが戻ってくれば……」
「あいつら?」
 この大群を武力だけで相手するには限界がある。この状況を打開するには、彼らの力が絶対必要だ。
 その時、南側から聞き慣れた咆哮が轟いた。その獣に乗って、少女がこちらへやってくる。
「――ワモルっ!」
「アズミ。無事だったか」
「ワモルこそ大事ないようで」
 手早い確認。これは軍で染み付いたものだが長年の信頼にもよる。
「大変なことになりましたね」
「原因はなんだ?」
 元々古城のような人気のない場所には魔界との穴が生じやすい。その上、太陽の消滅した現在は闇の力が最高潮に達している。そのためこちらの世界に中級悪魔が迷い込んで来るのも不思議ではないが、この事態はいくらなんでも異常だ。
「おそらく、わたしがマグダラを喚んだことで魔界の境目が一層緩んでしまったんだと思います。それから、詳しくは分かりませんが、東塔の最上階に光の力が集まっていました。悪魔達が興奮しているのはそれに刺激されたからかと」
 魔導士のアズミと十二中隊が加勢してくれたおかげで窮地は脱したが、この戦況を打破するにはまだ戦力不足だ。このまま逃亡することは可能だろうが現実的ではない。現世に来てしまった悪魔達が自力で魔界に戻ることは出来ないため、逃がしてしまえばそれこそグリームランドの危機となる。それにジンレイ達もまだ城の中だ。
 逃げることも、逃がすことも出来ない状況で、緊迫感だけが高まっていく。
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