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六章 時が過ぎても変わらないもの

槍を選んだのは

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 既に三十分は経っただろうか。しかしこの場に居合わせた兵士達の中に正確な時間が分かる者はいない。時間感覚などとうに麻痺してしまっていた。
 隊長と一槍士による攻防戦は永遠に続くのではないかと思われた。少なくとも開始十分の時点では、これは武人という皮を被った化け物達の戦いなのだと思わずにはいられなかった。だがそれも、彼らが肩で息をし始めたことで妄想だったと気付かされる。
 槍士が魔法を撃った。隊長はすかさず後退してやり過ごす。
「すげぇな、あいつ出来るぞ」
 激しい接近戦の中で魔法を用いた、彼の集中力と精神力に、一人の兵士が称賛の声を上げる。
「こらこら。立場上、その発言はまずいんじゃない?」
「あ、失礼しました」
「軍師殿に聞かれてたらクビどころじゃ済まねぇぜってね」
 隊長が耳聡く外野に言った。一間置いて、再び鋭利な軌跡が交差する。
「ひゅう。しぶといねぇー……。感心しちゃうわ」
「……お互い様だ」
 洞察力の高い者には、疲弊した双方の間にも差があることが見破れるだろう。隊長よりも、敵である槍士の方にやや余裕がある。それは第三者よりも当人同士の方がよく分かっているだろうが。
「こういうの慣れてる感じ? 疲労感を表に出さないってのは、そう簡単に身に付くもんじゃない。相当の鍛錬積んでるんだろ?」
「時たまやり合うだけだ。鍛錬なんてほどじゃない。お遊びだよ」
 とは言え、打ち合う二人の動きには全く変化がなかった。ぶつかり合う回数こそ若干減りこうして雑談が入り込むようになったが、ぶつかり合う際の俊敏な武器捌きといい、反応の素早さといい、鈍った様子は一切見受けられない。
「ただ……」
「ただ?」
「――こんなもんじゃないけどな」
 その刹那、隊長が上段から戦斧を振り落とした。ワモルはこの攻防戦の一撃目を受けた時と同じようにそれを防ぐ。
「……っ、へぇ……。言ってくれるねぇ……」
「本当のことだ」
 そしてまた、ワモルが大きく踏み込んで振り払う。しかし疲労のためか、それとも彼の言葉が気になってか、隊長は取った距離をすぐ詰めようとはしなかった。
「俺より上の野郎がいるってか……?」
 彼は眉間に皺を寄せ、怒りのような苦笑のような、微妙な表情を浮かべる。これほどの強さを持っているのだ。少なからず己の実力に矜持を持っていたのかもしれない。
「俺は剣を握らない。なんでか分かるか?」
 敵に語るのは性分ではないが、これだけは言ってやりたいと思った。
 ワモルが唯一その武器では勝利を奪えない、彼のことを。
「剣じゃに勝てないからだよ」
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