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六章 時が過ぎても変わらないもの
強くなろう、みんなで
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彼女の言葉はとても重かった。その時心に刺さった大きな針が、いつまでも鈍い痛みを伴って幼い自分達の心に留まり続けた。
幼い頭で理解出来たのはたった三つ。ユリエナが死ぬかもしれないこと。その死は大勢の人を救うものであること。そして世界中がその死を見て見ぬ振りをしていることだった。
現実とはこんなにも残酷なものだっただろうか。無慈悲なものだっただろうか。
……出来れば、ずっと知らずにいたかった。こんな息苦しい気持ちを抱えることになるくらいなら。
あの日からずっと心ここにあらずといった様子で意気消沈していた五人。
いや、四人だった。除外した一人は今この場にいない。
彼は今頃、家の裏手で剣を振り回していることだろう。彼はあの翌日には普段の調子に戻っていた。ひょっとして彼は何も理解していないのではないかと最初は疑った。
しかし昨日の放課後、ご先祖様の形見を使いこなそうと鍛練しているところを偶然見つけて。その真剣な、今までに見たことのない真剣な彼の姿を見て、彼は既に現実を受け止め、立ち向かおうと足掻いていることを知った。
「ねぇ、あたし達はこのままでいいの?」
リンファが言う。そこにはまだ微かな迷いがあった。
そう問われて他の三人は、しばしの沈黙の後、胸中を打ち明けた。
「ジンレイだけ先へ行ってしまうようで……寂しい、です」
「まずはやれることやってみないと、何も変わらないもんな」
「オイラもとことん向き合ってみるっス。自分に出来ることってやつ、探したいっスから」
それは何日ぶりの笑顔だっただろう。四人は淡く儚いけれど、その決意と共に微笑んだ。
あたし達も負けていられない。
あいつと張れるくらい、強くなろう――。
***
幼い頭で理解出来たのはたった三つ。ユリエナが死ぬかもしれないこと。その死は大勢の人を救うものであること。そして世界中がその死を見て見ぬ振りをしていることだった。
現実とはこんなにも残酷なものだっただろうか。無慈悲なものだっただろうか。
……出来れば、ずっと知らずにいたかった。こんな息苦しい気持ちを抱えることになるくらいなら。
あの日からずっと心ここにあらずといった様子で意気消沈していた五人。
いや、四人だった。除外した一人は今この場にいない。
彼は今頃、家の裏手で剣を振り回していることだろう。彼はあの翌日には普段の調子に戻っていた。ひょっとして彼は何も理解していないのではないかと最初は疑った。
しかし昨日の放課後、ご先祖様の形見を使いこなそうと鍛練しているところを偶然見つけて。その真剣な、今までに見たことのない真剣な彼の姿を見て、彼は既に現実を受け止め、立ち向かおうと足掻いていることを知った。
「ねぇ、あたし達はこのままでいいの?」
リンファが言う。そこにはまだ微かな迷いがあった。
そう問われて他の三人は、しばしの沈黙の後、胸中を打ち明けた。
「ジンレイだけ先へ行ってしまうようで……寂しい、です」
「まずはやれることやってみないと、何も変わらないもんな」
「オイラもとことん向き合ってみるっス。自分に出来ることってやつ、探したいっスから」
それは何日ぶりの笑顔だっただろう。四人は淡く儚いけれど、その決意と共に微笑んだ。
あたし達も負けていられない。
あいつと張れるくらい、強くなろう――。
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