上 下
25 / 86
三章 破滅と誕生の象徴たる塔

破滅と誕生の象徴たる塔

しおりを挟む
 入口付近に密集している敵兵や、時には勘違いで攻撃してくるフォルセス国軍兵もうまく受け流しながら、道をこじ開けて太陽神殿の内部に入り込んだ。
 派手な魔法が飛ばない分外ほど激化してはいないが、神殿内部は人が過密しているため同志討ちなどの危険性も高い。仲間に任せた背後も安全は保障できない状態だ。
 太陽神殿に入り込んだものの、肝心の黄昏塔への行き方が分からずジンレイは足を止めた。この神殿自体が広すぎる上に、軍兵達が邪魔で通路らしき所も見つけられない。そうして周囲に気を散らしているうちに敵兵が背後から襲いかかってきた。
「んだよ、もう!」
 振り向き様剣と剣がぶつかり合い、甲高い金属音を立てる。想定より重い衝撃に、ジンレイは止むを得ず守備に徹した。
「なんだ貴様。フォルセス国軍の者じゃないようだが」
 それもそのはずで、敵兵はジンレイより二回り大きい体格をしていた。
「なんでもいいだろ……っての!」
 だが、ジンレイも負けたものではない。
 身体を一気に屈めて男の剣を右に流す。男が構え直す前に素早く剣を引き、回転の反動を利用して懐に斬り込んだ。
 男は倒れ、対照的にジンレイが立ち上がる。呼吸を整え、再度周囲を見回そうとした。
 その直後、背後に迫った別の気配を感じた。ジンレイはとっさに振り返る。だが無防備な背中をとられた上に、剣先が届く距離まで侵入を許してしまうと、初撃を防ぐのはほぼ不可能だ。反射的に目を瞑る。
 しかし、攻撃は来なかった。
 正確には、ジンレイが目を瞑った直後まで敵兵は確かに彼を狙っていた。だが突然事切れて白目をむき、ジンレイの横に倒れ込んだのだ。
「……?」
 訳が分からず、そいつが立っていた正面を見やった。するとそこには、『先に行っている』とアズミに伝言を頼んだその人がいた。
「背中とられるなんて、らしくないぞ」
「ワモル!」
 キルヤは言った。リンファはユリエナを追いかけようと誘いに来た、と。つまりその時ジンレイには断るという選択肢もあったのだ。
 なのにワモルは信じてくれていた。たとえジンレイが逡巡しようと必ず最後には決断して追いかけて来ることを。
「やっと来たか」
「――ああ。遅くなった」
 左手の拳をこつっとぶつけ合う。握手よりは粗雑で、ハイタッチほどの小気味好い音もない。けれどこれが、二人があった時に決まってする挨拶だった。
「こっちだ」
 ワモルは、ジンレイが所有する直刃の中剣とは異なり、長柄で細刃の武器――槍を扱う。『切る』より『突く』動作に特化した得物の特長を存分に活かし、円舞の如く巧みに操って雄々しく道を切り開いていった。
「ワモル、確か親衛隊と一緒に来たんだろ? 一人で戦ってたのか?」
「いや、隊長の命令で他の隊士と外にいた。けどま、これだけ乱戦になれば持ち場も何も関係ないしな」
 その上国王から単独行動の許可も下りている。割り当てられた地点で守備に徹していたが、ジンレイ達が崖の上を走って来るのを確認し、単独で突っ込んでいったジンレイの後を追ってきたらしい。
「今度は後ろ、頼む」
 ワモルが背中を向けたまま言う。表情は分からないが、声が少し笑っていた。
「わかってるよ!」
 ワモルとの間隔を一定に保ちながら、ジンレイは背後から来る敵を全て撃退する。とは言っても、前方は勿論、左右から襲ってくる敵もまとめてワモルが薙ぎ倒してしまうので、この分担はむしろ物足りないくらいだったが。
「階段……?」
 太陽神殿の奥に進み、運良く兵士達が途切れた先には、超長距離の螺旋階段が続いていた。ちらっと上を覗いてみるが、何重にも弧を描く階段と階段の隙間は遥か上空ですぼみ、完全に見えなくなっている。思わず口が開いてしまう高さだ。
「書類の記載だと三、四キロだそうだ」
「キロ!? まじかよ」
「――行けるか?」
 どこか兄貴めいた口調と笑み。
 それは学修院時代からずっと、ジンレイが二の足を踏んだ時に喝を入れてくれた言葉。気遣いの言葉の裏には、背中を押してくれるような、それでいてどこか挑発的な激励が籠められている。
 昔に戻ったような気がした。なんだか嬉しくなってジンレイもまた昔と同じ言葉で返した。
「――上等っ!」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

さよなら、英雄になった旦那様~ただ祈るだけの役立たずの妻のはずでしたが…~

遠雷
恋愛
【本編完結】戦地から戻り、聖剣を得て聖騎士として英雄になった夫エリオットから、帰還早々に妻であるフローラに突き付けられた離縁状。 戦場で傍に寄り添い、その活躍により周囲から聖女と呼ばれるようになった女性エミリーを、彼は愛してしまったのだと告げる。安全な王都に暮らし日々祈るばかりだったフローラは、居場所を失くしてしまった。 反論も無く粛々と離縁を受け入れ、フローラは王都から姿を消した。 その日を境に、エリオットの周囲では異変が起こり始める。 一方でフローラは旅路で一風変わった人々と出会い、祝福を知る。 ―――――――――――――――――――― ※2025.1.5追記 11月に本編完結した際に、完結の設定をし忘れておりまして、 今ごろなのですが完結に変更しました。すみません…! 近々後日談の更新を開始予定なので、その際にはまた解除となりますが、 本日付けで一端完結で登録させていただいております ※ファンタジー要素強め、やや群像劇寄り たくさんの感想をありがとうございます。全てに返信は出来ておりませんが、大切に読ませていただいております!

ここが伝説の迷宮ですか? いいえ、魔物の集合住宅です

ムク文鳥
ファンタジー
 魔界に存在するたくさんの魔物が暮らす集合住宅(アパート)、ヘルヘイム荘。  そのヘルヘイム荘のオーナー兼管理人である「大家さん」の悩みは、時々人間界から、ここを「伝説の迷宮(ダンジョン)」だと間違えて、冒険者たちが紛れ込んでくること。  大家さんが時に冒険者たちを返り討ちにし、時にアパートの住人たちと交流するほのぼのストーリー。

メルレールの英雄-クオン編-前編

朱璃 翼
ファンタジー
月神を失って3000年ーー魂は巡り蘇る。 失われた月神の魂は再び戻り、世界の危機に覚醒するだろう。 バルスデ王国の最年少騎士団長クオン・メイ・シリウスはある日、不思議な夢を見るようになる。次第に夢は苦しめる存在となりーーーー。 ※ノベルアップ+、小説家になろう、カクヨム同時掲載。

ゴブリンに棍棒で頭を殴られた蛇モンスターは前世の記憶を取り戻す。すぐ死ぬのも癪なので頑張ってたら何か大変な事になったっぽい

竹井ゴールド
ファンタジー
ゴブリンに攻撃された哀れな蛇モンスターのこのオレは、ダメージのショックで蛇生辰巳だった時の前世の記憶を取り戻す。 あれ、オレ、いつ死んだんだ? 別にトラックにひかれてないんだけど? 普通に眠っただけだよな? ってか、モンスターに転生って? それも蛇って。 オレ、前世で何にも悪い事してないでしょ。 そもそも高校生だったんだから。 断固やり直しを要求するっ! モンスターに転生するにしても、せめて悪魔とか魔神といった人型にしてくれよな〜。 蛇って。 あ〜あ、テンションがダダ下がりなんだけど〜。 ってか、さっきからこのゴブリン、攻撃しやがって。 オレは何もしてないだろうが。 とりあえずおまえは倒すぞ。 ってな感じで、すぐに死ぬのも癪だから頑張ったら、どんどん大変な事になっていき・・・

こんな姿になってしまった僕は、愛する君と別れる事を決めたんだ

五珠 izumi
恋愛
僕たちは仲の良い婚約者だった。 他人の婚約破棄の話を聞いても自分達には無縁だと思っていた。 まさか自分の口からそれを言わなければならない日が来るとは思わずに… ※ 設定はゆるいです。

願いの守護獣 チートなもふもふに転生したからには全力でペットになりたい

戌葉
ファンタジー
気付くと、もふもふに生まれ変わって、誰もいない森の雪の上に寝ていた。 人恋しさに森を出て、途中で魔物に間違われたりもしたけど、馬に助けられ騎士に保護してもらえた。正体はオレ自身でも分からないし、チートな魔法もまだ上手く使いこなせないけど、全力で可愛く頑張るのでペットとして飼ってください! チートな魔法のせいで狙われたり、自分でも分かっていなかった正体のおかげでとんでもないことに巻き込まれちゃったりするけど、オレが目指すのはぐーたらペット生活だ!! ※「1-7」で正体が判明します。「精霊の愛し子編」や番外編、「美食の守護獣」ではすでに正体が分かっていますので、お気を付けください。 番外編「美食の守護獣 ~チートなもふもふに転生したからには全力で食い倒れたい」 「冒険者編」と「精霊の愛し子編」の間の食い倒れツアーのお話です。 https://www.alphapolis.co.jp/novel/2227451/394680824

豪華地下室チートで異世界救済!〜僕の地下室がみんなの憩いの場になるまで〜

自来也
ファンタジー
カクヨム、なろうで150万PV達成! 理想の家の完成を目前に異世界に転移してしまったごく普通のサラリーマンの翔(しょう)。転移先で手にしたスキルは、なんと「地下室作成」!? 戦闘スキルでも、魔法の才能でもないただの「地下室作り」 これが翔の望んだ力だった。 スキルが成長するにつれて移動可能、豪華な浴室、ナイトプール、釣り堀、ゴーカート、ゲーセンなどなどあらゆる物の配置が可能に!? ある時は瀕死の冒険者を助け、ある時は獣人を招待し、翔の理想の地下室はいつのまにか隠れた憩いの場になっていく。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しております。

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!

ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。 退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた! 私を陥れようとする兄から逃れ、 不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。 逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋? 異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。 この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

処理中です...