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一章 光の代償
灰色の空
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小走りで門へと向かう。その手前に小型戦車が数台止まっており、同行する兵士達が待機していた。
「お待たせしました!」
一時間後に戻ると言っておきながら三十分も過ぎてしまった。途中から気が急いで走り出したわけだが、待機していた兵士達は特に咎めることもなく。淡々と出発の最終点検に取りかかった。
その片隅で小型戦車に身体を預けて佇立している青年が、こちらに気付いて顔を上げた。ユリエナも笑い掛ける。
「ワモル、お待たせ」
年齢は十七と成人には満たないが、長身の体躯は大人に負けず劣らず鍛え上げられている。それに切れ長の双眸が相俟って、まさに武人といった風情と威圧感を醸し出していた。
「会えたか?」
落ち着き払った男声が一言尋ねる。
「うん。久しぶりだからまだまだ話し足りなかったけど、……でもちゃんとお別れ言えた」
「そうか」
「これで、よかったんだよね」
泣き笑いのような表情で俯くユリエナ。それはワモルに同意を求めるというより、自分自身に言い聞かせているように見えた。
「姫様! すみませんが少しよろしいですか」
「あっ、はい! 今行きます!」
ぱっと明るい顔に戻って、兵士の方へ駆けて行く。残されたワモルは口を閉ざしたまま天穹を見上げた。空はまるで自分達の心を映し出しているかのように、どんよりと灰色に覆われている。
「……あれから二年、か」
「お待たせしました!」
一時間後に戻ると言っておきながら三十分も過ぎてしまった。途中から気が急いで走り出したわけだが、待機していた兵士達は特に咎めることもなく。淡々と出発の最終点検に取りかかった。
その片隅で小型戦車に身体を預けて佇立している青年が、こちらに気付いて顔を上げた。ユリエナも笑い掛ける。
「ワモル、お待たせ」
年齢は十七と成人には満たないが、長身の体躯は大人に負けず劣らず鍛え上げられている。それに切れ長の双眸が相俟って、まさに武人といった風情と威圧感を醸し出していた。
「会えたか?」
落ち着き払った男声が一言尋ねる。
「うん。久しぶりだからまだまだ話し足りなかったけど、……でもちゃんとお別れ言えた」
「そうか」
「これで、よかったんだよね」
泣き笑いのような表情で俯くユリエナ。それはワモルに同意を求めるというより、自分自身に言い聞かせているように見えた。
「姫様! すみませんが少しよろしいですか」
「あっ、はい! 今行きます!」
ぱっと明るい顔に戻って、兵士の方へ駆けて行く。残されたワモルは口を閉ざしたまま天穹を見上げた。空はまるで自分達の心を映し出しているかのように、どんよりと灰色に覆われている。
「……あれから二年、か」
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