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24(阿部said)
しおりを挟む栗原徹と出会ったのは高校性の時だった。たまたま同じクラスになったのがあいつと話すきっかけだ。
人当たりがよく先生や周りのクラスメイトからも人望が厚くて。対して俺は、昔から目つきが悪く人相が悪い。しかも栗原と違い、猫を被ることもなかった。だから最初見たときは絶対にこいつとは馬が合わねぇって思っていた。
そうして接点もないはずだった俺たちが、どうして今のような友人になったのか。
「ねぇ、阿部君…だよね?先生がノート出せって言ってたよ。」
それは俺があまりにも提出物を出さなかったから。そして人当たりのいい栗原が、教師からの頼みで俺に注意してきたのだ。
ーー都合のいいように使われてこいつも大変だなぁ
「へいへい、出すよ。」
そう俺がだるそうに言うと、栗原は「じゃあ最初からさっさと出せよ」と文句を言わんばかりのイラついた顔になった。その瞬間を見逃さなかった。
あ、こいつ猫かぶってんだな。
不思議といやな気持じゃなかった。こいつも人間なんだなって安心したぐらいだった。
それから俺は栗原に話しかけた。
「また、あいつらから頼み事かよ」
「まぁ、俺以外やってくれそうな人なんかいないからね」
話していくうちに栗原は俺に素を出すようになっていった。
めんどくさいときは俺にだけ聞こえるように、舌打ちしてみたり。
顔をしかめてみたり。
小声で悪口を言ってみたり。
ーーあぁー、こいつ思ったより腹黒だな
意外と腹黒な栗原は俺以外の前だと、まるで本心を出さない。本当にただ人形のような男になる。そしてかなり女子から人気だった。嫌な顔一つせず、文句も言わず、優しく微笑む姿がかっこいいんだとよ。
「また女子から告白された」
何万回目かってくらいされたその報告。でも絶対に付き合うことはない。
「またって…お前が勘違いさせるような言動ばっかするからだろうが」
「いや、俺はただ普通に接してるだけだろ。勝手に勘違いするのはあっちなんだよ」
大学2年生。このくらいなら普通は彼女ほしい、酒飲みたいしか言わない。医学生なんて、割と遊び惚けてるやつしかいないのに。
ーーまぁお前はそういうやつだよな
そんな誰にでも優しくて完璧な男は、お手本のように完璧な医者になった。
でもそれはあくまで仕事だから。完璧を求められるから。それ以上でもそれ以下でもないのだ。
しかし、あいつは変わった。稲場翔太に出会ってから。
ガラガラと診察室の扉を開け、椅子に座る。そして稲場翔太のカルテをとり、診察をする。
「はぁ、とりあえずあそこでもめてた理由から聞こうかな」
「いや!別にもめてないし!」
栗原がはっとしたような表情で訂正する。
「馬鹿が、お前。あれは誰がどう見てももめてんだよ。なぁ、稲場さん?」
阿部が翔太に問いかけると、翔太は困ったように笑った。
「先生は本当に悪くないんだよ。ただ俺が考えすぎちゃっただけなんだ」
申し訳なさそうな声で話す翔太。膝の上で握られてた拳に少し力が入っている。
これ以上聞いたら翔太のストレスになる。そう思い阿部は話を変えた。
「ーまぁ診察に戻りますが、ここ1週間調子はどうですか?だいぶ通院にも慣れたように見えますが」
そう、最初は病院の中を歩くだけでも大変だった。すれ違う人全てに怯える。少し肌が接触しただけでトラウマのフラッシュバック。そしてエレベーター、診察室などの密室での過呼吸。
「はい、だいぶ慣れました!」
そう言う翔太の顔には少し笑顔が見えた。
「でもやっぱり⋯」
言いにくそうに翔太は続けた。肩は少し震えている。
「大学に居ずらくて⋯誰も俺のことは知らないって分かってても、人が多いしその分怖くなっちゃうんです⋯」
でも単位を取るために毎回休まず授業は出ている。と翔太は言った。
ーー大学かぁ⋯
さすがに大学の中でまでこちらで面倒は見れない。でも大学での環境が稲場さんのストレスとなっているのは、今の言葉で分かる。
そもそも精神病を患っている学生が、しっかりと大学に通う方が珍しい。大体の学生は学校に通えなくなり、休学あるいは自主退学をしている。でも今の稲場さんを見ている限り、休学や退学をする気配はない。
「うん、そうなんだね」
阿部はできる限り優しい声で翔太に問いかける。
「大学を休学して治療するっていう方法もあるんだけど、稲場さんは考えたりするかな?」
大学を休学するという選択は、きっと翔太にとって良い結果を招くだろう。それは分かっている。ただ、頑張って通っている翔太に対して、安易に大学を休学しろなんて言えない。
だから阿部は翔太の意見を尊重しようとしていた。
「休学⋯ですか?」
翔太は目を丸くし、まるで時が止まったかのように硬直した。
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自分で読みたくなったからまた頑張ってかきます> ̫ <👍🏻
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