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しおりを挟む「うぁあああああぁあああ」
全てが怖い。何でこんなに怖いの?
「稲場さん!!!しっかり!!」
しっかりしてって何回も名前を呼ばれる。俺、しっかりしてるよ。彼との約束守ってたもん。
『家以外では会わない。』
『誰にも付き合ってることを言わない。』
『必要な連絡以外はしてこない。』
『彼からの連絡にはすぐ返信をする。』
『綺麗に後ろを洗って慣らしておく。』
『声を出さない。』
思い出すだけでもこんなにも沢山の約束がある。全部守った。彼に嫌われないために。
--お、おれは、これ以上なにをしっかりすればいいんだ…?
何も分からない。分からないから怖い。
「あぁあ、あ、うぅああぁ」
怖くて涙が止まらない。
「稲場さん!!!今、栗原先生が来ますからね!」
--せ、んせい…?
あの優しくて、かっこいい人?そんな人にこんなしっかりしてない姿を見られるの?
そんなの
「い、いやだぁああぁああ」
嫌われたくない。
見ないで。俺を見ないで。しっかりしてない俺なんか見ないで。
「い、稲場さん!!!」
肩を叩かれる。女性の看護師なのに彼の姿に重なる。伸ばされる黒い手。掴まれる肩。
「はぁはぁはぁはぁ、うぅ"…」
もうかれなのかかんごしなのかわからない。
--はきそう、、
「もう、先生早くきてっ!」
酷いパニック、過呼吸になっている翔太を必死に抑えている看護師たちは、涙目になりながら栗原を待っている。
その間にも翔太の顔はだんだんと青白く、血色が悪くなっていく。
ガリガリガリ
--苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい
無意識に翔太は首に巻かれた包帯をガリガリと引っ掻く。
「稲場さん!!…手を押えて!!首を引っ掻かないように!!!」
1人の看護師の指示で手を押えられる。
地面に身体を丸めて悶える翔太は、手を抑えられたことにより、今まで以上に体の自由がきかなくなった。
「はぁはぁ、くるしい、こわい、うあぁあ」
真っ暗闇の中、ただ彼の声だけが響く。痒い首。苦しい息。何故か動かない手。震える身体。
パニックに陥った翔太はこれまでにないくらい、酷い症状を出した。
--もうむり、
無意識に諦めた瞬間。
コツコツコツ
何かの音だけが彼の声を遮り、耳を塞ぐように翔太を覆った。
「稲場さん、遅くなってごめんね。」
不意に聞こえた優しく低い声。
その声だけが暗い闇の中にいた翔太に届いた。
--これは…
「せ、んせ、い」
先生を探すように丸まっていた身体を起こそうと身をよじる。
「手を離してあげて。」
その一言で身体は自由になった。
「はぁはぁ、、うっ、」
しかしまだ息が上手く吸えない。視界は真っ黒いまま、何見えない。
「はぁ、はぁ、せんせい、、せんせ、い」
手で探るように地面を確かめながら、腕に力を入れる。
「うっ、、う"ぇ"え"えぇえええええ」
焦ったせいだろうか、我慢していたものが一気に口から出る。
でも翔太は吐いたことに気づかない。
ベチャッ
ペタペタと地面を探る手に、翔太の吐いたものがつく。
ベチャッベチャッ
「そう、大丈夫、腕を起こしてご覧。」
その声で翔太は必死に起き上がろうとする。
--先生に会いたい。
その一心で。
しかし長時間パニックになっていたからか、起き上がろうとしてもプルプルと腕を震わすだけで、身を起こすだけの力が入らなかった。
--会いたいのに。
さっきとは違う涙が目を覆う。
「稲場さん、大丈夫ですよ。」
耳元でそう声がしたと思うと、フワッと身体が宙に浮く。
「うわっ!」
いきなりの感覚で手足をバタつかせる。
「大丈夫、大丈夫。」
「はぁはぁ、はぁ」
ゆっくりと呼吸をすると落ち着いてくる。そして目をそーっと開けると、翔太は先生に身体を預けるように横抱きにされていた。
--どうしてこんなに安心するんだろう。
「せん、せい、、会いたかった」
翔太はそう言い、涙とよだれでぐしゃぐしゃになった顔で微笑み、糸を切るかのようにパチンっと目を閉じた。
目を閉じて暗いはずなのに翔太は怖くなかった。先生がいるからだろうか。
栗原は意識を失った、翔太の汚れている口元を袖で拭った。
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キリのいいところで終われそうにないので一旦ここでこの回終わります!!
多分ですが、これから度々「嘔吐・小スカ」表現出てきます…苦手な方ごめんなさい( ᴗᴗ )
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