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しおりを挟む彼と向き合わなければいけない。
〝彼〟
俺を弄び、俺を縛り付け痛いくらい目立つ首輪をつけ消えてった男。でも、そんな男でも俺にとっては世界で1番愛する人だった。
精神科に行くために、エレベーターに乗ろうとする。しかし手足は地面に縛りつけられたように、1mmも動かない。
ドッドッドッド
自分の心臓はうるさく鳴り、はぁはぁと息が漏れる。手のひらには汗が滲み、自分が正常じゃないことくらい言われなくても理解出来た。
〝彼〟
俺はそんなに彼が怖いのか。
--どうして?
どうして俺は彼を恐怖の対象にする?
俺にとって恋愛は自分の想いさえ伝えることの出来ない、そんなものだった。
だから、
--彼から離れるのが怖いのか。
唯一想いを伝えることが出来た相手。彼がいなくなった今、もう誰にも自分の想いを伝えることが出来なくなったんだと思った。
ただでさえ普通でない俺の感情なんか、相手に伝わるだけで迷惑なのだ。今までもそうだった。
伝えなくても、俺の感情を知った瞬間、
からかい
笑い
話のネタにしてきた
彼がいなくては俺はずっとそうなのだ。
彼が俺を見ていなくても、浮気をしていても、俺の一方通行だとしても。
俺が想いを伝えることの出来る唯一の人。だから俺は離れられない。
--惨めだ。
『俺たち付き合っちゃおっか』
『え、写真なんかやだよ』
『はぁ、いいから尻だせっつってんだよ!』
『彼女妊娠したから』
『お前男だもんね』
彼の言葉がフラッシュバックするように翔太の頭に流れ込んでくる。
「うあっ、あ、あぁぁああああああ」
頭を押さえ込み丸くなる。それでも彼の言葉は消えない。
『別れよ』
「いや、いやだ、いやだぁああ、ああぅあぁ」
翔太は声を荒らげて泣き叫んでいた。
いつの間にかガヤガヤと翔太の周りには人が集まってきた。心配する声が飛び交う中、翔太は未だ彼の姿が目に焼き付いて離れなかった。
「ちょっと!!何事ですか!!」
「ここを通してください!」
2、3人の看護師が周りにいた患者から連絡を受け、翔太を保護しようとした。
スっと翔太に伸ばす手。
ビクッ
「いやぁあああ!!やめて、やめて、お願いぃ、」
しかし今の翔太には〝彼〟の姿しか見えていない。黒く伸ばされた手を見て、翔太は必死に身体を守った。
「やめて、やめて、お願い、声がまんする、おれ、なんでもするからぁ、あぁ」
もう首を絞められたくない。苦して怖かった。
『ちっ、声うるっせぇなぁあ!!』
「だから、あぁあ、く、くび、やめてぇえ」
ギュウウウウウ
--怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い
首は絞められたら痛い。息が出来なくなる。頭がフワフワしてくる。だから嫌だ。それ以外ならいいから。殴ってもいいから。蹴ってもいいから。だから首だけはやめて。
「担当医、、、栗原先生!!!栗原先生を呼んで!!」
異様に怖がって身体を守る翔太を見て、自分たちではどうすることもできないと悟った看護師たちは、翔太の担当医を呼ぶことにした。
「はぁはぁ、うっ、あぁう、やめて、、やめて、」
「しっかりしてください!稲場さん!!!」
パニックから抜け出せていない翔太を必死に現実へ戻そうと声をかける。
「栗原先生はまだですか!!!」
「連絡を取っているんですが、診察中のようでなかなか…」
「もう!!!こんなときに!」
「手の相手いる医者を…」
「そんなことしたら稲場さんがまたパニックになるでしょう!!!!」
「しかし…!」
看護師たちが来てから10分は経つ。周りにいた人達は次第に居なくなって言った。
しかし未だ翔太は戻ってこれていない。
看護師たちは悩んでいた。
医者が来なければ、翔太は危ないかもしれない。でも担当医である栗原先生が以外が来たとて、この状態の翔太は現実に戻ってこれるだろうか。担当医を待てる時間ももう少ない。
これで最後の連絡。これで栗原先生がこれなかったら、手の空いている医者に連絡をする。
「……」
お願い、出て。そう願いながら最後の連絡をした。
ポチッ
「はい、栗原です」
「…!!!
栗原先生!!!今すぐ3階東エレベーター前まで来てください!!稲場さんがパニックを起こしています!」
「…稲場さんが?分かりました。」
最後の最後で繋がった連絡。看護師一同ホッと息をついた。
しかし翔太はパニックのまま。長時間パニック状態なのは非常に危険だ。
「稲場さん!!聞きますかー!」
身体を揺すらないように、丸くなって泣いている翔太の肩を叩く。
「今、担当医が来ますからねー!!」
もうちょっと頑張りましょうねと声をかける。
はぁはぁと息をしながら泣く翔太は、今にも過呼吸になりそうな勢いだった。栗原がくるまで、看護師たちは過呼吸にならないように努めた。
━━━━━━━━━━━━━
っはー!!ここは書いていて楽しかったです…!
次回でようやく翔太が、攻めであり担当医栗原徹の名前を知ります!!(多分)
そしてお気に入り数300↑(;;)こんなに沢山の人に見てもらえてるなんて未だに信じられません!
ありがとうございます(;;)♡
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