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ガヤガヤ

 この時間でも人多いのかよ。まぁ夜よりは少ないけど。飲み屋やバー、そしていかがわしいお店が立ち並ぶ街、歓楽街。
 まだ明るいのに当たり前のように治安が悪い。

「ったく、ゴミくらい自分で持って帰れって」

カンッ

 ゴミや吸いカスなんてそこら辺に落ちている。俺は捨てられていた空き缶を、足で道に端に寄せた。

 翔太のアパートの最寄り駅から2個先に行きつけのバーはある。その駅から徒歩15分。歓楽街の端っこにそのバーは建っている。
 黒を基調としたスタイリッシュな建物の2階に、ひっそりとそれは佇んでいる。

 階段を上り迷わず扉に手をかけて、翔太は店に入った。

「ママー、来たよー」

 翔太が声をかけると、奥のスタッフルームからママが出てきた。

「あ、翔ちゃーん。いらっしゃい。とりあえずカウンター座っときなさいな。」

 そう俺をカウンターに寄せると、ママは掃除機を出してくる。

ブウォオオオオオ

--手伝うって言ったしな、俺も何かやりたいな。

「ママ、俺やるよ。」

ブウォオオオオオ

 ママは俺の言葉を無視して掃除機をかけ続ける。でもそんなに広くない店だ。すぐに終わった。

「もう、ママ、俺も手伝うって言ったのに」

 そう翔太は頬を膨らませる。

「あはは、もうあんたってほんとおバカちゃんね~。別に手伝わなくてもいいわよ。その代わり…」

 今日はお店に沢山おろしてってね、お金

 とママは俺にウィンクした。

「ははは、わかってるよ。店開けてくれてありがとね。」

 俺の言葉を聞くと、ママはニコッと笑いスタッフルームに準備をしに消えていった。

  ママが身だしなみを整えて出てくるまで、まだ時間はあるだろう。無意識に首の包帯を擦りながら、スマホをいじっていた。


ドンッッ

「じゃぁあ翔ちゃん、聞かせて貰うわよ~!」

 いつの間にか着替え終わったママが、カウンター越しに目の前にいた。そして目の前にはお酒…
 明日大学あるんだけどなぁと思いながら、酒を1口飲む。

「はぁ、まぁまずさ、別れたよ。」

 えぇええええぇええ!!!とママが驚く。まだお客さんいなくて良かったな、耳が潰れるところだった。

「え、は、別れたの!?だってあんたこないだ来た時意地でも別れない!って顔してたじゃない!」

『あんたそろそろ別れなさいよ』

『あはは…』

 たしかにこの間は別れないって態度したかも。実際別れたのではなく振られたのだから。

「まぁ、その、色々あったんだよ。なんか、うん。」

 ふぅと翔太が息を着くと、ママは空になりそうなグラスに酒を注ぐ。そしてスっと無言でつまみを出してきた。
 ママは気が利くなぁなんて思いながらチマチマとつまむ。

「別れたというか振られたが正しいかな。なんて言うかさ、俺はもう必要じゃないんだって。」

 グラスを手に下を向く。そして俺に話を聞いてくれているママにボソッと言った。

「あいつの彼女が妊娠したんだって。」

 また大声をあげるかと思いきや、ママはびっくりした顔をして目を見開いていた。
 そしてやっと口を開いたかと思えば

「か、彼女??妊娠?え、ど、どういうこと?」

 かなり動揺していた。まぁそりゃそうなるよな。

「そのまんまの意味だよ。あいつの彼女が妊娠したから関係を切られたんだ。結婚するんだってよ。」

「はぁ、てかあの子の浮気相手、本命だったのね…?」

 うんうんとその言葉に頷く。人間関係がだらしないあいつが、責任を取って結婚するレベルだ。本命以外有り得ない。

「本命じゃなかったら結婚しないだろうよおお」

 うおぉおおと結んでた髪をぐしゃぐしゃにする。

「ママ!!!強いの!!!ちょうだい!」

 とりあえず飲みたい。飲んで忘れたい。
 ほどほどにしなさいよとグラスを渡してくれる。

「そんでさぁ、翔ちゃんの首のその包帯はなんなの?もうすっっごい気になるんだけど?」

 包帯を触る。そしてうーんと考える振りをして一言。

「最後のセックスで首締められた!」

 さすがのママもこれは予想できてなかったのだろう。あっけらかんとしている。

「…は??」

 ママの驚いてる顔を見るのは面白い。それに表情豊かで見ていて飽きない。

グイッ

 俺はママが出してくれた強いお酒を一気に飲み干す。

「あぁ、もう、飲みすぎは良くないわよ。」

 そう言いながらも、もう1杯というとママは渋々ついでくれた。
 普段バー以外で酒を飲まない俺は、一気に強いお酒をたくさん飲んだからか、思考回路がふにゃふにゃとしてきた。

カランカラン

 俺が潰れている間にどうやら開店時間になったらしい。ちらほらとお客さんが入ってきた。

 俺は半分しか開かない目で、酒を片手にお客さんを1人ずつ観察していった。





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