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しおりを挟むヴーヴー
「…ん、、」
〝毎日〟に設定していたスマホのアラームが鳴り響く。
--8時か、今日1限目ないしなぁ。確か近くの病院9時から行けるよな…?
本当は病院なんか行かなくても、ほっとけば絞められた痕なんか消えるのかもしれない。でも俺は怖かった。絞め痕なんかじゃなく、この痕さえも自分は嬉しいって思ってるんじゃないかって。
だから一刻も早く痕を消したかった。そして誰でもいい。誰か俺を肯定して。
翔太はベッドから出ると急いでシャワーへ向かった。昨日ナカに出されたまま寝てしまったのだ。
「うっわ、ドロドロ、、」
スウェットを脱ぐだけでドロドロと後ろから流れ出てくるのが分かった。
「っはー、もう最後くらい丁寧に扱えよな」
こりゃ腹痛くなるな。
ザァアアアアと勢いよく出されたモノを流していく。ふと翔太は鏡に映った自分をみた。
丁寧にブリーチし金を入れられた髪に、少し長めの襟足。元々俺は短い髪が好きだった。
ただ、
『翔太さぁ、髪長いのも似合いそうだよね。』
と付き合いたての頃言われたのだ。それから髪全体を伸ばす勇気はなくても襟足だけは伸ばしていた。今となってはバカバカしいが、その時は彼に見合う人になろうと必死だった。
はぁと溜息をつきながら風呂場を後にした。
--病院終わったらそのまま学校いくしな。ラフすぎても変かな。
振られたばかりの翔太は服に気を使うほどの余裕はない。それなりに見えるであろう黒いパーカーとジーンズを手に取った。
授業の教材をリュックに詰めながら保険証を探すが、これがどうも見つからない。
「保険証ってなくても大丈夫なのかなぁ。」
ガサゴソと棚や引き出しを漁った。
「うーん、この引き出しにもないとなると…灯台下暗しだ、リュックのポケット!!」
ガサガサ
あ、あった。
必死に探していたのがバカらしい。なんなら探すのだけで20分も時間を食ってしまった。
--8時50分…ご飯食べて家出るか。
俺の朝ごはんはいつも同じ。食パンを少し焦げるくらいまでトースターで焼き、マーガリンをつける。そしてお茶で流し込む。小学生の頃からずっとだ。あんまり気にしたことはなかったが、朝はパン派なのかもな。
チン
ちょうど焼きあがった食パンにマーガリンをぬり、SNSを横目に口に入れた。
トントンとつま先で音を鳴らし靴を履く。
ガチャっと扉を開けるとヒューっと冷たい風が吹く。秋と言っても肌寒くなってきた。もうそろそろ防寒具を出してもいい頃だ。
トントントントン
ボロアパートの2階に住む俺は、両手をパーカーのポケットに突っ込みながら錆びた階段を降りた。
翔太の住んでいるアパートはボロくて狭いが立地は良い。5分歩けばコンビニやスーパーがあり、大学も10分程度で着く。今から向かう病院もアパートから15分程度だ。さらには最寄り駅にも近いため即決した。
ウィーン
病院に着いた翔太は自動ドアに手をかざして開ける。
「すいません、診察を…」
そこまで言うと受付にいた看護師は慣れた手つきでクリップボードに挟まれた紙を準備する。
「初診で間違いありませんでしたか?こちらの用紙にご記入をお願いします。」
「あ、はい」
にっこりとした少し凛々しい笑顔で渡された紙を受け取ると、空いている椅子に腰をかけ順に紙に書かれた項目に目を通していく。
えぇっと、なになに?名前、生年月日、アレルギー。え、薬のアレルギーなんて項目もあるの?そんなの思いつかない。俺のアレルギーは犬猫くらいだし、それも少し目が痒くなる程度だ。まぁ分からないところは全部〝なし〟でいいか。
初めての1人での病院で緊張しながら問診票にペンを滑らせる。
「あの、すみません。書き終わりました。」
おずおずと紙とペンを差し出すと、さっきの看護師はまたにっこりと笑顔を作りながら名前が呼ばれるまで座って待っているように促した。
「はい、ありがとうございました。それでは順番が来るまで椅子にお掛けになってお待ちください。」
ペコッと軽く頭を下げ、さっきまで座っていた椅子に戻る。
体感10分程で名前が呼ばれた。
「稲場さーん。診察室にお入りください。」
「あ、はい。」
いじっていたスマホをジーンズのポケットの中に入れ診察室の扉を開いた。
ガラガラガラ
「あ、いらっしゃいましたね。おはようございます、稲葉さん。」
座って待っていたのはいかにも仕事が出来て女にモテそうなイケメンな医者だった。
手で促されるように椅子に座らされた。
「稲葉さんは今日が初診と伺いましたが、どうされましたか?」
言葉遣いは丁寧なのに小さい子に聞くような優しい声で問われる。
「えっと、あの、首が…首を閉められて…」
「…首?少し見せていただくことは出来ますか?」
俺がコクっと頷くと白くて骨ばった大きい手が首元に伸びてきた。
腫れ物を触るように絞め痕を見ると、真っ直ぐ俺の目を見てこう言った。
「稲葉さん。無理にとは言いません。首を絞められた経緯をお話して頂けませんか?」
真っ直ぐに見つめてくる目は綺麗で、いつの間にか俺は口を開いていた。
「--実は」
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