上 下
3 / 28

3

しおりを挟む

ヴーヴー

「…ん、、」

 〝毎日〟に設定していたスマホのアラームが鳴り響く。

--8時か、今日1限目ないしなぁ。確か近くの病院9時から行けるよな…?

 本当は病院なんか行かなくても、ほっとけば絞められた痕なんか消えるのかもしれない。でも俺は怖かった。絞め痕なんかじゃなく、この痕さえも自分は嬉しいって思ってるんじゃないかって。
 だから一刻も早く痕を消したかった。そして誰でもいい。誰か俺を肯定して。

 翔太はベッドから出ると急いでシャワーへ向かった。昨日ナカに出されたまま寝てしまったのだ。

「うっわ、ドロドロ、、」

 スウェットを脱ぐだけでドロドロと後ろから流れ出てくるのが分かった。

「っはー、もう最後くらい丁寧に扱えよな」

 こりゃ腹痛くなるな。

 ザァアアアアと勢いよく出されたモノを流していく。ふと翔太は鏡に映った自分をみた。
 丁寧にブリーチし金を入れられた髪に、少し長めの襟足。元々俺は短い髪が好きだった。

 ただ、

『翔太さぁ、髪長いのも似合いそうだよね。』

 と付き合いたての頃言われたのだ。それから髪全体を伸ばす勇気はなくても襟足だけは伸ばしていた。今となってはバカバカしいが、その時は彼に見合う人になろうと必死だった。

 はぁと溜息をつきながら風呂場を後にした。

--病院終わったらそのまま学校いくしな。ラフすぎても変かな。

 振られたばかりの翔太は服に気を使うほどの余裕はない。それなりに見えるであろう黒いパーカーとジーンズを手に取った。

 授業の教材をリュックに詰めながら保険証を探すが、これがどうも見つからない。

「保険証ってなくても大丈夫なのかなぁ。」

 ガサゴソと棚や引き出しを漁った。

「うーん、この引き出しにもないとなると…灯台下暗しだ、リュックのポケット!!」

ガサガサ

 あ、あった。

 必死に探していたのがバカらしい。なんなら探すのだけで20分も時間を食ってしまった。

--8時50分…ご飯食べて家出るか。

 俺の朝ごはんはいつも同じ。食パンを少し焦げるくらいまでトースターで焼き、マーガリンをつける。そしてお茶で流し込む。小学生の頃からずっとだ。あんまり気にしたことはなかったが、朝はパン派なのかもな。

チン

 ちょうど焼きあがった食パンにマーガリンをぬり、SNSを横目に口に入れた。

 トントンとつま先で音を鳴らし靴を履く。
 ガチャっと扉を開けるとヒューっと冷たい風が吹く。秋と言っても肌寒くなってきた。もうそろそろ防寒具を出してもいい頃だ。

 トントントントン

 ボロアパートの2階に住む俺は、両手をパーカーのポケットに突っ込みながら錆びた階段を降りた。

 翔太の住んでいるアパートはボロくて狭いが立地は良い。5分歩けばコンビニやスーパーがあり、大学も10分程度で着く。今から向かう病院もアパートから15分程度だ。さらには最寄り駅にも近いため即決した。

 ウィーン

 病院に着いた翔太は自動ドアに手をかざして開ける。

「すいません、診察を…」

 そこまで言うと受付にいた看護師は慣れた手つきでクリップボードに挟まれた紙を準備する。

「初診で間違いありませんでしたか?こちらの用紙にご記入をお願いします。」

「あ、はい」

 にっこりとした少し凛々しい笑顔で渡された紙を受け取ると、空いている椅子に腰をかけ順に紙に書かれた項目に目を通していく。

 えぇっと、なになに?名前、生年月日、アレルギー。え、薬のアレルギーなんて項目もあるの?そんなの思いつかない。俺のアレルギーは犬猫くらいだし、それも少し目が痒くなる程度だ。まぁ分からないところは全部〝なし〟でいいか。

 初めての1人での病院で緊張しながら問診票にペンを滑らせる。

「あの、すみません。書き終わりました。」

 おずおずと紙とペンを差し出すと、さっきの看護師はまたにっこりと笑顔を作りながら名前が呼ばれるまで座って待っているように促した。

「はい、ありがとうございました。それでは順番が来るまで椅子にお掛けになってお待ちください。」

 ペコッと軽く頭を下げ、さっきまで座っていた椅子に戻る。
 体感10分程で名前が呼ばれた。

「稲場さーん。診察室にお入りください。」

「あ、はい。」

 いじっていたスマホをジーンズのポケットの中に入れ診察室の扉を開いた。

ガラガラガラ

「あ、いらっしゃいましたね。おはようございます、稲葉さん。」

 座って待っていたのはいかにも仕事が出来て女にモテそうなイケメンな医者だった。
 手で促されるように椅子に座らされた。

「稲葉さんは今日が初診と伺いましたが、どうされましたか?」

 言葉遣いは丁寧なのに小さい子に聞くような優しい声で問われる。

「えっと、あの、首が…首を閉められて…」

「…首?少し見せていただくことは出来ますか?」

 俺がコクっと頷くと白くて骨ばった大きい手が首元に伸びてきた。
 腫れ物を触るように絞め痕を見ると、真っ直ぐ俺の目を見てこう言った。

「稲葉さん。無理にとは言いません。首を絞められた経緯をお話して頂けませんか?」

 真っ直ぐに見つめてくる目は綺麗で、いつの間にか俺は口を開いていた。

「--実は」






しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人

こじらせた処女
BL
 幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。 しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。 「風邪をひくことは悪いこと」 社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。 とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。 それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?

目が覚めたら囲まれてました

るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。 燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。 そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。 チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。 不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で! 独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。

熱中症

こじらせた処女
BL
会社で熱中症になってしまった木野瀬 遼(きのせ りょう)(26)は、同居人で恋人でもある八瀬希一(やせ きいち)(29)に迎えに来てもらおうと電話するが…?

風邪ひいた社会人がおねしょする話

こじらせた処女
BL
恋人の咲耶(さくや)が出張に行っている間、日翔(にちか)は風邪をひいてしまう。 一年前に風邪をひいたときには、咲耶にお粥を食べさせてもらったり、寝かしつけてもらったりと甘やかされたことを思い出して、寂しくなってしまう。一緒の気分を味わいたくて咲耶の部屋のベッドで寝るけれど…?

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。 そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

処理中です...