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ガチャ

 彼を待ってどれくらいたっただろうか。いつの間にか寝てしまっていた。

「おい…おい」

「あ…」

 ベッドで横になっていた俺を起こしたのは、少し顔が赤くなった彼氏だった。外で飲んで来たのだろうか、お酒の匂いがした。

「チッ…俺を待たせんなよ。」

 前髪をかき揚げ、そう言いながらベッドの上に乗ってきた。

ドサッ

「…ッ」

 強い力で押し倒され、彼がその上でカチャカチャとベルトを外している。寝起きでも分かった。

---あぁヤるんだな

 彼に組み敷かれている下で器用にパンツと一緒にスウェットの下を脱ぐ。彼はきっと慣らしもせず突っ込むだろう。入念に慣らしたはずの孔は、彼が来るのが遅くなったせいか少し閉じかけていた。

 中に入れていたローションを指でかき混ぜる。

「早くしろよ、おっせぇな」

 汚いものでも見るかのような目で俺を見つめる彼のそんな言葉にも、いつの間にか慣れてしまった。

「う、うん、もう大丈夫だとおも…」

ズン

「…んあぁ!?」

 言い終わる前に挿入られてしまった衝撃でいつも以上に声が出た。

パンパンパンパンパンパンパンパンパンパン

 彼が満足するためだけのセックス。中を抉られるほどの感覚に生理的な涙が流れる。

「うっあ、、あ、…んぁ」

 できる限り声を我慢するが、彼のものを必死に快感に変えようとする体から声がもれる。

「あ"あ"あ"あ"うるせーなぁ!萎えんだろーが!」

「んぐぅ!?」

ギュウウウウ

 腰を打ち付けながら首を絞めてくる。ジュポジュポとローションが目立つ音を立ててても、それが聞こえなくなるぐらい俺の意識は遠くなっていった。

「くっそ、締まる、出すぞ」

ビュルルル

「ッかは、はぁはぁ…うぅ、、」

 彼が出したと同時に首からやっと手が離された。ヒューヒューと息を吸い込む。

 彼は満足したのだろうか、雑に脱ぎ捨てられた服を着ていた。

「あ、そういえば」

 服を着終わった彼が俺の方を向きながら何かを思い出したかのように口を開いた。

「な、なに?」

 同じく床に脱ぎ捨てたスウェットを手に取りゆっくりと履く。

「俺さー、結婚するんだよね彼女と。だからもう俺たちは終わりな。」

 は??

「え、ちょ、ま、って、どういうこと?」

 ボサボサになった髪を整えながら聞いた話は、ボーっとしていた俺を起こした。

「はぁー、ほんと頭悪ぃな。だから、彼女と結婚すんだよ。妊娠したって言えばわかりやすいか?」

「にん、し、ん」

 妊娠。

 俺だってナカに出されてる。ゴムなんか付き合って数ヶ月1度もしたことなんかない。頼んでもしてくれなかった。でも妊娠なんてしない。
 俺が男で子宮がないから。

「…にんしん」

 自分に縁のない言葉に戸惑う。

「そー、妊娠」

 にっこりと笑いながら彼が自分のスマホと俺のスマホを手に取る。

ポチポチ

「ほらよ」

 投げつけられたスマホ。付き合いたてのときバーで撮ったツーショットがロック画面で光る。

「連絡先は消してやったから、お前は俺の写真消せよ。」

 スマホを触りながら頷くことしか出来ない。

「じゃーもう行くわ。ここに来ることはもうないからな。」

「…うん」

ガチャ バタン

 彼との最後の時間。俺は顔を見ることは出来ず、俯いていた。

 〝妊娠〟という言葉が重かった。
 彼と付き合ったのは俺の方が早いのに、なのに彼は彼女を取る。俺が男で、彼女が女だから。彼女は知っているのだろうか。男と二股をかけて浮気していたことを。
 いや、きっと知らないな。責任を取った結婚するくらいだもんな。

 絞められた首と同じくらい心がキューっと痛くなった。

 俺はゲイだ。結婚なんか、子供なんか出来ないことくらい分かってる。分かってないとダメなんだ。

「うっうぁ、、うぅ、、」

 分かってるといくら自分に言い聞かせても、目からは涙が溢れて止まない。

「しゃしん、、けさなきゃ、、」

 彼に言われた写真。ロック画面にしていた、バーで撮ったツーショット。俺たちにとってこの写真が唯一一緒に撮った写真だった。今思えばこの写真を撮る時だって彼は乗り気ではなかった。

『ねぇねぇ、付き合った記念にさ撮らない?』

『えー、俺写真嫌いなんだよね』

『お願いー!!これだけ!これだけだから!』

『はぁ、分かった。じゃあこの1枚だけね。』

『うん!ありがと!』

 写真を見ながら思い出す。今なら分かる。彼は最初から俺に本気なんかじゃなかった。きっと付き合ったその日から性処理の道具としてしか、見て貰えてなかった。
 その証拠に彼との写真はそれだけだし、デートに行ったこともなかった。俺は浮気が発覚するまで何回も誘った。ここに行ってみたい、2人で行きたい、と。でも彼は毎回顔をしかめて『家で過ごそう』と言うのだ。

 あぁ、嫌になる。自分も多分最初から分かってた。デートを断られ、家で犯される。性処理でしかないことくらい分かっていた。でも認めたくなかった。俺が彼を好きな限り、許す限り、この関係はダラダラと続くものだと思っていたんだ。

 少し震える手でアルバムを開く。
 スーっとスクロールし2人の写真を押した。

〝写真を削除しますか〟

〝はい〟

 これで終わりだ。彼を忘れたい。今は心からそう思えた。

 明日は病院にいこう。そう首についた彼の手の跡を触り、泣き疲れた目を擦りながら横になった。






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