甘く愛され花は咲く 〜干物女教師、同じ職場の推し(イケメン)に溺愛される〜

たかきこう

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衝撃の次回予告

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 私と推しの出会いは特に運命的でも必然的でもなかった。たまたま配属された公立高校にどタイプの顔の人がいた、というだけだった。彼は国語科、私は美術科の教員で、クラスと職員室の座席が近いこと以外に共通点はなかった。

 しかし、私は慎ましやかに生きるタイプの人間であるからして、そんな素敵な顔面を持つ男性と組んず解れつのベタベタな展開の末にお付き合いを、などという夢みがちな中学生のような妄想に耽ることなど一度もなかった。

 ただ、彼の美しすぎる顔面を呆けた老人のように眺めるだけで満たされていた。

 それなのに、なぜ。なぜ今、事後の彼の腕の中で眠っているのか。昨日までは全く考えていなかった急展開に、私の頭はパンクし、ショートを起こしていた。なんなら、頭からばちばちと飛び散る火花まで見えるような気がした。そして、私はもはや高野先生の壁になりたい勢からガチ恋勢に変わってしまった。

 無論それも全部、彼のせいである。愛おしそうに抱きしめられたり耳元で甘い言葉を囁かれたりしたら、いくら三平二満、遠慮会釈な私でも邪な期待や恋情を持ってしまってもおかしくはないだろう。私の平穏だった推し活ライフは一夜にして崩れ去ってしまったのだ。

 私に腕枕をしながら、高野先生はすやすやと気持ち良さそうに眠っていた。これがいわゆる賢者タイムというやつなのだろう、と漫画で得た知識をもとにそう結論付けた。まさか推しを憎く思う日がくるなんて、と思い横で眠る彼をきっと睨みつけようとしたものの、彼の横顔があまりに美しすぎたため私の頬は一気に緩み、眉間に寄っていた皺は一本も残らずに消滅した。

 うっすらと脂肪の乗った痩せた腕に包まれながら、私は思索に耽っていた。これからどうするのか、だとか明後日職員室で顔を合わせた時どんな顔をすればいいのかなどなど。

 私が眉間に皺を寄せ、苦悩の表情をしているであろう時に、この男はなんとも安らかに。まるで天使のように眠り、骨ばった胸を呼吸に合わせて上下させていた。

 そこからの私の検索履歴はこうだった。「同僚 ワンナイト その後」「推し ガチ恋になってしまったら」「推し 尊すぎて死ぬ」

 スマートフォンの白い画面に表示された無機質な文字列を頭に入らぬまま流し読んでいるうちに、だんだんと心も落ち着いてきた。

 私は100パーセント遊ばれているから、この恋は叶わない。アイドルにガチ恋するのと同じくらい不毛なことである。よって、私の取るべき行動はただ一つ。ガチ恋を卒業することである。

 規則的だった寝息が聞こえなくなった。ちらりと横を見ると、すでに目を覚ましていたらしい高野先生と目が合ってしまった。

「ごめん、はるの先生。今何時ですか?」

 彼がくしくしと目をこすりながら、私に尋ねた。まだ瞼は重たげで、いつもよりもぼんやりとした顔をしていた。

 か、可愛い……小動物のような仕草に、私は早速キュンキュンしてしまった。せっかく今ガチ恋卒業を宣言したばかりだというのに……

 可愛くないし、全然……となんとか自分に言い聞かせながら、枕元に放ってあった携帯を手繰り寄せて、彼に現在の時間を告げた。

「えっ! もうそろそろでチェックアウトの時間じゃないですか!」

 ラブホテルにも普通のホテルと同じくチェックアウトの時間があることを初めて知り、私は感心してほへぇ~と間抜けな声を出した。

 彼は慌ててサイドテーブルに置かれたメガネをかけた。メガネのない高野先生はいつもより幼く見えて、可愛らしい。眼鏡をかけるとキリッとしてかっこいい。どちらも尊い。それしか言えなかった。

 呑気に彼の顔面観察に勤しんでいると、いつの間にか全身きちんと服を着た高野先生が目の前に立っていた。

「ほら、はるの先生。のんびりしてないで。お着替えの時間ですよ」
 そういうと彼は、私の脱ぎ散らかした衣類をまとめて持ってきて、私を着替えさせようとした。

「いやいや、私、自分でできますのでっ! どうぞお気になさらず……」

 しかし私の言葉は彼には届かなかったようで、高野先生は笑顔で私を“お着替え”させた。

「はい、ばんざーい」

 と言われた時など、あまりの尊さに私は爆死しそうになってしまった。意外に私は赤ちゃんプレイが好きらしい。特に開きたくもなかった扉が開いてしまったようだ。甘やかされたい願望でもあるのだろうか、と荷物をまとめながら自己分析をした。

「じゃあ、出ましょうか」

 彼がそう言って、私もはいと頷いた。ワンナイトならばきっと、これから先仕事以外で関わることもないだろう。こういった甘い時間がなければ私の恋心もじきに治るはずである。

 こういった、やたらにギラついたラブホに来るのも今回が最初で最後、見納めだと思うとこのまあなんとも趣味の悪い部屋でも名残惜しく思えてきた。さようなら、名前もわからない謎のラブホ……

 玄関で二人靴を履き、これはきっと夢だったのだなどと、必死で自分を納得させようとしたところで彼から驚くべき言葉が告げられた。

「次はいつ会いましょうか。行き先は……そうだな。コスモス畑なんてどうでしょう」

「えっ? 次回もあるんですか!?」

 私はしばらく固まってしまった。次……? 会う……? コスモス畑…………? 衝撃の次回予告に私の脳は再び処理落ちした。

 もしかして、私のキョドキョドした反応が面白いからしばらく私で遊ぶことにしたのだろうか。ふっ、お見通しですよ。なんて思ってお断りを入れようとしたその時だった。

「僕は、今の君のことがもっと知りたい。だから、また遊ぼう」

 今の、という言い方にやや引っ掛かりを覚えたが、それどころではなかった。そんなイケフェイスから、そんなに甘い声で囁かれたら…………

「ヒャ、ひゃい…………」

 あまりにもドキュンときた私は、猫みたいな間抜けな声で次会う約束を交わしてしまった。
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