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第27話『シンプルハートディグニティ』
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クイリナリス上層、因果界スターリー川下流域。
ここではヤガミ率いるシンプルハートディグニティのメンバーが陣取っていた。
人の単なる空想が、負のエネルギーによって姿形を与えられ、暴れまわるという奇怪な現象を収拾するため呼ばれた。
代表のヤガミ・エターナリストは元クイリナリスの出身で、名の知れた悪霊退治のエキスパートだった。
自分の一瞬のミスで依頼人家族を頓死させてしまうという事件があり、それがトラウマになって第一線を退いていた。
パラティヌスに移住し、悪霊封じの相談役をしていたが、フィリップやイサクに団体起ち上げを打診されて、代表に就いた。
シンプルハートディグニティのメンバーは、二十代後半から三十代後半の青年で構成され、いずれも威勢のいい者ばかりだった。
起ち上げる前はNWSに所属していたが。霊長砂漠の負のエネルギー浄化という大きな仕事の後に、北端国セライの湖に自生する植物の花粉を使ったお守り作りをさせられて。辟易したメンバーがシンプルハートディグニティの構成員である。
細かいことが苦手な気の荒い、よく言えば元気な彼らは、パラティヌス国内の霊障現場に立ち合ってきた。
ヤガミの指導で、悪霊退治に必要な技術を叩き込まれてきた彼らは、クイリナリスでも即戦力だった。
パラティヌスと違って、クイリナリスの悪霊は大型でパワーがあり、彼らの闘争本能を十分に満足させた。
そして、今回はクイリナリスの位階者と協力して、スターリー川の荒ぶる悪龍を退治するため、最後の大一番を任されていた。
「遅いな……」
スターリー川の上で宙に浮きながら待っているフィリップが呟いた。
「水源から支流に下って、流域全部から追い回すんだから、そりゃあ時間がかかるさ」
隣にいた同僚が言った。
「岸で悪さする水霊まで追い立てるって話だし、合算されて指揮系統がない荒唐無稽な化け物になるって言ってたしな」
別の仲間が肩をゴキゴキ鳴らして言う。
「へっ、ゾクゾクすんな」
強気に唾を吐き捨てる。
その様子をパイプ椅子の背もたれに後ろ向きに座りながら見ていたヤガミは、眼鏡のブリッジを指で押し上げていった。
「来たぞ――!」
「よっしゃあっ!!」
陣取った下流域から上流を睨むと、水面が激しく波立ち、白い泡を吹いてゴボゴボと いう不気味な水音が近づいてきた。
流域の幅にメンバーによる光の網が張られた。
そこを起点にメンバーがコの字型に陣取る。
その手前で白波高波が噴き上がり、水を纏った悪龍が姿を現した。
メンバーに襲いかかろうと牙を剥く。
ヤガミが放った白い閃光が悪龍の足を払った。
「ギャーッ」
いくつもの存在が悲鳴を上げる。
体躯をくねらせて暴れ回る。
メンバーは悪龍に果敢に立ち向かい、万武の白——光の闘技——を次々に打ち込んだ。
白剣で切りつける者、鎖で羽交い絞めにする者、矢で目を狙う者、念波で動きを封じる者、長槍で急所を突き刺す者。
フィリップは鉄拳で叩き込んだし、イサクはフラッシュシックルで白刃を一閃した。
阿鼻叫喚の叫びは四方の山にまで轟いた。
度重なる光の追撃は、悪龍を追い詰めていく。
悪龍はいくつも頭を分裂させて対抗した。
メンバーは素早くタッグを組んだ仲間と格闘し、捻じ伏せる。
新たに分裂した鎌首がイサクの背後を狙う。
「イサク!」
フィリップの鋭い声に振り返ったイサクは、間一髪、鎌首の攻撃を飛んで避けた。
怒り狂い大きな口を開けてイサクを追った鎌首目がけて、イサクは奥義を放った。
「フラッシュシックル、羅刹!!」
光の鎖鎌の一閃が豪雨のように悪龍を貫いた。
「ギャー!!」
断末魔の叫びが辺りにこだました。
水は凪ぎ、平和な水音が戻った。
「やったな、イサク!」
「よくやった!」
「はい!!」
ノーダメージのメンバーが引き揚げてくる。
ヤガミは眩しそうにその笑顔を見やって彼らを迎えた。
(イサクのやつ、大技を決める時のパワーは俺以上か)
その成長の著しさはヤガミを感嘆させた。
ここではヤガミ率いるシンプルハートディグニティのメンバーが陣取っていた。
人の単なる空想が、負のエネルギーによって姿形を与えられ、暴れまわるという奇怪な現象を収拾するため呼ばれた。
代表のヤガミ・エターナリストは元クイリナリスの出身で、名の知れた悪霊退治のエキスパートだった。
自分の一瞬のミスで依頼人家族を頓死させてしまうという事件があり、それがトラウマになって第一線を退いていた。
パラティヌスに移住し、悪霊封じの相談役をしていたが、フィリップやイサクに団体起ち上げを打診されて、代表に就いた。
シンプルハートディグニティのメンバーは、二十代後半から三十代後半の青年で構成され、いずれも威勢のいい者ばかりだった。
起ち上げる前はNWSに所属していたが。霊長砂漠の負のエネルギー浄化という大きな仕事の後に、北端国セライの湖に自生する植物の花粉を使ったお守り作りをさせられて。辟易したメンバーがシンプルハートディグニティの構成員である。
細かいことが苦手な気の荒い、よく言えば元気な彼らは、パラティヌス国内の霊障現場に立ち合ってきた。
ヤガミの指導で、悪霊退治に必要な技術を叩き込まれてきた彼らは、クイリナリスでも即戦力だった。
パラティヌスと違って、クイリナリスの悪霊は大型でパワーがあり、彼らの闘争本能を十分に満足させた。
そして、今回はクイリナリスの位階者と協力して、スターリー川の荒ぶる悪龍を退治するため、最後の大一番を任されていた。
「遅いな……」
スターリー川の上で宙に浮きながら待っているフィリップが呟いた。
「水源から支流に下って、流域全部から追い回すんだから、そりゃあ時間がかかるさ」
隣にいた同僚が言った。
「岸で悪さする水霊まで追い立てるって話だし、合算されて指揮系統がない荒唐無稽な化け物になるって言ってたしな」
別の仲間が肩をゴキゴキ鳴らして言う。
「へっ、ゾクゾクすんな」
強気に唾を吐き捨てる。
その様子をパイプ椅子の背もたれに後ろ向きに座りながら見ていたヤガミは、眼鏡のブリッジを指で押し上げていった。
「来たぞ――!」
「よっしゃあっ!!」
陣取った下流域から上流を睨むと、水面が激しく波立ち、白い泡を吹いてゴボゴボと いう不気味な水音が近づいてきた。
流域の幅にメンバーによる光の網が張られた。
そこを起点にメンバーがコの字型に陣取る。
その手前で白波高波が噴き上がり、水を纏った悪龍が姿を現した。
メンバーに襲いかかろうと牙を剥く。
ヤガミが放った白い閃光が悪龍の足を払った。
「ギャーッ」
いくつもの存在が悲鳴を上げる。
体躯をくねらせて暴れ回る。
メンバーは悪龍に果敢に立ち向かい、万武の白——光の闘技——を次々に打ち込んだ。
白剣で切りつける者、鎖で羽交い絞めにする者、矢で目を狙う者、念波で動きを封じる者、長槍で急所を突き刺す者。
フィリップは鉄拳で叩き込んだし、イサクはフラッシュシックルで白刃を一閃した。
阿鼻叫喚の叫びは四方の山にまで轟いた。
度重なる光の追撃は、悪龍を追い詰めていく。
悪龍はいくつも頭を分裂させて対抗した。
メンバーは素早くタッグを組んだ仲間と格闘し、捻じ伏せる。
新たに分裂した鎌首がイサクの背後を狙う。
「イサク!」
フィリップの鋭い声に振り返ったイサクは、間一髪、鎌首の攻撃を飛んで避けた。
怒り狂い大きな口を開けてイサクを追った鎌首目がけて、イサクは奥義を放った。
「フラッシュシックル、羅刹!!」
光の鎖鎌の一閃が豪雨のように悪龍を貫いた。
「ギャー!!」
断末魔の叫びが辺りにこだました。
水は凪ぎ、平和な水音が戻った。
「やったな、イサク!」
「よくやった!」
「はい!!」
ノーダメージのメンバーが引き揚げてくる。
ヤガミは眩しそうにその笑顔を見やって彼らを迎えた。
(イサクのやつ、大技を決める時のパワーは俺以上か)
その成長の著しさはヤガミを感嘆させた。
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