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第22話『影の受け皿』

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「ずいぶん思い切ったわね」
 柳眉をしかめてトゥーラが言うと、ハンスは大きく頷いた。
「でしょ? 万世の秘法側からすれば、背後から攻撃されたような気になるよね。実際、風刺画を描いた人も、悪辣さが止まらないような禁断の快感に襲われたって話だよ。結局、里に働いてるっていう魔力の使いようだったってことだよね。それでホントに攻撃対象から外れるんだから、風刺様様。被害よりは不快感の方が対処しやすいって、里の人たちは笑ってるよ」
「なるほど……分厚い壁が立ちはだかるより、向こう側が透けて見えた方が親近感が増すってことですかね」
 ルイスが言うと、ハンスは笑った。
「ハハッ、そうかもしれないね。聖人君子より知恵を蓄えた名もない人の方が親しみやすいよね。呪界法信奉者側には広告媒体そのものが不足してるけど、攻撃されたとなると過剰反応するだろ? それはどんな過疎地で発信されたとしても、テレパス並みの伝達力なんだよね。彼らは社会に根差してないから、余計に情報にこだわるんだろうな」
「どうせなら、万世の秘法の根幹を成すような情報にアクセスしてほしいですよね」
 ランスが言うと、ハンスは首を捻った。
「さぁ、どうでしょう? それを真っ向否定するから呪界法信奉者なんでしょうし。万世の秘法と対立するためには、根幹を成している思想を知らないといけませんけど。そこを攻撃するよりは破壊活動の方がわかりやすいですからね。得体がしれない方が恐怖感を煽れるじゃないですか」
「世界の大変革に際しても、言い分を認めちゃったからねぇ。社会全体の利益には立ってないけど、一部は確実に制御してるもんなぁ。万世の秘法としては感化できないのは致し方ない、ってなるのは当然だし、共存に傾きつつあるのは否めないよね」
 ポールが腕を組み、頭を傾けながら言った。
「光が強ければ影が濃くなる、の喩え通りだな。万世の秘法の思想そのものは、誰にでも使える生活の知恵みたいなもんなのに、それすらも毛嫌いする影みたいな勢力が出てくるっていうのは……因果な話だと思う」
 マルクが椅子の背もたれに寄りかかって言うと、アロンも続いた。
「崇高にしようと思えば、いくらでもハードル上げていけるのに、かみ砕いてかみ砕いてわかりやすく普及させた弊害じゃないけど。身近な考えになればなるほど、反抗期の子どもみたいに背徳なものに惹かれる心理が働くから、結果、少数は万世の秘法の教義からどんどん離れていくんだよね」
「影の受け皿、というところかしら? 万世の秘法が教義の純度を上げれば上げるほど、粗悪なものが零れ落ちる仕組みになってしまっているのね」
 トゥーラが言うと、ポールが身を震わせた。
「怖いねぇ! 俺たち人間は考えも日々変動するから、純度を保とうとしなければ、いつでも粗悪品になり下がるんだ」
 マルクがシャープペンをメモにコツコツ当てた。
「俺たちも嵌まり込む危険を自覚したところで、そろそろ世界の大変革後の童話の里についても考えておきたいな」
















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