219 / 276
第22話『影の受け皿』
しおりを挟む
「ずいぶん思い切ったわね」
柳眉をしかめてトゥーラが言うと、ハンスは大きく頷いた。
「でしょ? 万世の秘法側からすれば、背後から攻撃されたような気になるよね。実際、風刺画を描いた人も、悪辣さが止まらないような禁断の快感に襲われたって話だよ。結局、里に働いてるっていう魔力の使いようだったってことだよね。それでホントに攻撃対象から外れるんだから、風刺様様。被害よりは不快感の方が対処しやすいって、里の人たちは笑ってるよ」
「なるほど……分厚い壁が立ちはだかるより、向こう側が透けて見えた方が親近感が増すってことですかね」
ルイスが言うと、ハンスは笑った。
「ハハッ、そうかもしれないね。聖人君子より知恵を蓄えた名もない人の方が親しみやすいよね。呪界法信奉者側には広告媒体そのものが不足してるけど、攻撃されたとなると過剰反応するだろ? それはどんな過疎地で発信されたとしても、テレパス並みの伝達力なんだよね。彼らは社会に根差してないから、余計に情報にこだわるんだろうな」
「どうせなら、万世の秘法の根幹を成すような情報にアクセスしてほしいですよね」
ランスが言うと、ハンスは首を捻った。
「さぁ、どうでしょう? それを真っ向否定するから呪界法信奉者なんでしょうし。万世の秘法と対立するためには、根幹を成している思想を知らないといけませんけど。そこを攻撃するよりは破壊活動の方がわかりやすいですからね。得体がしれない方が恐怖感を煽れるじゃないですか」
「世界の大変革に際しても、言い分を認めちゃったからねぇ。社会全体の利益には立ってないけど、一部は確実に制御してるもんなぁ。万世の秘法としては感化できないのは致し方ない、ってなるのは当然だし、共存に傾きつつあるのは否めないよね」
ポールが腕を組み、頭を傾けながら言った。
「光が強ければ影が濃くなる、の喩え通りだな。万世の秘法の思想そのものは、誰にでも使える生活の知恵みたいなもんなのに、それすらも毛嫌いする影みたいな勢力が出てくるっていうのは……因果な話だと思う」
マルクが椅子の背もたれに寄りかかって言うと、アロンも続いた。
「崇高にしようと思えば、いくらでもハードル上げていけるのに、かみ砕いてかみ砕いてわかりやすく普及させた弊害じゃないけど。身近な考えになればなるほど、反抗期の子どもみたいに背徳なものに惹かれる心理が働くから、結果、少数は万世の秘法の教義からどんどん離れていくんだよね」
「影の受け皿、というところかしら? 万世の秘法が教義の純度を上げれば上げるほど、粗悪なものが零れ落ちる仕組みになってしまっているのね」
トゥーラが言うと、ポールが身を震わせた。
「怖いねぇ! 俺たち人間は考えも日々変動するから、純度を保とうとしなければ、いつでも粗悪品になり下がるんだ」
マルクがシャープペンをメモにコツコツ当てた。
「俺たちも嵌まり込む危険を自覚したところで、そろそろ世界の大変革後の童話の里についても考えておきたいな」
柳眉をしかめてトゥーラが言うと、ハンスは大きく頷いた。
「でしょ? 万世の秘法側からすれば、背後から攻撃されたような気になるよね。実際、風刺画を描いた人も、悪辣さが止まらないような禁断の快感に襲われたって話だよ。結局、里に働いてるっていう魔力の使いようだったってことだよね。それでホントに攻撃対象から外れるんだから、風刺様様。被害よりは不快感の方が対処しやすいって、里の人たちは笑ってるよ」
「なるほど……分厚い壁が立ちはだかるより、向こう側が透けて見えた方が親近感が増すってことですかね」
ルイスが言うと、ハンスは笑った。
「ハハッ、そうかもしれないね。聖人君子より知恵を蓄えた名もない人の方が親しみやすいよね。呪界法信奉者側には広告媒体そのものが不足してるけど、攻撃されたとなると過剰反応するだろ? それはどんな過疎地で発信されたとしても、テレパス並みの伝達力なんだよね。彼らは社会に根差してないから、余計に情報にこだわるんだろうな」
「どうせなら、万世の秘法の根幹を成すような情報にアクセスしてほしいですよね」
ランスが言うと、ハンスは首を捻った。
「さぁ、どうでしょう? それを真っ向否定するから呪界法信奉者なんでしょうし。万世の秘法と対立するためには、根幹を成している思想を知らないといけませんけど。そこを攻撃するよりは破壊活動の方がわかりやすいですからね。得体がしれない方が恐怖感を煽れるじゃないですか」
「世界の大変革に際しても、言い分を認めちゃったからねぇ。社会全体の利益には立ってないけど、一部は確実に制御してるもんなぁ。万世の秘法としては感化できないのは致し方ない、ってなるのは当然だし、共存に傾きつつあるのは否めないよね」
ポールが腕を組み、頭を傾けながら言った。
「光が強ければ影が濃くなる、の喩え通りだな。万世の秘法の思想そのものは、誰にでも使える生活の知恵みたいなもんなのに、それすらも毛嫌いする影みたいな勢力が出てくるっていうのは……因果な話だと思う」
マルクが椅子の背もたれに寄りかかって言うと、アロンも続いた。
「崇高にしようと思えば、いくらでもハードル上げていけるのに、かみ砕いてかみ砕いてわかりやすく普及させた弊害じゃないけど。身近な考えになればなるほど、反抗期の子どもみたいに背徳なものに惹かれる心理が働くから、結果、少数は万世の秘法の教義からどんどん離れていくんだよね」
「影の受け皿、というところかしら? 万世の秘法が教義の純度を上げれば上げるほど、粗悪なものが零れ落ちる仕組みになってしまっているのね」
トゥーラが言うと、ポールが身を震わせた。
「怖いねぇ! 俺たち人間は考えも日々変動するから、純度を保とうとしなければ、いつでも粗悪品になり下がるんだ」
マルクがシャープペンをメモにコツコツ当てた。
「俺たちも嵌まり込む危険を自覚したところで、そろそろ世界の大変革後の童話の里についても考えておきたいな」
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
公国の後継者として有望視されていたが無能者と烙印を押され、追放されたが、とんでもない隠れスキルで成り上がっていく。公国に戻る?いやだね!
秋田ノ介
ファンタジー
主人公のロスティは公国家の次男として生まれ、品行方正、学問や剣術が優秀で、非の打ち所がなく、後継者となることを有望視されていた。
『スキル無し』……それによりロスティは無能者としての烙印を押され、後継者どころか公国から追放されることとなった。ロスティはなんとかなけなしの金でスキルを買うのだが、ゴミスキルと呼ばれるものだった。何の役にも立たないスキルだったが、ロスティのとんでもない隠れスキルでゴミスキルが成長し、レアスキル級に大化けしてしまう。
ロスティは次々とスキルを替えては成長させ、より凄いスキルを手にしていき、徐々に成り上がっていく。一方、ロスティを追放した公国は衰退を始めた。成り上がったロスティを呼び戻そうとするが……絶対にお断りだ!!!!
小説家になろうにも掲載しています。
全て失う悲劇の悪役による未来改変
近藤玲司
ファンタジー
変更前の名前
【すべてを失ってしまう悲劇の悪役になったが、己の力で家族やヒロインを助け、未来を変える】
ある事が原因で小説の世界に転生してしまった主人公
しかし転生先は自分が大好きだったとある小説の悪役 アクセル・アンドレ・レステンクールだった…!
そんな主人公はアクセルの末路を知っていた。家族は襲われ、姉は毒殺、妹は誘拐され、やがて全てが失っていく。そんなアクセルは人間が憎くなり、後の魔王幹部になったが、周りの部下や仲間達にも裏切られ彼は孤独の中で死んでいく。
「俺は…こいつを、こいつらの家族を救いたいだけだ…それに立ち塞がるのならどんな手を使っても蹂躙してやるよ」
彼のことを救いたいと思った主人公はアクセルの家族、ヒロインを救うためチートと呼ばれてもおかしくない狂気な力を使い、救い、そして彼自信が最凶になっていく…。
これはそんな悲劇の悪役が自分の、そして大切な人たちの未来を変えるために奮闘していく話である。
また各ヒロインとの面白おかしい日常物語でもある。
ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる
街風
ファンタジー
「お前を追放する!」
ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。
しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。
魔晶石ハンター ~ 転生チート少女の数奇な職業活動の軌跡
サクラ近衛将監
ファンタジー
女神様のミスで事故死したOLの大滝留美は、地球世界での転生が難しいために、神々の伝手により異世界アスレオールに転生し、シルヴィ・デルトンとして生を受けるが、前世の記憶は11歳の成人の儀まで封印され、その儀式の最中に前世の記憶ととともに職業を神から告げられた。
シルヴィの与えられた職業は魔晶石採掘師と魔晶石加工師の二つだったが、シルヴィはその職業を知らなかった。
シルヴィの将来や如何に?
毎週木曜日午後10時に投稿予定です。
【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた
きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました!
「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」
魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。
魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。
信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。
悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。
かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。
※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。
※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です
収容所生まれの転生幼女は、囚人達と楽しく暮らしたい
三園 七詩
ファンタジー
旧題:収容所生まれの転生幼女は囚人達に溺愛されてますので幸せです
無実の罪で幽閉されたメアリーから生まれた子供は不幸な生い立ちにも関わらず囚人達に溺愛されて幸せに過ごしていた…そんなある時ふとした拍子に前世の記憶を思い出す!
無実の罪で不幸な最後を迎えた母の為!優しくしてくれた囚人達の為に自分頑張ります!
25歳のオタク女子は、異世界でスローライフを送りたい
こばやん2号
ファンタジー
とある会社に勤める25歳のOL重御寺姫(じゅうおんじひめ)は、漫画やアニメが大好きなオタク女子である。
社員旅行の最中謎の光を発見した姫は、気付けば異世界に来てしまっていた。
頭の中で妄想していたことが現実に起こってしまったことに最初は戸惑う姫だったが、自身の知識と持ち前の性格でなんとか異世界を生きていこうと奮闘する。
オタク女子による異世界生活が今ここに始まる。
※この小説は【アルファポリス】及び【小説家になろう】の同時配信で投稿しています。
野草から始まる異世界スローライフ
深月カナメ
ファンタジー
花、植物に癒されたキャンプ場からの帰り、事故にあい異世界に転生。気付けば子供の姿で、名前はエルバという。
私ーーエルバはスクスク育ち。
ある日、ふれた薬草の名前、効能が頭の中に聞こえた。
(このスキル使える)
エルバはみたこともない植物をもとめ、魔法のある世界で優しい両親も恵まれ、私の第二の人生はいま異世界ではじまった。
エブリスタ様にて掲載中です。
表紙は表紙メーカー様をお借りいたしました。
プロローグ〜78話までを第一章として、誤字脱字を直したものに変えました。
物語は変わっておりません。
一応、誤字脱字、文章などを直したはずですが、まだまだあると思います。見直しながら第二章を進めたいと思っております。
よろしくお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる