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第12話『真夏のお昼時』
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「さぁ、何はともあれ食おうぜ! みんなグラスは渡ったか――?」
マルクの音頭で、全員がグラスを持ち上げた。
「それじゃ、童話の里のますますの発展を祈念して――!」
「乾杯——!!」
折りしも真夏のお昼時。長老の心尽くしで21℃の快適な室温が食欲を増進させる。
「か――っ、うめぇ!」
大食漢のイサクが口に入れた先から頬張る。まるでリスの頬袋のようである。
「遠慮しないでバンバン食え。ポールとトゥーラが腕を奮ってくれるぞ」
タイラーの言葉にポールが受け合う。
「任しとき――!」
「ポールさんとトゥーラさんって、珍しいコンビですね」
イサクが横目で二人の姿を追うと、タイラーが言った。
「ああ、あの二人、付き合ってんだ」
「⁈」
目を白黒させるイサク。吹き出しそうになって慌てて口を塞ぐ。
ナタルが茶々を入れる。
「ちなみにタイラーとオリーブも付き合ってるよ」
驚きすぎてイサクは涙目だった。ごくりと喉が派手に鳴る。
「そ、そうなんですか。知らなかったなぁ、おめでとうございます」
取って付けたようにお祝いを述べたが、その話をフィリップが聞きつけた。
「あんたら、今頃春が来てるわけ?」
アロンが言った。
「最近、忙しくしてるから、恋愛もしたくなるんだよな」
「アロン先生には敵わないよな」
フィリップが吹き出すと、アロンはムスッと一言。
「本命がいなくて悪かったよ」
「フィリップって、この間のテルミちゃんだっけ? 付き合ってるんじゃないの」
「鈍いなぁ、オリーブ。テルミの本命はマルクだよ」
「えっ、そうなの?」
マルクはキーツと話し込んでいて、こちらの話には気づいていない。
「やっぱりな。マルクに麦茶注いでた時、顔赤らめてたし彼女」
アロンならではの観察眼だった。
「で、実際どうよ? マルクって彼女いるの」
「いるって話は聞かないわよね」
オリーブが言うと、タイラーも首を捻る。
「いても全然おかしくないんだがな」
アロンが首を振りながら言った。
「テルミちゃんだっけか、残念だったな。マルクには婚約者がいるんだ」
「なにをーっ!」
「あらーっ、取り澄ました顔してやってくれる」
タイラーとオリーブが呆気に取られている。アロンが続ける。
「たぶん、俺しか知らないと思うんだけど。前にポールの生産修法のおさらいした時に、ちらっと打ち明けられてさ。幼馴染みで家族ぐるみの付き合いなんだってさ。結婚は世界の大変革の後にしてもらってるらしいよ」
「なるほど……入り込む隙がないな。フィリップ、どうする?」
「そうだなぁ……そういう事情があって、大胆に行動するよりは、諦めて別のいい男を探してもらいたいけどな」
「ねぇ、イサクは⁈」
このオリーブの思いつきに、さすがのイサクも吹き出した。
「じょっ、冗談はやめてくださいよ、オリーブさん。俺みたいなガキがマルクさんと並び立てるわけがないじゃないですか!」
ナタルからナプキンをもらって、粗相を始末しながら訴えるイサク。
「それもそうね……」
ハァッと溜め息をつくオリーブ。その腕をタイラーが肘で突っつく。
「あ、ごめん! ごめんねイサク」
「いえ、いいんです」
「酷いなぁ、オリーブ。余裕ぶちかまさないでくれよ。こいつ、結構気にしいなんだぜ」
フィリップがフォローする。
「ごめんね、イサク」
「いえ、気にしてないです」
「骨付きチキン食べる?」
「——いただきます」
これでイサクの気持は済んだのだった。
マルクの音頭で、全員がグラスを持ち上げた。
「それじゃ、童話の里のますますの発展を祈念して――!」
「乾杯——!!」
折りしも真夏のお昼時。長老の心尽くしで21℃の快適な室温が食欲を増進させる。
「か――っ、うめぇ!」
大食漢のイサクが口に入れた先から頬張る。まるでリスの頬袋のようである。
「遠慮しないでバンバン食え。ポールとトゥーラが腕を奮ってくれるぞ」
タイラーの言葉にポールが受け合う。
「任しとき――!」
「ポールさんとトゥーラさんって、珍しいコンビですね」
イサクが横目で二人の姿を追うと、タイラーが言った。
「ああ、あの二人、付き合ってんだ」
「⁈」
目を白黒させるイサク。吹き出しそうになって慌てて口を塞ぐ。
ナタルが茶々を入れる。
「ちなみにタイラーとオリーブも付き合ってるよ」
驚きすぎてイサクは涙目だった。ごくりと喉が派手に鳴る。
「そ、そうなんですか。知らなかったなぁ、おめでとうございます」
取って付けたようにお祝いを述べたが、その話をフィリップが聞きつけた。
「あんたら、今頃春が来てるわけ?」
アロンが言った。
「最近、忙しくしてるから、恋愛もしたくなるんだよな」
「アロン先生には敵わないよな」
フィリップが吹き出すと、アロンはムスッと一言。
「本命がいなくて悪かったよ」
「フィリップって、この間のテルミちゃんだっけ? 付き合ってるんじゃないの」
「鈍いなぁ、オリーブ。テルミの本命はマルクだよ」
「えっ、そうなの?」
マルクはキーツと話し込んでいて、こちらの話には気づいていない。
「やっぱりな。マルクに麦茶注いでた時、顔赤らめてたし彼女」
アロンならではの観察眼だった。
「で、実際どうよ? マルクって彼女いるの」
「いるって話は聞かないわよね」
オリーブが言うと、タイラーも首を捻る。
「いても全然おかしくないんだがな」
アロンが首を振りながら言った。
「テルミちゃんだっけか、残念だったな。マルクには婚約者がいるんだ」
「なにをーっ!」
「あらーっ、取り澄ました顔してやってくれる」
タイラーとオリーブが呆気に取られている。アロンが続ける。
「たぶん、俺しか知らないと思うんだけど。前にポールの生産修法のおさらいした時に、ちらっと打ち明けられてさ。幼馴染みで家族ぐるみの付き合いなんだってさ。結婚は世界の大変革の後にしてもらってるらしいよ」
「なるほど……入り込む隙がないな。フィリップ、どうする?」
「そうだなぁ……そういう事情があって、大胆に行動するよりは、諦めて別のいい男を探してもらいたいけどな」
「ねぇ、イサクは⁈」
このオリーブの思いつきに、さすがのイサクも吹き出した。
「じょっ、冗談はやめてくださいよ、オリーブさん。俺みたいなガキがマルクさんと並び立てるわけがないじゃないですか!」
ナタルからナプキンをもらって、粗相を始末しながら訴えるイサク。
「それもそうね……」
ハァッと溜め息をつくオリーブ。その腕をタイラーが肘で突っつく。
「あ、ごめん! ごめんねイサク」
「いえ、いいんです」
「酷いなぁ、オリーブ。余裕ぶちかまさないでくれよ。こいつ、結構気にしいなんだぜ」
フィリップがフォローする。
「ごめんね、イサク」
「いえ、気にしてないです」
「骨付きチキン食べる?」
「——いただきます」
これでイサクの気持は済んだのだった。
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