100 / 276
第10話『ポールの述懐』
しおりを挟む
その頃、童話の里の宿泊所では、ポールが青い顔をしてベッドに横になっていた。
トゥーラは簡易キッチンで材料を自分の部屋からテレポートで取り寄せて、小さな土鍋で牛乳粥を作っている。
プワーンと漂う牛乳の甘い匂い。日向の匂いがする優しい肌触りのリネン。自分を看護するために料理するトゥーラ。
(いいなぁ……)
つかの間の安らぎに浸るポール。長い独身生活のほんの華やぎだった。
彼は気づいていなかったが、まるで作家に締め切りを守らせる編集者の如きテレパスの問い合わせがぱったり止んでいた。
トゥーラがトレイに土鍋を載せて、ゆっくり振り返った。
熱々の湯気が揺れている。
「お待たせ、ポール。熱いから気をつけて」
優しい微笑みに目頭が熱くなりながら、ポールは起き上がってサイドテーブルを寄せた。
ゆっくり手を合わせる。
「……いただきます」
それは至福の時だった。
かつてトゥーラが自分のこんなに優しくしてくれたことはない。
ずいぶん前の話になるが、一目惚れして告白したこともある。
玉砕だったが、NWSでともにリーダー職に就いてからは、ぎくしゃくもせず交流してきた。
大人なんだから――そう言い聞かせてきた。
こんな形で報われるとは思いもしなかった。
粥に染み込んだ牛乳のように、トゥーラの優しさがいっぱい溶け込んでいた。
泣きながら食べた。
「——うまい」
「……そう、よかったわ」
「うん、冷えた胃が温められる感じ」
「……」
「トゥーラは料理も上手なんだね。いいお嫁さんになるよ」
「私のことより、まず自分のことを大事にして」
「えっ」
ちょっと怒っているトゥーラに目を見張るポール。
トゥーラは目に鋭く涙を溜めて言った。
「テレパスで押しかけられてるでしょ。無断で悪いのだけど、シールドを張らせてもらったわ」
トゥーラは簡易キッチンで材料を自分の部屋からテレポートで取り寄せて、小さな土鍋で牛乳粥を作っている。
プワーンと漂う牛乳の甘い匂い。日向の匂いがする優しい肌触りのリネン。自分を看護するために料理するトゥーラ。
(いいなぁ……)
つかの間の安らぎに浸るポール。長い独身生活のほんの華やぎだった。
彼は気づいていなかったが、まるで作家に締め切りを守らせる編集者の如きテレパスの問い合わせがぱったり止んでいた。
トゥーラがトレイに土鍋を載せて、ゆっくり振り返った。
熱々の湯気が揺れている。
「お待たせ、ポール。熱いから気をつけて」
優しい微笑みに目頭が熱くなりながら、ポールは起き上がってサイドテーブルを寄せた。
ゆっくり手を合わせる。
「……いただきます」
それは至福の時だった。
かつてトゥーラが自分のこんなに優しくしてくれたことはない。
ずいぶん前の話になるが、一目惚れして告白したこともある。
玉砕だったが、NWSでともにリーダー職に就いてからは、ぎくしゃくもせず交流してきた。
大人なんだから――そう言い聞かせてきた。
こんな形で報われるとは思いもしなかった。
粥に染み込んだ牛乳のように、トゥーラの優しさがいっぱい溶け込んでいた。
泣きながら食べた。
「——うまい」
「……そう、よかったわ」
「うん、冷えた胃が温められる感じ」
「……」
「トゥーラは料理も上手なんだね。いいお嫁さんになるよ」
「私のことより、まず自分のことを大事にして」
「えっ」
ちょっと怒っているトゥーラに目を見張るポール。
トゥーラは目に鋭く涙を溜めて言った。
「テレパスで押しかけられてるでしょ。無断で悪いのだけど、シールドを張らせてもらったわ」
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
その選択、必ず後悔することになりますよ?
柚木ゆず
ファンタジー
ベルナール殿下、陛下、妃殿下、第2第3王子殿下。ご自身にとって都合が悪いからと、わたくし聖女ファニーの殺害を企まれていますよね?
ただちにお止めください。
このまま実行してしまいますと、貴方がたは激しく後悔する羽目になりますよ。
※こちらはファンタジージャンルとなっておりますので、ファンタジー的な存在(異形)が登場する場面がございます。
レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~
喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。
おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。
ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。
落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。
機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。
覚悟を決めてボスに挑む無二。
通販能力でからくも勝利する。
そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。
アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。
霧のモンスターには掃除機が大活躍。
異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。
カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。
【取り下げ予定】アマレッタの第二の人生
ごろごろみかん。
恋愛
『僕らは、恋をするんだ。お互いに』
彼がそう言ったから。
アマレッタは彼に恋をした。厳しい王太子妃教育にも耐え、誰もが認める妃になろうと励んだ。
だけどある日、婚約者に呼び出されて言われた言葉は、彼女の想像を裏切るものだった。
「きみは第二妃となって、エミリアを支えてやって欲しい」
その瞬間、アマレッタは思い出した。
この世界が、恋愛小説の世界であること。
そこで彼女は、悪役として処刑されてしまうこと──。
アマレッタの恋心を、彼は利用しようと言うのだ。誰からの理解も得られず、深い裏切りを受けた彼女は、国を出ることにした。
一方、彼女が去った後。国は、緩やかに破滅の道を辿ることになる。
我が家の乗っ取りを企む婚約者とその幼馴染みに鉄槌を下します!
真理亜
恋愛
とある侯爵家で催された夜会、伯爵令嬢である私ことアンリエットは、婚約者である侯爵令息のギルバートと逸れてしまい、彼の姿を探して庭園の方に足を運んでいた。
そこで目撃してしまったのだ。
婚約者が幼馴染みの男爵令嬢キャロラインと愛し合っている場面を。しかもギルバートは私の家の乗っ取りを企んでいるらしい。
よろしい! おバカな二人に鉄槌を下しましょう!
長くなって来たので長編に変更しました。
【完結】ご都合主義で生きてます。-ストレージは最強の防御魔法。生活魔法を工夫し創生魔法で乗り切る-
ジェルミ
ファンタジー
鑑定サーチ?ストレージで防御?生活魔法を工夫し最強に!!
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。
しかし授かったのは鑑定や生活魔法など戦闘向きではなかった。
しかし生きていくために生活魔法を組合せ、工夫を重ね創生魔法に進化させ成り上がっていく。
え、鑑定サーチてなに?
ストレージで収納防御て?
お馬鹿な男と、それを支えるヒロインになれない3人の女性達。
スキルを試行錯誤で工夫し、お馬鹿な男女が幸せを掴むまでを描く。
※この作品は「ご都合主義で生きてます。商売の力で世界を変える」を、もしも冒険者だったら、として内容を大きく変えスキルも制限し一部文章を流用し前作を読まなくても楽しめるように書いています。
またカクヨム様にも掲載しております。
愛すべきマリア
志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。
学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。
家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。
早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。
頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。
その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。
体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。
しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。
他サイトでも掲載しています。
表紙は写真ACより転載しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる