23 / 276
第3話『ナタルの諦めとポールの失態』
しおりを挟む
「なんか、トゥーラ個人のパーソナルカラーコードっていう、マイク型の検索機があってね。音声入力でワードを絞り込んでいくんだって。例えば三行以下は除くとか、文学とか医療なんかの別分野を外したり、情報が古すぎるのも避けるらしいんだけど。そういう情報処理能力がないと、てんで歯が立たないし、役に立たないんだよね」
「へぇ……」
ナタルの話を聞いた、タイラー、ランス、ルイスは、おそらく自分が行っても同じく役に立たないだろうと思った。
「ナタル、残留組の受付係でしょ。急いで!」
トゥーラの手伝いをしていたオリーブが、遠くからナタルを呼んだ。
「はいはい、今行くよ」
ナタルが行ってしまった後で、ポールが合流した。
「やれやれ、こってり絞られた。アインスさんに」
「アインスさんに?」
ルイスが問い返す。
「そう。5班の野郎どもが、アインスさん行きつけの会員制バーで談合してたのを見つかったらしくてさぁ」
アインス・エターナリストは長老を補佐する修法者で、実質上、童話の里のお目付け役である。
「話が見えねぇな。初めから説明しろ」
タイラーに言われて、ポールは頭を掻いた。
「それがさぁ……」
リーダー会議があった昇陽の一月清祓の五日、夜のことだった。
今年の仕事を不参加にした5班男性メンバー6人を呼び出したポール。
酒も交えて理由を聞こうと、選んだ場所は居酒屋『ぼんくら』。
黒い仕切り壁で囲まれた個室で、気持ちよくビールを呷って、十分喉を湿らせてからお題を切り出す。
「ところで……君らはどうして、カエリウスの仕事をキャンセルしたわけ?」
途端に6人はどっちらけになってしまった。
「……忘れたんですか、ポールさん」
そう言ったのは、5班のNo.2を自認するエイダス・プレイナーだった。
「ご、ごめん。やっぱり俺、なんか言ったの?」
「これだもんなぁ」
「ホント、勘弁してほしい」
プラトとヤンセラも続く。
縮こまるポールに、エイダスが説明する。
「去年の香静の二十五日のことですよ。5班メンバーの打ち上げパーティーの席で……」
「君たち、仕事は常に創造性を探求するべきだよ」
ポールが演説を始める前触れは、手酌で純米酒を桝に注いだ時と決まっている。
「位階が低いからって、そのレベルでしか物を見なければ、ルーティンワークのようにつまらない仕事しかできなくなる。これを脱するためには、鳥俯瞰者や修法者の気持ちになって仕事することなんだよ。その気になるってこと、おわかり?」
――こういう時の対処法は、女性メンバーが心得ていて、酒を注いでやると上機嫌になってベラべラ話し出す。彼女たちは戯言としか受け取らないで黙殺するが、男性メンバーはちょっと違う。ポールの傾向と対策として、彼の好む計画行動を心掛ける。そうしないと、後でいちいちほじくり返されるのだ。彼らだって酒の席のたわごとで右往左往するのは嫌だ。が、ポールの言うことに分があるのか、従うといい出目がでることが多い。
そこで、今回はどうしようかと相談していたところ、アインスに会ったのだ。
「アインスさんに事情をお話したら、「君たち、農業実習をしながら、障害者の就労を支援する仕事をしてみないか?」って誘っていただいたんです。ちょうど新しい事業所を起ち上げるところで、鳥俯瞰者の研修にも利用されるからニーズも満たせる
って。わかりますよね、渡りに船ですよ。その場でお願いしますって申し出ましたよ」
「……」
右手で両目を覆うポール。完全に自分の落ち度である。
「ポールさんにはアインスさん自ら説明するって言ってました。まだお話はないんですか?」
「あ、いやわかった。たぶんあれだ」
「あれ?」
「うん、いいんだ。酒の席のことで迷惑かけて悪かった。今日は思いっきり飲んで、就労支援の仕事頑張ってな」
「——で、アインスさんに、5班の監督不行き届きとルーズな金銭感覚、さらに飛躍のしすぎで、大目玉を食らったと」
タイラーが諳んじると、ポールは腕で目を覆った。
「今、俺より情けない思いをしてる人間がいたら会ってみたいよ」
「『禍を転じて福と為す』じゃありませんか? 一年後、5班の男性メンバーが戻ってきた時には、班全体のレベルアップに繋がるじゃないですか」
「そうですよ」
ランスとルイスはそう慰めたが、ポールは楽観視していなかった。
「詰めの甘さで泣きを見てるのが、せいぜいじゃないのかなぁ」
「へぇ……」
ナタルの話を聞いた、タイラー、ランス、ルイスは、おそらく自分が行っても同じく役に立たないだろうと思った。
「ナタル、残留組の受付係でしょ。急いで!」
トゥーラの手伝いをしていたオリーブが、遠くからナタルを呼んだ。
「はいはい、今行くよ」
ナタルが行ってしまった後で、ポールが合流した。
「やれやれ、こってり絞られた。アインスさんに」
「アインスさんに?」
ルイスが問い返す。
「そう。5班の野郎どもが、アインスさん行きつけの会員制バーで談合してたのを見つかったらしくてさぁ」
アインス・エターナリストは長老を補佐する修法者で、実質上、童話の里のお目付け役である。
「話が見えねぇな。初めから説明しろ」
タイラーに言われて、ポールは頭を掻いた。
「それがさぁ……」
リーダー会議があった昇陽の一月清祓の五日、夜のことだった。
今年の仕事を不参加にした5班男性メンバー6人を呼び出したポール。
酒も交えて理由を聞こうと、選んだ場所は居酒屋『ぼんくら』。
黒い仕切り壁で囲まれた個室で、気持ちよくビールを呷って、十分喉を湿らせてからお題を切り出す。
「ところで……君らはどうして、カエリウスの仕事をキャンセルしたわけ?」
途端に6人はどっちらけになってしまった。
「……忘れたんですか、ポールさん」
そう言ったのは、5班のNo.2を自認するエイダス・プレイナーだった。
「ご、ごめん。やっぱり俺、なんか言ったの?」
「これだもんなぁ」
「ホント、勘弁してほしい」
プラトとヤンセラも続く。
縮こまるポールに、エイダスが説明する。
「去年の香静の二十五日のことですよ。5班メンバーの打ち上げパーティーの席で……」
「君たち、仕事は常に創造性を探求するべきだよ」
ポールが演説を始める前触れは、手酌で純米酒を桝に注いだ時と決まっている。
「位階が低いからって、そのレベルでしか物を見なければ、ルーティンワークのようにつまらない仕事しかできなくなる。これを脱するためには、鳥俯瞰者や修法者の気持ちになって仕事することなんだよ。その気になるってこと、おわかり?」
――こういう時の対処法は、女性メンバーが心得ていて、酒を注いでやると上機嫌になってベラべラ話し出す。彼女たちは戯言としか受け取らないで黙殺するが、男性メンバーはちょっと違う。ポールの傾向と対策として、彼の好む計画行動を心掛ける。そうしないと、後でいちいちほじくり返されるのだ。彼らだって酒の席のたわごとで右往左往するのは嫌だ。が、ポールの言うことに分があるのか、従うといい出目がでることが多い。
そこで、今回はどうしようかと相談していたところ、アインスに会ったのだ。
「アインスさんに事情をお話したら、「君たち、農業実習をしながら、障害者の就労を支援する仕事をしてみないか?」って誘っていただいたんです。ちょうど新しい事業所を起ち上げるところで、鳥俯瞰者の研修にも利用されるからニーズも満たせる
って。わかりますよね、渡りに船ですよ。その場でお願いしますって申し出ましたよ」
「……」
右手で両目を覆うポール。完全に自分の落ち度である。
「ポールさんにはアインスさん自ら説明するって言ってました。まだお話はないんですか?」
「あ、いやわかった。たぶんあれだ」
「あれ?」
「うん、いいんだ。酒の席のことで迷惑かけて悪かった。今日は思いっきり飲んで、就労支援の仕事頑張ってな」
「——で、アインスさんに、5班の監督不行き届きとルーズな金銭感覚、さらに飛躍のしすぎで、大目玉を食らったと」
タイラーが諳んじると、ポールは腕で目を覆った。
「今、俺より情けない思いをしてる人間がいたら会ってみたいよ」
「『禍を転じて福と為す』じゃありませんか? 一年後、5班の男性メンバーが戻ってきた時には、班全体のレベルアップに繋がるじゃないですか」
「そうですよ」
ランスとルイスはそう慰めたが、ポールは楽観視していなかった。
「詰めの甘さで泣きを見てるのが、せいぜいじゃないのかなぁ」
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う
たくみ
ファンタジー
圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。
アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。
ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?
それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。
自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。
このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。
それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。
※小説家になろうさんで投稿始めました
【完結】魔法は使えるけど、話が違うんじゃね!?
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
「話が違う!!」
思わず叫んだオレはがくりと膝をついた。頭を抱えて呻く姿に、周囲はドン引きだ。
「確かに! 確かに『魔法』は使える。でもオレが望んだのと全っ然! 違うじゃないか!!」
全力で世界を否定する異世界人に、誰も口を挟めなかった。
異世界転移―――魔法が使え、皇帝や貴族、魔物、獣人もいる中世ヨーロッパ風の世界。簡易説明とカミサマ曰くのチート能力『魔法』『転生先基準の美形』を授かったオレの新たな人生が始まる!
と思ったが、違う! 説明と違う!!! オレが知ってるファンタジーな世界じゃない!?
放り込まれた戦場を絶叫しながら駆け抜けること数十回。
あれ? この話は詐欺じゃないのか? 絶対にオレ、騙されたよな?
これは、間違った意味で想像を超える『ファンタジーな魔法世界』を生き抜く青年の成長物語―――ではなく、苦労しながら足掻く青年の哀れな戦場記録である。
【注意事項】BLっぽい表現が一部ありますが、BLではありません
(ネタバレになるので詳細は伏せます)
【同時掲載】アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、小説家になろう
2019年7月 ※エブリスタ「特集 最強無敵の主人公~どんな逆境もイージーモード!~」掲載
2020年6月 ※ノベルアップ+ 第2回小説大賞「異世界ファンタジー」二次選考通過作品(24作品)
2021年5月 ※ノベルバ 第1回ノベルバノベル登竜門コンテスト、最終選考掲載作品
2021年9月 9/26完結、エブリスタ、ファンタジー4位
キャンピングカーで往く異世界徒然紀行
タジリユウ
ファンタジー
《第4回次世代ファンタジーカップ 面白スキル賞》
【書籍化!】
コツコツとお金を貯めて念願のキャンピングカーを手に入れた主人公。
早速キャンピングカーで初めてのキャンプをしたのだが、次の日目が覚めるとそこは異世界であった。
そしていつの間にかキャンピングカーにはナビゲーション機能、自動修復機能、燃料補給機能など様々な機能を拡張できるようになっていた。
道中で出会ったもふもふの魔物やちょっと残念なエルフを仲間に加えて、キャンピングカーで異世界をのんびりと旅したいのだが…
※旧題)チートなキャンピングカーで旅する異世界徒然紀行〜もふもふと愉快な仲間を添えて〜
※カクヨム様でも投稿をしております
引退した元生産職のトッププレイヤーが、また生産を始めるようです
こばやん2号
ファンタジー
とあるVRMMOで生産職最高峰の称号であるグランドマスター【神匠】を手に入れた七五三俊介(なごみしゅんすけ)は、やることはすべてやりつくしたと満足しそのまま引退する。
大学を卒業後、内定をもらっている会社から呼び出しがあり行ってみると「我が社で配信予定のVRMMOを、プレイヤー兼チェック係としてプレイしてくれないか?」と言われた。
生産職のトップまで上り詰めた男が、再び生産職でトップを目指す!
更新頻度は不定期です。
思いついた内容を書き殴っているだけの垂れ流しですのでその点をご理解ご了承いただければ幸いです。
※この小説は【アルファポリス】及び【小説家になろう】の同時配信で投稿しています。
宮廷から追放された聖女の回復魔法は最強でした。後から戻って来いと言われても今更遅いです
ダイナイ
ファンタジー
「お前が聖女だな、お前はいらないからクビだ」
宮廷に派遣されていた聖女メアリーは、お金の無駄だお前の代わりはいくらでもいるから、と宮廷を追放されてしまった。
聖国から王国に派遣されていた聖女は、この先どうしようか迷ってしまう。とりあえず、冒険者が集まる都市に行って仕事をしようと考えた。
しかし聖女は自分の回復魔法が異常であることを知らなかった。
冒険者都市に行った聖女は、自分の回復魔法が周囲に知られて大変なことになってしまう。
封印されていたおじさん、500年後の世界で無双する
鶴井こう
ファンタジー
「魔王を押さえつけている今のうちに、俺ごとやれ!」と自ら犠牲になり、自分ごと魔王を封印した英雄ゼノン・ウェンライト。
突然目が覚めたと思ったら五百年後の世界だった。
しかもそこには弱体化して少女になっていた魔王もいた。
魔王を監視しつつ、とりあえず生活の金を稼ごうと、冒険者協会の門を叩くゼノン。
英雄ゼノンこと冒険者トントンは、おじさんだと馬鹿にされても気にせず、時代が変わってもその強さで無双し伝説を次々と作っていく。
貧弱の英雄
カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。
貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。
自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる――
※修正要請のコメントは対処後に削除します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる