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第二章

第十二話

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「ちょっと、馬嫁下女。さっきから何ぼーっとしているのよ。動かないんだったら、空気を吸うのも病めなさいよね。クルマの排気ガスでも吸う方がいくらかマシよ。」

「病という文字を使うの、やめてくださる?オレは、辛い現実を忘れようと逃避しているのですから。本当は排気ガスでも吸って、CO2濃度を下げたい希望は持っておりますわ。」

「辛い現実?それは馬人間に共通するものじゃないの。生きていればいろんな壁にぶち当たるわ。それを苦しみながら戦う。そこに努力・友情・勝利があって、生きているっていう実感と時間を得る。苦しみと楽しみは表裏一体だわ。それが人生ってものじゃないの。辛さと快楽はすべての行動につきものなのよ。馬嫁下女の辛さって、何かわからないけど、それは大事なものかもしれないわよ。」

「たしかに、オレは辛い女子ですわ。・・・女子、女子、女子。その響きが喉に刺さった魚の骨に思えますわ。どうして、こんな淑女なのに、一人称が『オレ』なのかしら。それに自分の思考の中では、言葉使いはまるで男子だし。桃羅からの呼び名は『オヨメ姉ちゃん』。そう言えば、転校していったオレのいとこは宇佐鬼大悟・・・このいとこの記憶がありませんわ。」

「そうよ。アタシにも、その大悟って名前がひどく懐かしいような気がするわ。それにアタシには馬嫁下女が女の子っていう感覚がまったくないわよ。その喋り方はひたすらキモイわ。そもそも宇佐鬼大悟って、いったいどこの誰よ?」

「宇佐鬼大悟・・・。いったい誰でしょう。思い出せませんわ。」

 体育館前でオヨメ姉と楡浬が共に腕組みをして、首を捻っていた時。

『ドドド!』『ドーン!』
 何かがダッシュしてきて、オヨメ姉に体当たりしてきて、玉突きで楡浬にも慣性の法則で衝撃の運動エネルギーが伝達されたが、オヨメ姉はからだを丸めて、背中を大地に預けるように楡浬を抱えて倒れた。

「危ないでござる!」

「それはこっちのセリフですわ。いきなりぶつかってきて、頭を少し打ちましたが、なんとか受け身でケガはありませんけど。」
 オヨメ姉の前に立っているのは、黒色の全身タイツのような忍者服を着た女子。頭巾をしたままで顔が隠れている。

「これは失礼したでござる。ふたりの間に大きな危険が見えたでござる。感知の字。」
なぜか、筆を持っていて、しっかりと額に文字を刻む忍者女子。

「この通り、全身ピンピン、ビンビンですわ。」

「ちょっと、後段のフレーズはビミョーに怪しいわよ。」

「あくまで、からだが大丈夫だということを、擬態語を使って表現したまでですわ。決して、淫靡なイメージは保有しておりません。」

「別にそこまで言ってないし。」
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