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第一章

第七話

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「いつもこの運動もやってるからね。こんなことするためにやってるんじゃないけど、思わぬところで役立ったね。」

「やめろ、桃羅!」
立ち上がった大悟が女教師に向かって叫んだ、いや吠えたというのが正しい。

「でもこれって、お兄ちゃんを守るためなんだから。お兄ちゃんとの個人授業という名のデートを遮られたことは絶対に許せないよ。」

「そんなことで、放し飼いの虎に立ち向かうなんて、無謀過ぎるぞ。」

「ミジンコから虎扱いされるとは思わなかったねぇ。褒められているのか、バカにされているのか、判断できないけどお。いずれにしても、おふくの前に立つなんて138億年早いんだよぉ。おふくの力の10の100乗分の1しかない存在の質量を実感してねぇ。神痛力をちょっとだけ使っちゃうよ。はむ。」

福禄寿は白く錆かかった古い一円玉を小さな口の奥に放り込んだ。すると、福禄寿の顔が白く光った。顔が輝いたのではない。目から眩い光が発せられたのである。
【イタイ!】どこかで小さな音がした。

「準備OK。これから行われることは人間の視覚では捕らえきれないから、目を皿のようにしててねぇ。って、無意味な行動になっちゃうかなぁ。」
福禄寿が女教師に向けてそう言った刹那、この世界から消滅したことに女教師も気づかなかった。

「あ~あ。儚い命には墓もいらないねぇ。」
福禄寿はつまらなさそうに、女教師の消えた教壇に目をやった。

「つくづく神のルールを守らぬヤツじゃ。尻拭いばかりを何十億年やってきたことかのう。」
寿老人は一万円札を口にしていた。

「コトブキちゃん。どうして邪魔したんだよぉ。おふくは人間界のゴミ掃除をしただけなんだけどぉ。」

「たしかにゴミはゴミじゃが、現代の人間界にはリサイクル・エコというご都合主義のキーワードがある。」

「そんな主義主張は、思想としてまともな立脚点を持たないんじゃないのぉ?」

「今の人間界、いや有史以来、人間界はすべからくご都合主義で成り立っておるんじゃ。大義名分とも言われるがの。人間は他人の前で行動する時、そこに理屈を求めて、心の安寧を得る動物じゃ。根拠なしに歩けば、偏見という棒に当たる。棒は仲間外れ、つまり集団からの排除、排斥へと後退的発展となる。それが差別に繋がっておる。だから、差別発生トリガーをひかせぬため、ご都合主義を大事にすることが肝要なのじゃ。」

「いちばん前の神様ふたり。何をごちゃごちゃ言ってるの。今はホームルーム中だよ。静かにしてよね。あれ?あたし、ほんの一瞬だけど、目の前が真っ暗になったような気がしたけど、気のせいね。うんうん。」
教師桃羅は復活していた。クラスの誰もが教師桃羅の消滅・復活を認識できなかったのである。
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