6 / 76
第一章
第五部分
しおりを挟む
一番聞きたいこと、それは聞いてはならないことだという悪い直感が、美散を制止するが、やっぱり質問してしまったのは乙女心。
「け、結婚はできるの?」
「言わずもがなです。それでも言えとおっしゃいますか?」
美散はしばし考えたが首を小さく縦に振った。
「人間とのからだの違いを認識すべきです。これがお答えできる精一杯です。そんな巨人症ですが、まだマシな方なのですよ。」
「どこがだよ!くそー!うえ~ん。」
涙が溢れて止まらなくなった美散。
「もう夢も希望もないよ。恋ができないなんて、生きてる意味ないよ!人生でいちばん大切なものに全然手が届かなくなったんだよ。これ以上に悲しいことって、あると思う?あたしに女の子であることを放棄しろっていうことだよ!」
巷では、人生死ぬまで恋できるし、青春なんだと言われるが、恋の価値は世代で均一ではない。十代の半ばから後半にする恋が最も尊いものである。初恋は実らないと言われるが、例え実らなくても、人間の短い一生の中では、何物にも代え難く、得難いものである。青春時代に彼氏、彼女を得られなかったとしても、自分の内的世界では必ず何かが芽生えたはず。他人との接触を拒否したニート、ヲタクでさえ、二次元には恋したハズである。恋愛対象は多次元である。物理学に埋没した者は四次元やn次元を対象としたかもしれないが、それもまたアリである。
床に張り付いたまま、頭を抱え込んで泣き叫ぶ美散に対して、医者は、無機質に隣の部屋を指差した。
「そちらで着替えてください。すぐにお迎えが来ますから。」
どうしたらいいのかわからない美散は、言われるがままに、移動してドアを開いた。
そこは、真っ白な空間で、はちきれんばかりになっているセーラー服から、白地にオレンジ色のラインが引かれている上下の服に着替えて、前にツバの付いた黒い帽子を被った。靴は黒く、底には複数の金具が付いていて、歩きにくい。
白い部屋は巨大な倉庫のようであったが、美散は手を伸ばすと、その天井に届きそうであった。
そこに宅配便の緑帽子を被った、緑つなぎ服の者がやってきて、美散に声をかけた。
「情野美散選手、こちらのトラックに乗って下さい。」
「だ、誰?こ、こわい!」
再び5メートルシフトを形成した美散。
「宅灰便です。こちらに来てください。そのままでは業務に支障をきたします!」
額にシワを寄せる業者に合わせるように、美散も額に『への字』を描いた。
「『灰』を運ぶ業者なんてイヤだよ!それに『選手』だって?ど、どうしてあたしが乗らなきゃいけないんだよ。それにどこにいくんだよ。すごくこわいような感じだけど。」
負け犬遠吠えポーズで抗議する美散。強い調子で抗議できるのは、5メートルという距離のメリットである。
「行けばわかります。それにこれからの美散選手の行き場は、そこしかありませんから。」
「ちょ、ちょっと待ってよ!ここから離れたくないよ~。」
拒否る美散であったが、緑帽子は、連行するように美散をトラックに載せた。載せたという漢字の通り、美散は目隠しをされて、ジュラルミンで覆われた荷台に載せられていた。
トラックはそのままいずこかへ走り去っていった。無論、美散に、行く先はわかるはずもなかった。
「け、結婚はできるの?」
「言わずもがなです。それでも言えとおっしゃいますか?」
美散はしばし考えたが首を小さく縦に振った。
「人間とのからだの違いを認識すべきです。これがお答えできる精一杯です。そんな巨人症ですが、まだマシな方なのですよ。」
「どこがだよ!くそー!うえ~ん。」
涙が溢れて止まらなくなった美散。
「もう夢も希望もないよ。恋ができないなんて、生きてる意味ないよ!人生でいちばん大切なものに全然手が届かなくなったんだよ。これ以上に悲しいことって、あると思う?あたしに女の子であることを放棄しろっていうことだよ!」
巷では、人生死ぬまで恋できるし、青春なんだと言われるが、恋の価値は世代で均一ではない。十代の半ばから後半にする恋が最も尊いものである。初恋は実らないと言われるが、例え実らなくても、人間の短い一生の中では、何物にも代え難く、得難いものである。青春時代に彼氏、彼女を得られなかったとしても、自分の内的世界では必ず何かが芽生えたはず。他人との接触を拒否したニート、ヲタクでさえ、二次元には恋したハズである。恋愛対象は多次元である。物理学に埋没した者は四次元やn次元を対象としたかもしれないが、それもまたアリである。
床に張り付いたまま、頭を抱え込んで泣き叫ぶ美散に対して、医者は、無機質に隣の部屋を指差した。
「そちらで着替えてください。すぐにお迎えが来ますから。」
どうしたらいいのかわからない美散は、言われるがままに、移動してドアを開いた。
そこは、真っ白な空間で、はちきれんばかりになっているセーラー服から、白地にオレンジ色のラインが引かれている上下の服に着替えて、前にツバの付いた黒い帽子を被った。靴は黒く、底には複数の金具が付いていて、歩きにくい。
白い部屋は巨大な倉庫のようであったが、美散は手を伸ばすと、その天井に届きそうであった。
そこに宅配便の緑帽子を被った、緑つなぎ服の者がやってきて、美散に声をかけた。
「情野美散選手、こちらのトラックに乗って下さい。」
「だ、誰?こ、こわい!」
再び5メートルシフトを形成した美散。
「宅灰便です。こちらに来てください。そのままでは業務に支障をきたします!」
額にシワを寄せる業者に合わせるように、美散も額に『への字』を描いた。
「『灰』を運ぶ業者なんてイヤだよ!それに『選手』だって?ど、どうしてあたしが乗らなきゃいけないんだよ。それにどこにいくんだよ。すごくこわいような感じだけど。」
負け犬遠吠えポーズで抗議する美散。強い調子で抗議できるのは、5メートルという距離のメリットである。
「行けばわかります。それにこれからの美散選手の行き場は、そこしかありませんから。」
「ちょ、ちょっと待ってよ!ここから離れたくないよ~。」
拒否る美散であったが、緑帽子は、連行するように美散をトラックに載せた。載せたという漢字の通り、美散は目隠しをされて、ジュラルミンで覆われた荷台に載せられていた。
トラックはそのままいずこかへ走り去っていった。無論、美散に、行く先はわかるはずもなかった。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説


侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました
下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。
ご都合主義のSS。
お父様、キャラチェンジが激しくないですか。
小説家になろう様でも投稿しています。
突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

俺の娘、チョロインじゃん!
ちゃんこ
ファンタジー
俺、そこそこイケてる男爵(32) 可愛い俺の娘はヒロイン……あれ?
乙女ゲーム? 悪役令嬢? ざまぁ? 何、この情報……?
男爵令嬢が王太子と婚約なんて、あり得なくね?
アホな俺の娘が高位貴族令息たちと仲良しこよしなんて、あり得なくね?
ざまぁされること必至じゃね?
でも、学園入学は来年だ。まだ間に合う。そうだ、隣国に移住しよう……問題ないな、うん!
「おのれぇぇ! 公爵令嬢たる我が娘を断罪するとは! 許さぬぞーっ!」
余裕ぶっこいてたら、おヒゲが素敵な公爵(41)が突進してきた!
え? え? 公爵もゲーム情報キャッチしたの? ぎゃぁぁぁ!
【ヒロインの父親】vs.【悪役令嬢の父親】の戦いが始まる?

龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜
クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。
生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。
母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。
そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。
それから〜18年後
約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。
アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。
いざ〜龍国へ出発した。
あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね??
確か双子だったよね?
もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜!
物語に登場する人物達の視点です。
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。

悪役令嬢ですが、どうやらずっと好きだったみたいです
朝顔
恋愛
リナリアは前世の記憶を思い出して、頭を悩ませた。
この世界が自分の遊んでいた乙女ゲームの世界であることに気がついたのだ。
そして、自分はどうやら主人公をいじめて、嫉妬に狂って殺そうとまでする悪役令嬢に転生してしまった。
せっかく生まれ変わった人生で断罪されるなんて絶対嫌。
どうにかして攻略対象である王子から逃げたいけど、なぜだか懐つかれてしまって……。
悪役令嬢の王道?の話を書いてみたくてチャレンジしました。
ざまぁはなく、溺愛甘々なお話です。
なろうにも同時投稿
1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!
マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。
今後ともよろしくお願いいたします!
トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕!
タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。
男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】
そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】
アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です!
コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】
*****************************
***毎日更新しています。よろしくお願いいたします。***
*****************************
マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。
見てください。
異世界ゆるり紀行 ~子育てしながら冒険者します~
水無月 静琉
ファンタジー
神様のミスによって命を落とし、転生した茅野巧。様々なスキルを授かり異世界に送られると、そこは魔物が蠢く危険な森の中だった。タクミはその森で双子と思しき幼い男女の子供を発見し、アレン、エレナと名づけて保護する。格闘術で魔物を楽々倒す二人に驚きながらも、街に辿り着いたタクミは生計を立てるために冒険者ギルドに登録。アレンとエレナの成長を見守りながらの、のんびり冒険者生活がスタート!
***この度アルファポリス様から書籍化しました! 詳しくは近況ボードにて!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる