進芸の巨人は逆境に勝ちます!

木mori

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第一章

第五部分

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一番聞きたいこと、それは聞いてはならないことだという悪い直感が、美散を制止するが、やっぱり質問してしまったのは乙女心。
「け、結婚はできるの?」
「言わずもがなです。それでも言えとおっしゃいますか?」
美散はしばし考えたが首を小さく縦に振った。
「人間とのからだの違いを認識すべきです。これがお答えできる精一杯です。そんな巨人症ですが、まだマシな方なのですよ。」
「どこがだよ!くそー!うえ~ん。」
涙が溢れて止まらなくなった美散。
「もう夢も希望もないよ。恋ができないなんて、生きてる意味ないよ!人生でいちばん大切なものに全然手が届かなくなったんだよ。これ以上に悲しいことって、あると思う?あたしに女の子であることを放棄しろっていうことだよ!」
巷では、人生死ぬまで恋できるし、青春なんだと言われるが、恋の価値は世代で均一ではない。十代の半ばから後半にする恋が最も尊いものである。初恋は実らないと言われるが、例え実らなくても、人間の短い一生の中では、何物にも代え難く、得難いものである。青春時代に彼氏、彼女を得られなかったとしても、自分の内的世界では必ず何かが芽生えたはず。他人との接触を拒否したニート、ヲタクでさえ、二次元には恋したハズである。恋愛対象は多次元である。物理学に埋没した者は四次元やn次元を対象としたかもしれないが、それもまたアリである。
床に張り付いたまま、頭を抱え込んで泣き叫ぶ美散に対して、医者は、無機質に隣の部屋を指差した。
「そちらで着替えてください。すぐにお迎えが来ますから。」
どうしたらいいのかわからない美散は、言われるがままに、移動してドアを開いた。
そこは、真っ白な空間で、はちきれんばかりになっているセーラー服から、白地にオレンジ色のラインが引かれている上下の服に着替えて、前にツバの付いた黒い帽子を被った。靴は黒く、底には複数の金具が付いていて、歩きにくい。
白い部屋は巨大な倉庫のようであったが、美散は手を伸ばすと、その天井に届きそうであった。
そこに宅配便の緑帽子を被った、緑つなぎ服の者がやってきて、美散に声をかけた。
「情野美散選手、こちらのトラックに乗って下さい。」
「だ、誰?こ、こわい!」
 再び5メートルシフトを形成した美散。
「宅灰便です。こちらに来てください。そのままでは業務に支障をきたします!」
 額にシワを寄せる業者に合わせるように、美散も額に『への字』を描いた。
「『灰』を運ぶ業者なんてイヤだよ!それに『選手』だって?ど、どうしてあたしが乗らなきゃいけないんだよ。それにどこにいくんだよ。すごくこわいような感じだけど。」
 負け犬遠吠えポーズで抗議する美散。強い調子で抗議できるのは、5メートルという距離のメリットである。
「行けばわかります。それにこれからの美散選手の行き場は、そこしかありませんから。」
「ちょ、ちょっと待ってよ!ここから離れたくないよ~。」
拒否る美散であったが、緑帽子は、連行するように美散をトラックに載せた。載せたという漢字の通り、美散は目隠しをされて、ジュラルミンで覆われた荷台に載せられていた。
トラックはそのままいずこかへ走り去っていった。無論、美散に、行く先はわかるはずもなかった。
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