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第四章

第四話

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大悟・楡浬はクラスではなんの役割も持っていなかった。クラス委員選定時に、各委員は決めてしまうので、転入してきた大悟は無任所生徒であった。

「何も役割がないということは、逆に何でもやれるっていうことですわ。ほら、あの生徒は体調が悪そうですから、保健室に連れて行きますわ。授業中ですから、保健委員も授業を抜けたくはないでしょうから。」
 こうして、大悟は体調不良の生徒を保健室へ連れていった。

 さらに、体育授業時に、ケガをした生徒を率先して保護したり、休憩時間に転倒した生徒を助けるなど、していた。但し、生徒からは特に感謝されることもなく、保健委員の仕事を勝手に取っているだけとの冷たい評価が続いた。
図書室で借りた本の返却忘れ代行も行った。クラスメイトへの声掛けを行った大悟。
実際依頼する生徒もいたりして、そこそこ役に立っていた。
しかし、クラスでの評判は必ずしもよくはなかった。

「選挙目当てでしょう。」「見え見えだわ。」「点数稼ぎ。」

(大悟。やっぱりこんな風に言われるのは当然だわ。)

「でもこれでいいのですわ。」
食堂手伝い、美化活動など地道なことをひたすら続けた大悟。

(もういくらやっても無駄だわ。)という楡浬の意見を取り入れることはなかった。
 
選挙一週間前になった。
委員長は一度自分の支持者を確認しておこうと集会を開いた。

「ここに来てくれたみんなはあたいを支持してくれるよね。今日は集まってくれてありがとう。」
委員長は笑顔を浮かべてたものの、その表情には曇りがあった。
放課後の教室に集まった生徒は20人だった。クラス全員では30名である。

「予想外に少ないね。これでも悪魔の二倍はあるから、圧倒的に有利なんだけど。悪魔を支持するなんて、いったいどんな了見なんだろう。」
出席者が意外に多くなかったことと、来なかったクラスメイトの気持ちが理解できず、委員長の考えはまとまらず、この日の集会は、改めて委員長のクラス運営方針を示すことなく、票読みためのものに終わった。

一方、大悟は集会を開かなかった。委員長の集会に20人集まったという情報は、桃羅から大悟のところにももたらされた。用務員室ホテルの部屋でくつろぐ大悟。
単純計算で委員長集会に出席しなかったクラスメイトが大悟支持だとすると10人。

「よく10人も集まりましたわ。」

(何言ってるのよ。20対10って完敗じゃない!あと一週間しかないのよ。)

「いやいや、10人も支持があるというのは大きな成果ですわ。スタートは2人だったんですから。クラスでは、別に委員長に不満があるわけではないけど、なにかやってくれるかもしれないというそこはかとなき期待感。変化がないことは悪いことではありません。しかし、現状維持は完璧ではありません。なにかあらぬ方向からの刺激があると、ほんの少しでもいいから現状を変えたいと思ってしまう。それが狙い目。委員長になんら失策はなく、むしろクラス運営が順調であるならば、スキはないけど、なにか変わればいいかなと思う者が出てくる。オレはそう考えてますわ。それなりの結果は出せてます。しかし、このままでは選挙でダルマの両目を黒くすることは難しいですわね。」

(そうでしょ!選挙は勝たないと意味がないわ。ああ、これからどうするのよ~?)
楡浬の小さな絶叫が部屋中に響いた。
さらに一週間、クラスの手伝いを粛々と実行した大悟。

(大悟。結局、この一週間、何もしてないわよ。こんなのでいいの?)

「何もしてないとは失礼な!ちゃんとクラスに役立つように、雑用、いや庶務をしっかりやりましたわ。」

(それって、票集めに何か役立つの?)

「十分役立ちますわ。おそらくオレに投票するであろう8人の票固めですわ。」

(負け前提!?そんなにやる気がないとは思わなかったわ。大悟のことを見損なったわ。)
楡浬はこの言葉を最後に表に出てこなくなった。

「クククッ。これであたいの勝利は揺るぎないものになったね。後はどうやって悪魔を料理するか、下拵えでもするかな。悲鳴といういいダシが出そう。言い出しっぺはあたいだよ。あたい、ウマい!プププ。」
密かに大悟ウォッチをしていた委員長の口元は、吊り上がっていた。

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