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第一章
第十五話
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三輪車は、とある小学校の近くに降り立った。そこにはやや大きな池があった。
5、6人の小学生男子が集まって、円になっている。彼らは手に木の枝を持って、真ん中にある何かを叩いている。
「あれは何をしているのかしら?小学生らしい顔じゃないわ。形相が悪いように見えるけど。」
「いやいや、あれは至極まともじゃないか。あれはゾウガメじゃな。人間が飼っていたペットであろうが、大きくなりすぎて、手放したのであろう。つまり、人間には不要な動物なんだから、虐待も当然じゃ。」
「それは違うんじゃないの。動物虐待が許されるとはとても思えないけど。」
「それはお主の知識不足じゃ。虐待とは主観的定義に過ぎぬ。その昔、悪魔の浦島太郎が人間界に降りてきて、人間に排斥されていたゾウガメを救って、そのお礼として竜宮城で酒池肉林的接待を受けて、骨抜きにされて、没落したという逸話がある。これは、悪魔は余計なことをするな、というパラドックスじゃ。禁を犯した浦島に制裁を与えたということであり、竜宮城での骨抜きは、刑執行前の最後の晩餐で、その後に白髪の老人になり、死に至るまで刑務所にいた、つまり終身刑となったというのが真実じゃ。」
子供たちのゾウガメへの攻撃は続き、硬い甲羅も割れて、赤い血しぶきが舞っている。
「ぐぐぐ。これを見て見ぬふりをしろって言うの?」
楡浬は右手のこぶしを強く握りしめている。
「そうじゃな。お前のやりたいようにやればいいぞ。但し、手を出したら用務員としては失格となるがな。わははは。」
支配人は真ん中に立っている髪をいつも以上にピンと立てて、腹を抱えている。
「もう我慢できないわ。あんたたち、弱い者いじめはやめなさい!」
楡浬は少年たちのところに走っていって、大声をぶつけた。
「なんだ、この姉ちゃん。」「この姉ちゃん、羽根が黒いぞ。」「これって、悪魔じゃないか?」「悪魔って、滅んだんじゃ?」「いや堕天使は悪魔になるという噂もあるぞ。」
人間の小学生たちは一斉に楡浬に蔑んだ視線を浴びせた。
「そ、そうよ。アタシは堕天使なんかじゃなく、正真正銘の悪魔よ。それのどこが悪いのよ。百字以内で説明してよ。」
「何教師ぶってるんだよ。」「教師は天使様だって昔から決まってるんだよ。」「それにその肩に乗ってる人形は何だよ。」「これフィギュアってモノじゃないか。」「それもひどい恰好してるぜ。」「ホントだ。パンツ一丁だぜ。」「超キモイぞ。」「フイギュアヘンタイだ。」「ヘンタイだ!タイヘンだ!」
小学生たちの視線は大悟にフォーカスされてきた。
「ほら。大悟のせいでアタシがヘンタイ扱いされたじゃないのよ。責任とってよ。」
(そんなこと言われても、オレにはどうしようもないんだけど。政治が悪いんだよ。)
「政治に責任転嫁するのは、庶民の悪いクセよ。現代は自己発電の時代なんだからね。」
(それを言うなら自己責任か、自家発電だろう。)
「そうとも言うわね。」
(言わねえよ!)
楡浬が右肩と論争しているのを見て、小学生たちは自己主張を開始した。
「別にイジメなんかしてないぞ。」「俺たちは、家庭用不燃物の処理をしているだけだ。」「そうだ。天使様たちもこれをやると喜んでくださるんだぞ。」
小学生たちの眼からは悪いことをしているという意図は感じとれなかった。
「唐変木なこと言ってるんじゃないわよ。自分たちのやっていることを冷静に考えなさいよ。分数の足し算より簡単なことよ。わからないなら、頭から水をぶっかけるわよ。」
「姉ちゃんの言うことの方がおかしいよ。」「要らない物を排除することは、ちゃんと学校で天使様たちが教えてくれているぞ。」
小学生のヤジが飛ぶ。
(止めろ、楡浬。相手は子供だ。)
「別に乱暴しようってわけじゃないのよ。でも脳天に悪魔の鉄槌喰らわすぐらいはしないと!」
(恐ろしいことを口にするな。ここはガマンだ。)
「悪魔にはガマンという言葉は、文字化けするだけよ。」
(意味不明だ。そういう仕事は学校の先生に任せておけ。ここはひくぞ。ちょっと痛いけど、ガマンしろ。えいっ!)
楡浬の体が一瞬光った。
「だから、ガマンは文字化けって・・・」
楡浬は膝から崩れていった。
「これはオマケで不合格逃れじゃな。ほれ、そいつを連れて帰るぞ。」
三輪車支配人は楡浬に触れないのに、楡浬の体は宙に浮いて三輪車に乗っかった。
三輪車支配人は羽根を広げると、三輪車ごと楡浬を抱えて、用務員室ホテルに飛んでいった。
下では小学生たちの叩く音が聞こえなくなった。ゾウガメは、ただの動かぬオブジェと化していた。
「カメ、かわいそう。」
楡浬は悪夢でも見ているかのようにうなされていた。
5、6人の小学生男子が集まって、円になっている。彼らは手に木の枝を持って、真ん中にある何かを叩いている。
「あれは何をしているのかしら?小学生らしい顔じゃないわ。形相が悪いように見えるけど。」
「いやいや、あれは至極まともじゃないか。あれはゾウガメじゃな。人間が飼っていたペットであろうが、大きくなりすぎて、手放したのであろう。つまり、人間には不要な動物なんだから、虐待も当然じゃ。」
「それは違うんじゃないの。動物虐待が許されるとはとても思えないけど。」
「それはお主の知識不足じゃ。虐待とは主観的定義に過ぎぬ。その昔、悪魔の浦島太郎が人間界に降りてきて、人間に排斥されていたゾウガメを救って、そのお礼として竜宮城で酒池肉林的接待を受けて、骨抜きにされて、没落したという逸話がある。これは、悪魔は余計なことをするな、というパラドックスじゃ。禁を犯した浦島に制裁を与えたということであり、竜宮城での骨抜きは、刑執行前の最後の晩餐で、その後に白髪の老人になり、死に至るまで刑務所にいた、つまり終身刑となったというのが真実じゃ。」
子供たちのゾウガメへの攻撃は続き、硬い甲羅も割れて、赤い血しぶきが舞っている。
「ぐぐぐ。これを見て見ぬふりをしろって言うの?」
楡浬は右手のこぶしを強く握りしめている。
「そうじゃな。お前のやりたいようにやればいいぞ。但し、手を出したら用務員としては失格となるがな。わははは。」
支配人は真ん中に立っている髪をいつも以上にピンと立てて、腹を抱えている。
「もう我慢できないわ。あんたたち、弱い者いじめはやめなさい!」
楡浬は少年たちのところに走っていって、大声をぶつけた。
「なんだ、この姉ちゃん。」「この姉ちゃん、羽根が黒いぞ。」「これって、悪魔じゃないか?」「悪魔って、滅んだんじゃ?」「いや堕天使は悪魔になるという噂もあるぞ。」
人間の小学生たちは一斉に楡浬に蔑んだ視線を浴びせた。
「そ、そうよ。アタシは堕天使なんかじゃなく、正真正銘の悪魔よ。それのどこが悪いのよ。百字以内で説明してよ。」
「何教師ぶってるんだよ。」「教師は天使様だって昔から決まってるんだよ。」「それにその肩に乗ってる人形は何だよ。」「これフィギュアってモノじゃないか。」「それもひどい恰好してるぜ。」「ホントだ。パンツ一丁だぜ。」「超キモイぞ。」「フイギュアヘンタイだ。」「ヘンタイだ!タイヘンだ!」
小学生たちの視線は大悟にフォーカスされてきた。
「ほら。大悟のせいでアタシがヘンタイ扱いされたじゃないのよ。責任とってよ。」
(そんなこと言われても、オレにはどうしようもないんだけど。政治が悪いんだよ。)
「政治に責任転嫁するのは、庶民の悪いクセよ。現代は自己発電の時代なんだからね。」
(それを言うなら自己責任か、自家発電だろう。)
「そうとも言うわね。」
(言わねえよ!)
楡浬が右肩と論争しているのを見て、小学生たちは自己主張を開始した。
「別にイジメなんかしてないぞ。」「俺たちは、家庭用不燃物の処理をしているだけだ。」「そうだ。天使様たちもこれをやると喜んでくださるんだぞ。」
小学生たちの眼からは悪いことをしているという意図は感じとれなかった。
「唐変木なこと言ってるんじゃないわよ。自分たちのやっていることを冷静に考えなさいよ。分数の足し算より簡単なことよ。わからないなら、頭から水をぶっかけるわよ。」
「姉ちゃんの言うことの方がおかしいよ。」「要らない物を排除することは、ちゃんと学校で天使様たちが教えてくれているぞ。」
小学生のヤジが飛ぶ。
(止めろ、楡浬。相手は子供だ。)
「別に乱暴しようってわけじゃないのよ。でも脳天に悪魔の鉄槌喰らわすぐらいはしないと!」
(恐ろしいことを口にするな。ここはガマンだ。)
「悪魔にはガマンという言葉は、文字化けするだけよ。」
(意味不明だ。そういう仕事は学校の先生に任せておけ。ここはひくぞ。ちょっと痛いけど、ガマンしろ。えいっ!)
楡浬の体が一瞬光った。
「だから、ガマンは文字化けって・・・」
楡浬は膝から崩れていった。
「これはオマケで不合格逃れじゃな。ほれ、そいつを連れて帰るぞ。」
三輪車支配人は楡浬に触れないのに、楡浬の体は宙に浮いて三輪車に乗っかった。
三輪車支配人は羽根を広げると、三輪車ごと楡浬を抱えて、用務員室ホテルに飛んでいった。
下では小学生たちの叩く音が聞こえなくなった。ゾウガメは、ただの動かぬオブジェと化していた。
「カメ、かわいそう。」
楡浬は悪夢でも見ているかのようにうなされていた。
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