魔境放眼は地獄へ行く

木mori

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第二章

第三十三話・唇カーソル移動

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「二重尊敬語は慇懃無礼なのよ。」


「別に尊敬語じゃないし。」


「細かいことはいいのよ。アタシは腐ってなんかないわ。」


「そんな出で立ちでは、説得力のかけら、いやチリすらないわ。」


 楡浬は胸にBL本を10冊抱え、スカートのポケットにBLのBlu-rayを差し込み、腐という一文字が書かれたバンダナを巻き、さらにはツインテールのリボンの端を結んでアルファベットのBとLをかたどっている。

 カーディガンの下のシャツにはディープキスしている男子たちが堂々と描かれている。ただの腐女子カテゴリーを超越している。


「これのどこが腐ってるっていうのよ。できたてホヤホヤのホヤの塩辛じゃない。あったかごはんにもってこいなのよ。男子同士で、ホヤの塩辛あ~んとか、萌えるわよ。」


 まだ腐っていないと思っている時は、すでに腐女子インフルエンザは潜伏期間を超えて発症している。発熱に自覚がないほどの感染力。これが腐女子インフルの恐ろしさである。


「これはマズい。かなり症状が悪化しているな。楡浬早く家に戻れ。」


「わかってるわ。でもこれだけは伝えておかないと。地獄の入口は、そこに倒れてる妹の膿のバイト先のコンビニよ。そこの事務所の奥が地獄につながってるわ。」


「どうしてそんなことを知ってる?」


「アタシを誰だと思ってるの?」


「通りすがりの腐女子だろ。」


「バカ!そんなに誉められたらデレるじゃない。」


「ぽっ。誉めてないし、デレるな。」


「アタシも一緒に行くわよ。」


「それは無理だ。今のお前の様子からもわかるけど、決定的なのはこれだ。」


大悟は楡浬のほっぺたにキスをした。


「い、いきなりなにドヘンタイなことするのよ!」


「ほら、これが腐の位置だ。」


 大悟は楡浬の唇に唇(カーソル)を動かした。


「甘くない。むしろ苦いわ。これが饅頭人のからだ?おかしいわ。」
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