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第二章

第六部分

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心配そうに吉宗を見つめる男子は、立ち上がったので、今は吉宗をお姫様抱っこしている状態。吉宗を抱える腕から暖かい体温が伝わってくる。
「か、かっこいい~。ドキ、ドキ、ドキ!。」
呆けを継続している吉宗。心臓の鼓動がはちきれんばかりに暴れ出す。
「上様、じゃない、よしねちゃ~ん!」
大急ぎで下に降りてきたH前を見て、男子は吉宗を赤子に触れるように、ゆっくりと降ろした。
「あっ、おたすけえ。スゴく強い筋肉だけど、背中に優しいわ。」
 H前の登場で、暴れん坊心臓はノーマルな状態に回帰した。
「友達に反応したね。外傷もないから大丈夫のようだね。君、見かけない顔だけど、この学校の制服を着てるから、ウチの生徒なんだね。」
「アタシは今日転校してきた徳川、じゃなかった徳田吉音(よしね)よ~。」
「徳田さんか。これからは、あんな高いところから落ちないように気を付けないとね。君は三ツ葉クローバーが好きなんだね。」
 男子は吉宗の軍配型髪留めを見ている。吉宗は、その視線は自分自身へ直接向けられたようなものであるような気がした。
「そ、そうよ。アタシは三つ葉が好きなのよ。それって、変なのかしら?」
「そんなことはないよ。女の子はたいてい四つ葉クローバーを探すものだけど、三ツ葉は誰でも見つけられるごく平凡なもの。でもそんな平凡がいいと思うことは、いろんなこと、たくさんのことに思いを寄せられるということ、つまり心の広さを表すことだよね。それはきっと素晴らしいことだと思うなあ。」
「そ、そんなものなの?だったら、いいかもね。」
吉宗は、自分の心にこれまで感じたことのない温もりを覚えるのであった。
「おや、ひどく汗をかいたようだね。女子はいつもきれいにしてないとね。」
 男子はズボンのポケットから、白い和風の手拭いを出して、吉宗の汗を拭きとった。
『ちょ、ちょっと、いきなり、そんなこと、やめてよね。』
 そう言おうとする自分を脇において、吉宗は色とりどりの花畑の中にいる自分を見ていた。
「じゃあ、ボクは授業に戻らないと行けないので。その手拭いはキミにあげるよ。」
男子は吉宗をゆっくりと下ろして、校門側の校舎に足早に歩いていった。
吉宗は言葉を忘れて、花畑の中で、三つ葉クローバーを探していた。
「あっ、名前を聞いてなかったわ!」
脳内ほんわか状態から、ようやく我を取り戻した吉宗。
「良かった~!死んじゃったかと思ったよ~!モミモミ。うん、この小振りだけど、しっかりした感触、左乳は健在だね~。」
「どこ触ってるのよ!」
「じゃあ、右乳を。」
「違うわよ!それよりさっきの、び、美男子はいったい誰なの。」
「上様は触れてはならないモノに触れたかも。あの男子は、渡心御台(ところ みだい)君だよ、全校女子生徒憧れ中の憧れ、王子様だよ~。」
「はわわわ~。アタシの中に、花が咲いたかも。この手拭い、ハンカチじゃないのね。布切れだから『布切れ王子』だわ!」
 吉宗の目は少女マンガのヒロインのように、過大に輝いていた。
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