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第四章

第十話

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「俺は女の子としては他人にうらやましがられる存在だった。ブロンドの長い髪は母親がトリートメントに気を使って、カーリーにしているのに枝毛が一本もなく、自分でもうっとりするような自慢のものだった。

フリフリのついたピンクのワンピースを着せられるとまるでフランス人形のようだった。でも、心の中に何か壁のようなものをいつも感じていた。それが何なのかなかなかわからず、俺は親の言うなり、するなりに従順にするしかなかった。中学に進学した時、回りの女子たちは思春期を迎え、男性アイドルや、サッカーで活躍している先輩の話でいつも持ちきりだった。俺はそんな輪の中に加わることができず、悶々としていた。

ある時、ひとりの男子から手紙をもらった。ラブレターってヤツだな。俺の美少女レベルは群を抜いていたので、これは当然のことだった。そこには『君のことが好きです。』と一言しかなかった。俺はそいつのことに恋愛感情などなかったが、逆にどうしてそいつが俺のことを好きなんだろうということを考えてみた。『好き』とは何か?男子と女子が二次性徴を迎え、からだつきや容姿、声が大きく変化している。自分と違うものへの憧れということなのか?それはすべて表面に出ているものだ。確かに食べ物や音楽、絵画などすべて目に見えたり、聞えたり、味わったりして好みが発生している。五感ってやつだな。その感覚が研ぎ澄まされてくるのが思春期なんだろうか?そういう考えになってきた。

でも親、兄弟への愛情というものも『好き』という感情に属するぞ。これはいったいなんだろう?別に血のつながった親族に対しては、ルックスなんて関係ない。母親がキレーであれば父兄参観日に自慢ができる程度の話だ。これは内面、心の問題だ。生まれた時から親の愛情で育てられた。親が自分のことを愛するからこそ、俺も親に応えている。相手が自分を愛しているからこそ、自分も同じように思うもの。しかし片思いといのもある。これはどう解釈すべきなのか。心を好きになるというのはどういうことだ。俺はわからなくなった。俺には好きな人がいるのか。あるいは好きな人が必要なのか。それが理解できなかった。こうしてその男子からの告白を受け入れしなかった俺。

しばらくして、また手紙が来た。女子からだった。隣の席に座っている娘。いつも俺に親切にしてくれていた。今度はなんとなく安心できた。安心だと?気持ちが安らいでいるというわけだ。俺は女子だ。女子のからだや顔を見てときめくことはないはず。でもなんだか感情が高ぶっている。いままでは何とも思っていなかったのに、相手からのアクションがあって初めて感じた何か。その女子と一緒にいたいと思ってしまう。もっと深く知りたいと考えてしまう。女なのに、女の子を想う。これが恋なのか。その時俺は自分が男だと認識してしまった。いや、もともと男だったことにようやく気付いたのだ。そし長い髪もバッサリ切った。」

((そういうことどすか。それでどうしてジバクになったんどす?))
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