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Track6 チューンアップ
Song.65 1、2
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「えー……小古間高校から来ました。Un-Limitedです。よろしくお願いします」
マイクを持ったのは爽やかタイプの男。
まだ楽器の準備ができていないので、その間に何か話せということになっているため、「えっと」と言いながら自己紹介と経歴を述べていく。
「俺たち、一年の時からバンドを組んでやってきました。でも、もうすぐ卒業……最後にここに立てて嬉しいです!」
バンフェスは高校生であることが必須条件。今三年であるならば、今回でラストチャンスになる。それゆえに込めた気持ちが強いのだろう。
その言葉を聞いた客席から、拍手が届けられる。
「あ、準備できた? おっけ。では……よろしくお願いします――」
振り返って後ろを確認して頷く。そして、改めて正面を向いてから曲が始まった。
Un-Limitedは4ピースバンド。
ベースが女で、ボーカルとギター、ドラムが男。
各楽器一人のシンプルな構成だ。
出だしはギターソロ。音が丁寧で粒がそろっている。
そこにドラムが静かに入り、ベース、ボーカルが加わる。
ボーカルの声はさっきからそうだったけど、ハスキーだ。でもそれが曲に合っている。
静かに始まったが、サビでは激しくなった。そのリズムに合わせて、手を振り上げる人達がまばらであるが存在しているのを見つけた。
『桜』をテーマにしたメッセージ性の強い歌詞を、太い声で歌い上げ、最後はまた静かに終わった。
やりきった顔をし、頭を下げるUn-Limited。彼らに惜しみない拍手が送られる。
「俺、こういう曲好き! キョウちゃんは作んないの?」
手を叩きながら、俺に聞いてきた大輝。
「メッセージ性は結構入れてるけど、静かな曲は苦手なんだよ、俺」
「あー確かにー。キョウちゃんの曲、ルンルンしてるもんな。すっげー遅いのを作ったら、俺の頭がこんがらがりそう」
「だろ? バンバン動いてなきゃ死ぬんだよ、俺たち」
まるでマグロだ。
いずれはスローテンポな曲にもチャレンジしてみたいが、今じゃない。今は得意を伸ばした方がいい……と思う。俺が曲の基本を作っているけど、悠真の手も必要になるし、チャレンジは当分先だな。
「そこの馬鹿二人。今は目の前のことをちゃんとやりなよ?」
悠真がまた呆れてた。
馬鹿二人にまとめられている俺ら。もう言われるのも慣れたもんだ。悠真も俺たちの扱いに慣れている。
「はーい」
「うーい」
まだまだ出番まで余裕がある。練習するのもよし。他のバンドを見るのもよし。息抜きをするのもよしなんだけど、俺たちは全員、ここに留まって見ていくことにした。
「はい、Un-Limitedのみなさん。ありがとうございました。とても気持ちのこもった曲でしたね。ゲストの方にもコメントをいただきましょうか……園島さん」
え、コメントもらうのかよ。そんなの聞いてねぇ。
「いやあー……高校生のライブって、初めてじゃないんっすけど……」
マイクを持った園島が言い続ける。
そりゃ、この前俺たちのバーサスライブに来たもんな。しれっと来て、ドラム叩いて行ったしな。初めてじゃねえよ。知ってる。
「いろんなバンドがあるもんっすね。結構刺さるワードもあって、聞き入りましたよ。いいもん、見させてもらました。ありがとうございました」
俺からすれば、園島のテンプレ的な感想にしか聞こえなかったが、演奏者たちにとっては嬉しいものだったらしい。メンバーたちが頭を下げ、感謝の意を伝えている。
「園島さん、ありがとうございました。それでは次のバンドへ変わりましょうか。えー、次は……葉月《はづき》学園。KNIGHT OF GHOST|《ナイトオブゴースト》です。準備ができるまで、え、私が話す? うーん……」
転換に時間がかかるために、その間のつなぎを司会のハヤシダが行うということらしい。少し悩んだ様子だったがさすがいろんな番組で司会をしている経験から、巧みな話術でゲストに話を振ってつないでいく。
「お、準備ができたようです。では、お願いします」
バトンが渡された2組目のバンド。今度は4ピース、全員男だ。
ギターボーカル、ギター、ベース、ドラム。さっきのバンドと違って、ギターが二本になるから、音に厚さが出る。いずれは俺たちもツインギターにしてみたい。
「――葉月学園。KNIGHT OF GHOST|《ナイトオブゴースト》です。よろしくお願いしまっす……」
そう言ったボーカルの前髪が長すぎて表情が読み取れない。髪も服もギターも真っ黒で暗めな印象を受けるが、後ろにいるメンバーが見た目からして派手だ。
ドラムは白と黒の髪だし、もう一人のギターはグレーのVタイプの変形ギター。ベースの人は金髪でTシャツの袖をまくり上げ、筋肉がすごい。
全員個性的。それが見た目での印象。
そして曲までも個性的だった。
曲が一つのストーリーになっている。
高校生らしくない哀愁溢れる歌。ギターのコードはだんだん下がっていくというのに、ベースラインは少しずつ上がっていく。
不思議な世界感に引きずり込まれる。
確かこういう技法をよく使うバンドがあったはず。かなり有名バンドだし、そこをリスペクトしているのかもしれない。
会場はわいわい盛り上がる……というわけではない。だけど、ジッと聞き入ってしまう。
これまた俺たちと違うスタイルだ。
ほかのバンドの曲を聴くっていうのも、刺激になるな。
曲が終われば、会場から拍手が起こる。
俺も納得の拍手をする。確かにうまいし、いいものを見させてもらった。
「はい、ありがとうございました。ジンとくる曲でしたね。ではゲストの……神谷さん。何か一言を」
さらっと司会が仕切って、今度はMapのギター担当、神谷へコメントを求める。
隣にいた園島がニヤニヤしながらも、マイクを握った神谷が口を開く。
「俺的には、曲の作りがすげぇと思いました。これ、誰作ってるんです? ……ああ、ギタボの彼? 珍しい作り方しますね。さすがです。これで高校生とは、今の高校生は俺らの時代の高校生より断然うまいっす。お疲れ様でした」
べた褒めじゃねぇか。まあ、そりゃそうか。俺も納得する。
「何しょんぼりしてんだよ」
「うーっ。だって、僕、あんなに褒められたことないもん」
「みっちゃんはうまいって! な!」
むすっとしていた瑞樹の不満は、師である神谷に対してでもあった。それを大輝が慰めるって……いつもの逆だな。
「わかってますよ。僕、昔よりうまくなったから! 絶対褒めてもらいます!」
「おう、その意気だ、みっちゃん!」
大輝と同じで立ち直りが早くて助かる。
力拳を作ってみせた瑞樹の顔は明るい。
「なあ、野崎。曲の作りってどういうことだ? さっぱりなんだが。何が違うんだよ」
「そりゃコードとか……って、教えてなかったっけ? ごめん」
「聞いてねえ……ドラム覚えんので作りまでは体感でしか。理論的なものがあるのか」
鋼太郎が残念そうな顔をしている。大輝は作りとか何も考えたりしないだろうけど、鋼太郎は理論派でもある。音楽初めて一年未満、教えることも多そうだ。
「また今度な。俺の独学理論だけど」
「頼むわ……お前の言葉が独特すぎて理解できるか不安だけど」
やりたいこと、やらねばならないことが多い。
それだけこのステージは発見の連続だな。
マイクを持ったのは爽やかタイプの男。
まだ楽器の準備ができていないので、その間に何か話せということになっているため、「えっと」と言いながら自己紹介と経歴を述べていく。
「俺たち、一年の時からバンドを組んでやってきました。でも、もうすぐ卒業……最後にここに立てて嬉しいです!」
バンフェスは高校生であることが必須条件。今三年であるならば、今回でラストチャンスになる。それゆえに込めた気持ちが強いのだろう。
その言葉を聞いた客席から、拍手が届けられる。
「あ、準備できた? おっけ。では……よろしくお願いします――」
振り返って後ろを確認して頷く。そして、改めて正面を向いてから曲が始まった。
Un-Limitedは4ピースバンド。
ベースが女で、ボーカルとギター、ドラムが男。
各楽器一人のシンプルな構成だ。
出だしはギターソロ。音が丁寧で粒がそろっている。
そこにドラムが静かに入り、ベース、ボーカルが加わる。
ボーカルの声はさっきからそうだったけど、ハスキーだ。でもそれが曲に合っている。
静かに始まったが、サビでは激しくなった。そのリズムに合わせて、手を振り上げる人達がまばらであるが存在しているのを見つけた。
『桜』をテーマにしたメッセージ性の強い歌詞を、太い声で歌い上げ、最後はまた静かに終わった。
やりきった顔をし、頭を下げるUn-Limited。彼らに惜しみない拍手が送られる。
「俺、こういう曲好き! キョウちゃんは作んないの?」
手を叩きながら、俺に聞いてきた大輝。
「メッセージ性は結構入れてるけど、静かな曲は苦手なんだよ、俺」
「あー確かにー。キョウちゃんの曲、ルンルンしてるもんな。すっげー遅いのを作ったら、俺の頭がこんがらがりそう」
「だろ? バンバン動いてなきゃ死ぬんだよ、俺たち」
まるでマグロだ。
いずれはスローテンポな曲にもチャレンジしてみたいが、今じゃない。今は得意を伸ばした方がいい……と思う。俺が曲の基本を作っているけど、悠真の手も必要になるし、チャレンジは当分先だな。
「そこの馬鹿二人。今は目の前のことをちゃんとやりなよ?」
悠真がまた呆れてた。
馬鹿二人にまとめられている俺ら。もう言われるのも慣れたもんだ。悠真も俺たちの扱いに慣れている。
「はーい」
「うーい」
まだまだ出番まで余裕がある。練習するのもよし。他のバンドを見るのもよし。息抜きをするのもよしなんだけど、俺たちは全員、ここに留まって見ていくことにした。
「はい、Un-Limitedのみなさん。ありがとうございました。とても気持ちのこもった曲でしたね。ゲストの方にもコメントをいただきましょうか……園島さん」
え、コメントもらうのかよ。そんなの聞いてねぇ。
「いやあー……高校生のライブって、初めてじゃないんっすけど……」
マイクを持った園島が言い続ける。
そりゃ、この前俺たちのバーサスライブに来たもんな。しれっと来て、ドラム叩いて行ったしな。初めてじゃねえよ。知ってる。
「いろんなバンドがあるもんっすね。結構刺さるワードもあって、聞き入りましたよ。いいもん、見させてもらました。ありがとうございました」
俺からすれば、園島のテンプレ的な感想にしか聞こえなかったが、演奏者たちにとっては嬉しいものだったらしい。メンバーたちが頭を下げ、感謝の意を伝えている。
「園島さん、ありがとうございました。それでは次のバンドへ変わりましょうか。えー、次は……葉月《はづき》学園。KNIGHT OF GHOST|《ナイトオブゴースト》です。準備ができるまで、え、私が話す? うーん……」
転換に時間がかかるために、その間のつなぎを司会のハヤシダが行うということらしい。少し悩んだ様子だったがさすがいろんな番組で司会をしている経験から、巧みな話術でゲストに話を振ってつないでいく。
「お、準備ができたようです。では、お願いします」
バトンが渡された2組目のバンド。今度は4ピース、全員男だ。
ギターボーカル、ギター、ベース、ドラム。さっきのバンドと違って、ギターが二本になるから、音に厚さが出る。いずれは俺たちもツインギターにしてみたい。
「――葉月学園。KNIGHT OF GHOST|《ナイトオブゴースト》です。よろしくお願いしまっす……」
そう言ったボーカルの前髪が長すぎて表情が読み取れない。髪も服もギターも真っ黒で暗めな印象を受けるが、後ろにいるメンバーが見た目からして派手だ。
ドラムは白と黒の髪だし、もう一人のギターはグレーのVタイプの変形ギター。ベースの人は金髪でTシャツの袖をまくり上げ、筋肉がすごい。
全員個性的。それが見た目での印象。
そして曲までも個性的だった。
曲が一つのストーリーになっている。
高校生らしくない哀愁溢れる歌。ギターのコードはだんだん下がっていくというのに、ベースラインは少しずつ上がっていく。
不思議な世界感に引きずり込まれる。
確かこういう技法をよく使うバンドがあったはず。かなり有名バンドだし、そこをリスペクトしているのかもしれない。
会場はわいわい盛り上がる……というわけではない。だけど、ジッと聞き入ってしまう。
これまた俺たちと違うスタイルだ。
ほかのバンドの曲を聴くっていうのも、刺激になるな。
曲が終われば、会場から拍手が起こる。
俺も納得の拍手をする。確かにうまいし、いいものを見させてもらった。
「はい、ありがとうございました。ジンとくる曲でしたね。ではゲストの……神谷さん。何か一言を」
さらっと司会が仕切って、今度はMapのギター担当、神谷へコメントを求める。
隣にいた園島がニヤニヤしながらも、マイクを握った神谷が口を開く。
「俺的には、曲の作りがすげぇと思いました。これ、誰作ってるんです? ……ああ、ギタボの彼? 珍しい作り方しますね。さすがです。これで高校生とは、今の高校生は俺らの時代の高校生より断然うまいっす。お疲れ様でした」
べた褒めじゃねぇか。まあ、そりゃそうか。俺も納得する。
「何しょんぼりしてんだよ」
「うーっ。だって、僕、あんなに褒められたことないもん」
「みっちゃんはうまいって! な!」
むすっとしていた瑞樹の不満は、師である神谷に対してでもあった。それを大輝が慰めるって……いつもの逆だな。
「わかってますよ。僕、昔よりうまくなったから! 絶対褒めてもらいます!」
「おう、その意気だ、みっちゃん!」
大輝と同じで立ち直りが早くて助かる。
力拳を作ってみせた瑞樹の顔は明るい。
「なあ、野崎。曲の作りってどういうことだ? さっぱりなんだが。何が違うんだよ」
「そりゃコードとか……って、教えてなかったっけ? ごめん」
「聞いてねえ……ドラム覚えんので作りまでは体感でしか。理論的なものがあるのか」
鋼太郎が残念そうな顔をしている。大輝は作りとか何も考えたりしないだろうけど、鋼太郎は理論派でもある。音楽初めて一年未満、教えることも多そうだ。
「また今度な。俺の独学理論だけど」
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