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Track5 ライトアップ
Song.46 フリータイム
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「お疲れ様でしたー。これにてリハ終了です。時間までは自由にしていてください」
慣れない機材に戸惑いながらも、リハは終わって、後は本番を待つだけとなった。
開場するまで待合い室兼休憩所になっている開けたロビーで待ちぼうけ。
念入りに練習をする人もいれば、緊張を緩和するために談笑する人、気合を入れて打ち合わせをする人……各々好きなこと、やるべきことをしている。
俺たちも、打ち合わせしながら談笑するっていういつも通りの過ごし方だった。
自由にしていていいというから、ソファーと自動販売機があるロビーでスマートフォンをいじる。見ているのはバンフェスのホームページ。
そこからさっきの腹立たしい男のバンドを探す。
画面をスクロールして、この会場に来ているバンドの写真に目を通す。
たった五組のバンドしかここにいない。
一組はガールズバンド。
残りは男女混合バンド一組、その他三組は男だらけのバンド。
うち一組が俺たち。となれば残りの二組のどちらかがあの男たちだ。
「こんなところで何してんだ?」
「あ、鋼太郎。お前こそ何してんだよ」
声をかけられて顔を上げれば、鋼太郎がいた。
後ろから覗くように俺を見ては、自販機を指さす。
「何って、飲み物買いに来た」
鋼太郎はポケットから財布を取り出して、自動販売機に小銭を入れる。ガタンと音を立てて出てきたものを持って、俺の隣に座った。
「今更そんなの見てどうすんだよ」
画面を覗かれ、やっていたことがばれる。
確かに今からライバルについて調べたところでどうにもならない。
でも知りたい。俺たちを馬鹿にしてくるのだから、何か言い返せないかとネタを探しているあたり、性格がねじ曲がっているな、なんて思った。
「なんとなくだよ。なんかあいつ、むかつくから」
「お前……とんでもないくらい馬鹿だな……」
「は? うるせえ」
鋼太郎が缶コーヒーを飲みながら、俺の行動を馬鹿にしているが、それでも画面を覗いてくる。口下手な鋼太郎だ。おそらくライバルバンドのことが気になっているのだろう。
「あ、いた」
男四人のバンドは一組。
バンド名は『 |Log|《ログ》』。都内の私立、 皇学院数学科三年のバンドらしい。
大嫌いな数学。Logも数学で出てくる内容だっていうことくらい俺でもわかる。
嫌いなものと嫌いなものが混ざったバンド。俺の中で教頭と同じぐらい大嫌いな人の分類へ、このバンドが入った。
「あー……確かによく見れば、この写真。悠真の兄貴だな」
「確かに。よく見れば、だな」
アーティスト写真のように表示されているバンドの写真を拡大してみれば、確かに悠真の兄貴である。
他のバンドと違って、同じ弦楽器でもヴァイオリンをチョイスしている。ギターやベースみたいな電気信号を増強させるような楽器じゃなくて、クラシックな楽器。
それだけでも他のバンドとは明らかに違う曲になる。
激しいロック調より、なめらかな曲だろうか。
「ほんと、やめてほしいよね」
「うお、びっくりした……急に現れんなよ」
「いつ出てきたっていいでしょ、別に」
スマホに集中していたら、悠真が背後から声をかけてきて心臓がどきっとした。
どうしてこうも、うちのメンバーは急に現れるのだか。
前みたいに兄貴を見てミスするようなことになるのは最悪の展開だが、今度はカバー法も考えてある。同じ失敗は二度としない。
「今度は僕だってヘマしないよ。最初からあの人がいるってわかっていればどうってことない」
「何だよ。悠真は俺の心を見透かす天才か」
「君の顔がわかりやすいだけ。馬鹿は顔に出るし」
悠真はいつも通り、ただ俺に呆れた顔を見せる。
小馬鹿にしてくるのは相変わらずだし、この調子なら本当に大丈夫なのだろう。
知り合いがいるからド緊張してしまうようなタイプでもなさそうだし、むしろ悠真は兄貴を嫌いだからこそ、ボコボコにしたいと思うタイプだと思う。
「馬鹿にされたんだけど、助けて鋼太郎モン」
「どこの猫型ロボットだ」
鋼太郎へふざけた声を向ければ、変わらず突っ込まれた。
どっしりと構える鋼太郎も、緊張しているようには見えない。調子は変わらないだろう。
「んあ? そうだ、悠真、大輝たちはどうしたんだ? 一緒じゃねぇの?」
ソファーの背もたれに頭を付けて、後方を逆さに見れば悠真が自販機で水を買って飲んでいた。
ダラダラしている俺に目をくれずに、悠真は答える。
「……さっきあっちで、あいつに絡んでいたよ」
「あいつって?」
「察して」
「あー……」
新底嫌そうな顔をした悠真。それで『あいつ』が誰をさしているのかわかった。
そこに絡んでいるのなら、俺が関わりにはいかない。俺もあのバンドに関わりたくない。
「んじゃ、瑞樹は?」
「彼も一緒にいた」
大輝のリードを握っているのは瑞樹。自由奔放に動く大輝の行動を制限しているわけだが、そりゃもう大仕事だろう。でもまあ、瑞樹がいれば安心だ。迷子になることも、遅刻することもない。
開場するまであと三十分。
適度に話を切り上げてこっちにくるだろう。
ライブ前にもっと緊張すると思っていたけど、思っていたよりもここにいる三人は落ち着いている。全員集まったら、円陣でも組むかーなんてのんきに考えていたら、ドタバタとうるさい足音が聞こえてきた。
「キョウちゃーん!」
「んあ? うるせえよ」
離れていても通る声。もちろん大輝のものだ。
声の聞こえた方を見れば、半泣きで大輝が駆けてきた。その後ろには瑞樹がひょこひょこと申し訳なさそうな顔をしてついてきている。
大輝はスピードを保ったまま、突進してきたから、移動して鋼太郎を盾にすることで衝突の衝撃をゼロにした。その時、鋼太郎はコーヒーをこぼしそうになって不満げな顔をした。けど、実際はこぼしていないからいいだろう。
座ったままの鋼太郎の首に後ろからしめあげるようにくっついている大輝。今までこんな様子を見たことないから、何が起きているかさっぱりわからない。
「コウちゃーん。俺、唄うのこええよー!」
大輝の口から出たのは、もうちょっとで始まるライブに不安を残す言葉だった。
慣れない機材に戸惑いながらも、リハは終わって、後は本番を待つだけとなった。
開場するまで待合い室兼休憩所になっている開けたロビーで待ちぼうけ。
念入りに練習をする人もいれば、緊張を緩和するために談笑する人、気合を入れて打ち合わせをする人……各々好きなこと、やるべきことをしている。
俺たちも、打ち合わせしながら談笑するっていういつも通りの過ごし方だった。
自由にしていていいというから、ソファーと自動販売機があるロビーでスマートフォンをいじる。見ているのはバンフェスのホームページ。
そこからさっきの腹立たしい男のバンドを探す。
画面をスクロールして、この会場に来ているバンドの写真に目を通す。
たった五組のバンドしかここにいない。
一組はガールズバンド。
残りは男女混合バンド一組、その他三組は男だらけのバンド。
うち一組が俺たち。となれば残りの二組のどちらかがあの男たちだ。
「こんなところで何してんだ?」
「あ、鋼太郎。お前こそ何してんだよ」
声をかけられて顔を上げれば、鋼太郎がいた。
後ろから覗くように俺を見ては、自販機を指さす。
「何って、飲み物買いに来た」
鋼太郎はポケットから財布を取り出して、自動販売機に小銭を入れる。ガタンと音を立てて出てきたものを持って、俺の隣に座った。
「今更そんなの見てどうすんだよ」
画面を覗かれ、やっていたことがばれる。
確かに今からライバルについて調べたところでどうにもならない。
でも知りたい。俺たちを馬鹿にしてくるのだから、何か言い返せないかとネタを探しているあたり、性格がねじ曲がっているな、なんて思った。
「なんとなくだよ。なんかあいつ、むかつくから」
「お前……とんでもないくらい馬鹿だな……」
「は? うるせえ」
鋼太郎が缶コーヒーを飲みながら、俺の行動を馬鹿にしているが、それでも画面を覗いてくる。口下手な鋼太郎だ。おそらくライバルバンドのことが気になっているのだろう。
「あ、いた」
男四人のバンドは一組。
バンド名は『 |Log|《ログ》』。都内の私立、 皇学院数学科三年のバンドらしい。
大嫌いな数学。Logも数学で出てくる内容だっていうことくらい俺でもわかる。
嫌いなものと嫌いなものが混ざったバンド。俺の中で教頭と同じぐらい大嫌いな人の分類へ、このバンドが入った。
「あー……確かによく見れば、この写真。悠真の兄貴だな」
「確かに。よく見れば、だな」
アーティスト写真のように表示されているバンドの写真を拡大してみれば、確かに悠真の兄貴である。
他のバンドと違って、同じ弦楽器でもヴァイオリンをチョイスしている。ギターやベースみたいな電気信号を増強させるような楽器じゃなくて、クラシックな楽器。
それだけでも他のバンドとは明らかに違う曲になる。
激しいロック調より、なめらかな曲だろうか。
「ほんと、やめてほしいよね」
「うお、びっくりした……急に現れんなよ」
「いつ出てきたっていいでしょ、別に」
スマホに集中していたら、悠真が背後から声をかけてきて心臓がどきっとした。
どうしてこうも、うちのメンバーは急に現れるのだか。
前みたいに兄貴を見てミスするようなことになるのは最悪の展開だが、今度はカバー法も考えてある。同じ失敗は二度としない。
「今度は僕だってヘマしないよ。最初からあの人がいるってわかっていればどうってことない」
「何だよ。悠真は俺の心を見透かす天才か」
「君の顔がわかりやすいだけ。馬鹿は顔に出るし」
悠真はいつも通り、ただ俺に呆れた顔を見せる。
小馬鹿にしてくるのは相変わらずだし、この調子なら本当に大丈夫なのだろう。
知り合いがいるからド緊張してしまうようなタイプでもなさそうだし、むしろ悠真は兄貴を嫌いだからこそ、ボコボコにしたいと思うタイプだと思う。
「馬鹿にされたんだけど、助けて鋼太郎モン」
「どこの猫型ロボットだ」
鋼太郎へふざけた声を向ければ、変わらず突っ込まれた。
どっしりと構える鋼太郎も、緊張しているようには見えない。調子は変わらないだろう。
「んあ? そうだ、悠真、大輝たちはどうしたんだ? 一緒じゃねぇの?」
ソファーの背もたれに頭を付けて、後方を逆さに見れば悠真が自販機で水を買って飲んでいた。
ダラダラしている俺に目をくれずに、悠真は答える。
「……さっきあっちで、あいつに絡んでいたよ」
「あいつって?」
「察して」
「あー……」
新底嫌そうな顔をした悠真。それで『あいつ』が誰をさしているのかわかった。
そこに絡んでいるのなら、俺が関わりにはいかない。俺もあのバンドに関わりたくない。
「んじゃ、瑞樹は?」
「彼も一緒にいた」
大輝のリードを握っているのは瑞樹。自由奔放に動く大輝の行動を制限しているわけだが、そりゃもう大仕事だろう。でもまあ、瑞樹がいれば安心だ。迷子になることも、遅刻することもない。
開場するまであと三十分。
適度に話を切り上げてこっちにくるだろう。
ライブ前にもっと緊張すると思っていたけど、思っていたよりもここにいる三人は落ち着いている。全員集まったら、円陣でも組むかーなんてのんきに考えていたら、ドタバタとうるさい足音が聞こえてきた。
「キョウちゃーん!」
「んあ? うるせえよ」
離れていても通る声。もちろん大輝のものだ。
声の聞こえた方を見れば、半泣きで大輝が駆けてきた。その後ろには瑞樹がひょこひょこと申し訳なさそうな顔をしてついてきている。
大輝はスピードを保ったまま、突進してきたから、移動して鋼太郎を盾にすることで衝突の衝撃をゼロにした。その時、鋼太郎はコーヒーをこぼしそうになって不満げな顔をした。けど、実際はこぼしていないからいいだろう。
座ったままの鋼太郎の首に後ろからしめあげるようにくっついている大輝。今までこんな様子を見たことないから、何が起きているかさっぱりわからない。
「コウちゃーん。俺、唄うのこええよー!」
大輝の口から出たのは、もうちょっとで始まるライブに不安を残す言葉だった。
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