34 / 76
Track4 2つのバンド
Song.32 シルバーウィーク
しおりを挟む「恭弥。起きなさい、恭弥」
「ん……ばあちゃ、今日俺休み……」
シルバーウィーク初日。深夜というより早朝まで起きていたこともあって、寝たりない。毛布をかぶって起こさないでほしいという意思を示す。
しかし、その毛布はすぐにはがされた。
急に冷たい空気におおわれて、ぶるっと体が震える。
「わかっているわよ。でも、恭弥のお友達の子が来ているのよ。だから早く起きなさい」
「へ? 瑞樹か? 瑞樹ならまた後でって言っといて」
「違うのよ。瑞樹くんじゃない子よ。えっと、ええっとなんて言ったかしら……そう、悠真くんよ」
悠真? なんで?
ばあちゃんから出た名前を聞いて、頭が覚醒した。
瑞樹だったら何十回も家に来た事があるから、ばあちゃんも名前と顔が一致している。だけど、悠真と会ったことは今までないし、名前を知る由もない。
「は? 悠真が? なんで!?」
バッと起きて聞くも、ばあちゃんは「さあ?」と首をかしげた。
訳もわからぬまま寝間着のジャージのまま慌てて部屋を飛び出し、一階へ向かう。
頭は起きていても体はまだ起きていないらしい。
慣れているはずの階段で足が滑った。
そのまましりもちをつき、一階へと滑ってたどり着く。
階段のすぐ前には玄関。そこには悠真が驚いた顔をしてこっちを見ていた。
「あれまあ。大丈夫かい?」
「大丈夫、大丈夫……なんとかなってる」
上からばあちゃんに心配された。
何度か階段から落ちた事もあるし、慣れっこだ。そのたびに青あざ作って、腰に湿布を貼った。今日もまた貼ることになるだろう。
「……だっさ」
「うるせえよ」
馬鹿にするような目のまま、小さな声で言う悠真の言葉は、耳の遠いばあちゃんには聞こえていない。
「悪いわねえ。恭弥がお寝坊さんで。それにお友達がくるなんて聞いてないから、何もお構いできませんで……」
二階からゆっくり降りてくるばあちゃん。俺と違って足を踏み外したら致命傷になりかねないから、動きはゆっくりだ。
「いえいえ。こちらこそ急にすみません。昨日連絡しておいたのですが、伝わってなかったようで。あ、これ。少しの期間、お世話になるのでつまらないものですがどうぞ」
「あらあら、悪いわねえ」
いつもの外面のいい悠真に戻り、ばあちゃんに紙袋に入った何かを手渡している。
よく見ればその袋に「かたや」の文字。鋼太郎の家で買ってきたものらしい。
「ばあちゃんたち、これから敬老会の旅行に行っちゃうけど、戸締りちゃんとするんだよ?」
「あー、そっか。適当に飯食うし、大丈夫だって。ばあちゃんたちこそ気を付けて」
「うふふ。ありがとねえ。ほら、じいさん。行くんだよ」
よっこいしょ、という声がリビングから聞こえる。そして大きい鞄を持ったじいちゃんが出てきて、二人一緒に出て行ってしまった。
今日から敬老会で旅行に行くという話は聞いていた。料理もできない俺のために、カップ麺や冷凍食品を買いだめしておいたから、数日俺一人でもなんとか生活できるだろう。
それよりも、悠真がやってきた理由がわからない。
連絡しておいたと言うが、俺はなにも知らない。そもそもスマホは昨日から制服のポケットの中にいれたままだ。
「お邪魔します」
「まじかよ。なんで来るんだよ」
「昨日グループチャットしたでしょ。これからみんな来るよ」
「はあ?」
悠真がスマホの画面を見せてきた。
トーク内容を確認すれば、確かに俺以外で話が進んでおり、なぜか俺の家に全員集合することになっている。
しかも今日だけじゃない。この連休中、泊まりにくるそうだ。
「これで曲作り、はかどるんじゃない?」
「……どうだか」
曲作りには行き詰っていた。悠真だけならともかく、全員集まるとなると騒がしくなること間違いない。それで進むかと言われればわからない。
でも来てしまっている以上、今更断れない。
瑞樹が駅まで迎えに行き、三人もすでにこちらへ向かっているらしい。
はあ、とため息をつきながらも全員集まるのを待つことにした。
待つこと三十分。
何度も鳴らされるインターホン。
扉を閉めていても聞こえる大きな声。
もう来たのかとしぶしぶ玄関の扉を開ける。
「キョウちゃん、おっはー! あれ、寝癖ついてんじゃん。寝起き? 寝坊助だなー。俺なんかワクワクしちゃってなかなか眠れなかった!」
「遠足を楽しみにする小学生かよ」
あまりにもうるさい大輝の声が近所迷惑にならないか心配だったが、田舎なだけあって耳の遠い老人が多いから大丈夫だったかもしれない。さらに言えば、ストッパー役の瑞樹もいるし。
声の大きい大輝の後ろに立つ鋼太郎が、ツッコミを入れるが、その顔には疲れが見える。
「おい、瑞樹」
「え、えっとー……これはね、その……」
一番後ろで小さくなっている瑞樹に声をかければ、視線を外して顔を搔いている。
なんでこうなったのかと聞きたい俺の事をわかっているらしい。
「お前なあ……急に俺んちに集めても、ばあちゃんたちいねえし、寝床もねえし、食い物もねえぞ」
「それはね、知ってたよ! 鋼太郎先輩のおじいちゃんたちも旅行行くって話だったからね。だから、ほら!」
瑞樹の手にはスーパーの袋。
大輝と鋼太郎も同じ袋を持っている。
透けて見える中身は、野菜や肉、魚など様々な食材が入っているようだ。
「僕たちは曲作りができるわけじゃないから、他の事で何かできないかと思って、色々買ってきたよ! ほら、キョウちゃん、音楽以外は何もできないから!」
さすが瑞樹は俺のことを知り尽くしている。
基本的な家事ができないのを知っているから、料理やを引き受けようということなのだろう。
「はあ……わかった。とりあえず入れ」
「ありがとう、キョウちゃん!」
ぱあっと明るくなった瑞樹。
ひとまず全員が集まり、シルバーウィークを利用した曲作りが始まった。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
全力でおせっかいさせていただきます。―私はツンで美形な先輩の食事係―
入海月子
青春
佐伯優は高校1年生。カメラが趣味。ある日、高校の屋上で出会った超美形の先輩、久住遥斗にモデルになってもらうかわりに、彼の昼食を用意する約束をした。
遥斗はなぜか学校に住みついていて、衣食は女生徒からもらったものでまかなっていた。その報酬とは遥斗に抱いてもらえるというもの。
本当なの?遥斗が気になって仕方ない優は――。
優が薄幸の遥斗を笑顔にしようと頑張る話です。

俺たちの共同学園生活
雪風 セツナ
青春
初めて執筆した作品ですので至らない点が多々あると思いますがよろしくお願いします。
2XXX年、日本では婚姻率の低下による出生率の低下が問題視されていた。そこで政府は、大人による婚姻をしなくなっていく風潮から若者の意識を改革しようとした。そこて、日本本島から離れたところに東京都所有の人工島を作り上げ高校生たちに対して特別な制度を用いた高校生活をおくらせることにした。
しかしその高校は一般的な高校のルールに当てはまることなく数々の難題を生徒たちに仕向けてくる。時には友人と協力し、時には敵対して競い合う。
そんな高校に入学することにした新庄 蒼雪。
蒼雪、相棒・友人は待ち受ける多くの試験を乗り越え、無事に学園生活を送ることができるのか!?

切り札の男
古野ジョン
青春
野球への未練から、毎日のようにバッティングセンターに通う高校一年生の久保雄大。
ある日、野球部のマネージャーだという滝川まなに野球部に入るよう頼まれる。
理由を聞くと、「三年の兄をプロ野球選手にするため、少しでも大会で勝ち上がりたい」のだという。
そんな簡単にプロ野球に入れるわけがない。そう思った久保は、つい彼女と口論してしまう。
その結果、「兄の球を打ってみろ」とけしかけられてしまった。
彼はその挑発に乗ってしまうが……
小説家になろう・カクヨム・ハーメルンにも掲載しています。

ルピナス
桜庭かなめ
恋愛
高校2年生の藍沢直人は後輩の宮原彩花と一緒に、学校の寮の2人部屋で暮らしている。彩花にとって直人は不良達から救ってくれた大好きな先輩。しかし、直人にとって彩花は不良達から救ったことを機に一緒に住んでいる後輩の女の子。直人が一定の距離を保とうとすることに耐えられなくなった彩花は、ある日の夜、手錠を使って直人を束縛しようとする。
そして、直人のクラスメイトである吉岡渚からの告白をきっかけに直人、彩花、渚の恋物語が激しく動き始める。
物語の鍵は、人の心とルピナスの花。たくさんの人達の気持ちが温かく、甘く、そして切なく交錯する青春ラブストーリーシリーズ。
※特別編-入れ替わりの夏-は『ハナノカオリ』のキャラクターが登場しています。
※1日3話ずつ更新する予定です。
瞬間、青く燃ゆ
葛城騰成
ライト文芸
ストーカーに刺殺され、最愛の彼女である相場夏南(あいばかなん)を失った春野律(はるのりつ)は、彼女の死を境に、他人の感情が顔の周りに色となって見える病、色視症(しきししょう)を患ってしまう。
時が経ち、夏南の一周忌を二ヶ月後に控えた4月がやって来た。高校三年生に進級した春野の元に、一年生である市川麻友(いちかわまゆ)が訪ねてきた。色視症により、他人の顔が見えないことを悩んでいた春野は、市川の顔が見えることに衝撃を受ける。
どうして? どうして彼女だけ見えるんだ?
狼狽する春野に畳み掛けるように、市川がストーカーの被害に遭っていることを告げる。
春野は、夏南を守れなかったという罪の意識と、市川の顔が見える理由を知りたいという思いから、彼女と関わることを決意する。
やがて、ストーカーの顔色が黒へと至った時、全ての真実が顔を覗かせる。
第5回ライト文芸大賞 青春賞 受賞作
【完結】ぽっちゃり好きの望まない青春
mazecco
青春
◆◆◆第6回ライト文芸大賞 奨励賞受賞作◆◆◆
人ってさ、テンプレから外れた人を仕分けるのが好きだよね。
イケメンとか、金持ちとか、デブとか、なんとかかんとか。
そんなものに俺はもう振り回されたくないから、友だちなんかいらないって思ってる。
俺じゃなくて俺の顔と財布ばっかり見て喋るヤツらと話してると虚しくなってくるんだもん。
誰もほんとの俺のことなんか見てないんだから。
どうせみんな、俺がぽっちゃり好きの陰キャだって知ったら離れていくに決まってる。
そう思ってたのに……
どうしてみんな俺を放っておいてくれないんだよ!
※ラブコメ風ですがこの小説は友情物語です※
鷹鷲高校執事科
三石成
青春
経済社会が崩壊した後に、貴族制度が生まれた近未来。
東京都内に広大な敷地を持つ全寮制の鷹鷲高校には、貴族の子息が所属する帝王科と、そんな貴族に仕える、優秀な執事を育成するための執事科が設立されている。
物語の中心となるのは、鷹鷲高校男子部の三年生。
各々に悩みや望みを抱えた彼らは、高校三年生という貴重な一年間で、学校の行事や事件を通して、生涯の主人と執事を見つけていく。
表紙イラスト:燈実 黙(@off_the_lamp)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる