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事故の真実
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「彼のケガにあなたがかかわっていることを突き止め、発表に来ました。まさか言い逃れしたりはしませんよね」
「なんだ、いったい何なんだお前は。誰がこいつをここまで通した。おいシーザー、さっさとつまみ出せ」
指示を受け、シーザーがフィオナに向かっていく。
アレックスはシーザーの前に立ちはだかり、それをブロックした。オーフェンにやられたのと同じ、肩を組んでシーザーの歩みを封じ込める。当然シーザーはもがいて抜け出そうとするが、流石にそこはプロレスラーの組み付きで、一見してなんともないがしっかり関節をキメてあり、シーザーは身動きが取れない。
「まあ待てよ。オーフェンさん、彼女の話を聞いてみようじゃないか」
「何を言うか。いきなり乱入してくる無礼者の話しなんぞ、聞く価値もない」
「いいや、このアンソニーってやつは俺の友達なんだ。それのケガにあんたがかかわってるだって? 実に興味深い話だね。まさか都合悪い話だから握りつぶそうってんじゃないよな。記者のみんなも興味あるよな」
アレックスの呼びかけに、記者たちは沈黙で答えた。聞いてみたい、ということである。オーフェンは世界指折りの金持ちで実力者だ。そのスキャンダルとなれば大スクープだが、本人を前にして「聞いてみたい」と言う勇気はない。フィオナに出て行けと言わず、メモ帳や録音機をかまえることでその意思を示した。
「では調査結果をお知らせします。昨日行われたプロレスの試合で、リングロープが切れ、そのせいで写真のレスラーアンソニーがケガをしました。会場にいたファンの一人から映像をいただきましたので、ご覧ください」
フィオナが手元の端末を操作すると、スクリーンに映像が映る。アレックスがロープにのぼり、飛び上がろうとした瞬間にロープが切れ、そのままアンソニーに落ちていく。
「私もこの現場にいて、疑問に思いました。ロープって切れるものかな、って。そう思ってロープを調べようとリングに近づいたら、ロープを作ったメーカーの作業員が回収に来たのです。事故の原因を調べるためだって言ってましたけど、まだ事故が起きてから5分も経ってないんですよ」
記者たちがざわめく。5分というのは、通報からでなく事故発生からの時間だ。この短時間では、警察や消防だって駆けつけられないだろう。あらかじめ会場にいなければできない早業だが、果たしてロープのメーカーがプロレス会場に人員を置いておくのが自然なことだろうか。会場中がざわめきに包まれる。
「ですよね、おかしいですよね。早すぎます。というわけで、ロープを持ち去る作業員たちを背中から撮影しました」
スクリーンの画像が変わり、ロープを背負って会場を後にする作業員が映し出された。その背景として映る会場では、まだ観客も退場しておらず、リング上で苦しむアンソニーも映っており、事故のショックや混乱が生々しく見て取れる。
「この後彼らは車に乗って移動するのですが、移動した先はメーカーの社屋でなく、路地裏です。そこで彼らは、とある人物に指示され、怪しい作業を始めます。それはいったい何なのか、写真があります。ご覧ください」
スクリーンの写真が変わった。路地裏の作業員たちがリングロープをゴミ箱に放り込んでいる。彼らはスーツをまとった男に監督されているのだが、彼らの顔が見えるようズームすると、会見場がどよめいた。
「作業員の一人は、今ここでアレックスさんと肩を組むシーザーで、監督をしている男はオーフェンです。これは何を意味するのでしょうか。オーフェンは事故を装い一人のレスラーにケガをさせ、それを隠蔽しようと企んだのでしょう。許されない行為です」
フィオナが言うと、記者たちが一斉にカメラを構え、写真を撮る。オーフェンはたちまちフラッシュの雨を浴びることとなった。
「ちがう! それは間違いだ、言いがかりだ。シーザーを迎えに呼んだら、たまたま他の仕事の最中だっただけだ」
「へえ……、なるほど、納得の答えですね。路地裏で迎えを待つのって、最近流行ってますし」
フィオナは肩をすくめて言いい、さらに畳みかける。
「それじゃあ他にもたくさん聞きたいことがあるので、答えてもらえますか? 2週間前にタイタンコーポレーションが問題のスポーツメーカーを急遽買収していますが、これは偶然なのでしょうか? リングロープに爆破装置が仕掛けられていましたが、これはそういう製品なのですか? それと、タイタンコーポレーションが当該プロレス団体に出資して試合内容を指定し、また、問題のリングロープを含む用具を提供したという情報は本当ですか?」
スクリーンが次々と入れ替わる。爆破装置、買収や用具提供の証拠書類、試合内容を指定した証言が映しだされる。
フィオナが突き付けた証拠は決定的だった。詰め寄っているのは彼女だけだが、その後ろに控えている記者たちも、発言を逃すまいと目を皿にしている。
追い込まれたオーフェンは顎に手を当て、眉間にしわを寄せる。その表情を見て、フィオナは息をのむ。オーフェンは黙り込んでいるのだが、何か考えているというよりは、企んでいるかのような不気味さがある。
「オーフェンさん、何も知らないはずはないでしょう。この件に関してあなたは関与していたのかどうか、お答えください」
「ふふふ、ハハハ、ハーハッハッハ」
オーフェンは高笑いした。
「何がおかしいんですか。人に大ケガさせといてそれはないでしょう」
「これは失礼。他人からは私が犯人に見えるんだと思うと、どうもおかしくてね。逆ですよ、逆。私は『何者か』が不正をしているという情報を事前につかみ、シーザーを使って調査していたのです」
「はあ? たった今「言いがかりだ」と言ったじゃないですか。あれは何だったんですか?」
「今からそれを発表しようとしたところで、あなたに先を越されてしまった。それで少し取り乱してしまったのですよ。私を犯人扱いしたことは、まあ許してあげましょう。あなたの発表は素晴らしいものでしたからね」
「それじゃあなんでロープをゴミ箱に捨てたのよ。おかしいじゃない。ごまかさないでよ」
フィオナはなおも詰め寄ると、
「う。それは……」
オーフェンはこの質問には答えられなかった。
勝負は決した。
記者席も決定的なものを感じ取り、「質問に答えろ」との声が飛び始める。
追い詰められたオーフェンは腕時計を見てわざとらしく首を振った。
「質問には答えたいところですが、そろそろ時間のようです。私はこの後もスケジュールが詰まっていますから、本日はここらでお開きといたしましょう。お集りの皆様、本日はどうもありがとうございました。フィオナさんも、私の代理で発表してくれたこと感謝いたします」
「なに会見を終わらせようとして――、あっ、待ちなさいよ」
オーフェンは駆け足で会見場を去って行く。フィオナが呼び止めるのも完全に無視で、逃げの一手をうったのは誰の目にも明らかだ。
「ミスターオーフェン、それはないでしょう」
「今の質問に答えるべきだ」
「やましいことがあるんじゃないですか」
詰めかけた記者からも批判が上がる。
しかしオーフェンは振り返らない。避難の嵐を背にし、一直線に会見場から出て行った。
「なんだ、いったい何なんだお前は。誰がこいつをここまで通した。おいシーザー、さっさとつまみ出せ」
指示を受け、シーザーがフィオナに向かっていく。
アレックスはシーザーの前に立ちはだかり、それをブロックした。オーフェンにやられたのと同じ、肩を組んでシーザーの歩みを封じ込める。当然シーザーはもがいて抜け出そうとするが、流石にそこはプロレスラーの組み付きで、一見してなんともないがしっかり関節をキメてあり、シーザーは身動きが取れない。
「まあ待てよ。オーフェンさん、彼女の話を聞いてみようじゃないか」
「何を言うか。いきなり乱入してくる無礼者の話しなんぞ、聞く価値もない」
「いいや、このアンソニーってやつは俺の友達なんだ。それのケガにあんたがかかわってるだって? 実に興味深い話だね。まさか都合悪い話だから握りつぶそうってんじゃないよな。記者のみんなも興味あるよな」
アレックスの呼びかけに、記者たちは沈黙で答えた。聞いてみたい、ということである。オーフェンは世界指折りの金持ちで実力者だ。そのスキャンダルとなれば大スクープだが、本人を前にして「聞いてみたい」と言う勇気はない。フィオナに出て行けと言わず、メモ帳や録音機をかまえることでその意思を示した。
「では調査結果をお知らせします。昨日行われたプロレスの試合で、リングロープが切れ、そのせいで写真のレスラーアンソニーがケガをしました。会場にいたファンの一人から映像をいただきましたので、ご覧ください」
フィオナが手元の端末を操作すると、スクリーンに映像が映る。アレックスがロープにのぼり、飛び上がろうとした瞬間にロープが切れ、そのままアンソニーに落ちていく。
「私もこの現場にいて、疑問に思いました。ロープって切れるものかな、って。そう思ってロープを調べようとリングに近づいたら、ロープを作ったメーカーの作業員が回収に来たのです。事故の原因を調べるためだって言ってましたけど、まだ事故が起きてから5分も経ってないんですよ」
記者たちがざわめく。5分というのは、通報からでなく事故発生からの時間だ。この短時間では、警察や消防だって駆けつけられないだろう。あらかじめ会場にいなければできない早業だが、果たしてロープのメーカーがプロレス会場に人員を置いておくのが自然なことだろうか。会場中がざわめきに包まれる。
「ですよね、おかしいですよね。早すぎます。というわけで、ロープを持ち去る作業員たちを背中から撮影しました」
スクリーンの画像が変わり、ロープを背負って会場を後にする作業員が映し出された。その背景として映る会場では、まだ観客も退場しておらず、リング上で苦しむアンソニーも映っており、事故のショックや混乱が生々しく見て取れる。
「この後彼らは車に乗って移動するのですが、移動した先はメーカーの社屋でなく、路地裏です。そこで彼らは、とある人物に指示され、怪しい作業を始めます。それはいったい何なのか、写真があります。ご覧ください」
スクリーンの写真が変わった。路地裏の作業員たちがリングロープをゴミ箱に放り込んでいる。彼らはスーツをまとった男に監督されているのだが、彼らの顔が見えるようズームすると、会見場がどよめいた。
「作業員の一人は、今ここでアレックスさんと肩を組むシーザーで、監督をしている男はオーフェンです。これは何を意味するのでしょうか。オーフェンは事故を装い一人のレスラーにケガをさせ、それを隠蔽しようと企んだのでしょう。許されない行為です」
フィオナが言うと、記者たちが一斉にカメラを構え、写真を撮る。オーフェンはたちまちフラッシュの雨を浴びることとなった。
「ちがう! それは間違いだ、言いがかりだ。シーザーを迎えに呼んだら、たまたま他の仕事の最中だっただけだ」
「へえ……、なるほど、納得の答えですね。路地裏で迎えを待つのって、最近流行ってますし」
フィオナは肩をすくめて言いい、さらに畳みかける。
「それじゃあ他にもたくさん聞きたいことがあるので、答えてもらえますか? 2週間前にタイタンコーポレーションが問題のスポーツメーカーを急遽買収していますが、これは偶然なのでしょうか? リングロープに爆破装置が仕掛けられていましたが、これはそういう製品なのですか? それと、タイタンコーポレーションが当該プロレス団体に出資して試合内容を指定し、また、問題のリングロープを含む用具を提供したという情報は本当ですか?」
スクリーンが次々と入れ替わる。爆破装置、買収や用具提供の証拠書類、試合内容を指定した証言が映しだされる。
フィオナが突き付けた証拠は決定的だった。詰め寄っているのは彼女だけだが、その後ろに控えている記者たちも、発言を逃すまいと目を皿にしている。
追い込まれたオーフェンは顎に手を当て、眉間にしわを寄せる。その表情を見て、フィオナは息をのむ。オーフェンは黙り込んでいるのだが、何か考えているというよりは、企んでいるかのような不気味さがある。
「オーフェンさん、何も知らないはずはないでしょう。この件に関してあなたは関与していたのかどうか、お答えください」
「ふふふ、ハハハ、ハーハッハッハ」
オーフェンは高笑いした。
「何がおかしいんですか。人に大ケガさせといてそれはないでしょう」
「これは失礼。他人からは私が犯人に見えるんだと思うと、どうもおかしくてね。逆ですよ、逆。私は『何者か』が不正をしているという情報を事前につかみ、シーザーを使って調査していたのです」
「はあ? たった今「言いがかりだ」と言ったじゃないですか。あれは何だったんですか?」
「今からそれを発表しようとしたところで、あなたに先を越されてしまった。それで少し取り乱してしまったのですよ。私を犯人扱いしたことは、まあ許してあげましょう。あなたの発表は素晴らしいものでしたからね」
「それじゃあなんでロープをゴミ箱に捨てたのよ。おかしいじゃない。ごまかさないでよ」
フィオナはなおも詰め寄ると、
「う。それは……」
オーフェンはこの質問には答えられなかった。
勝負は決した。
記者席も決定的なものを感じ取り、「質問に答えろ」との声が飛び始める。
追い詰められたオーフェンは腕時計を見てわざとらしく首を振った。
「質問には答えたいところですが、そろそろ時間のようです。私はこの後もスケジュールが詰まっていますから、本日はここらでお開きといたしましょう。お集りの皆様、本日はどうもありがとうございました。フィオナさんも、私の代理で発表してくれたこと感謝いたします」
「なに会見を終わらせようとして――、あっ、待ちなさいよ」
オーフェンは駆け足で会見場を去って行く。フィオナが呼び止めるのも完全に無視で、逃げの一手をうったのは誰の目にも明らかだ。
「ミスターオーフェン、それはないでしょう」
「今の質問に答えるべきだ」
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