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連絡

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 病院の中では携帯電話の電源をOFFにしてください。
 玄関のガラスドアにはポスターが貼ってある。プロレス会場へ向かうアレックスはそれを後ろ手で閉め、スマートフォンの電源を入れる。するとその瞬間、スマートフォンが振動した。画面にはフィオナとある。

「はい、こちらアレックス――」

「ああああああああ、アレックスううううううう。よかった無事だったあああああ。なんで電話の電源を入れてないのよおおおおおお。家にもいないしジムにもいないし、心配したんだからああああああ」

 電話機の向こうで、フィオナが泣きじゃくっている。

 そういえば今回の事故、ファンや世間にどう発表されているのか、アレックスは知らなかった。俺とアンソニーの試合中に事故があった、とだけ発表されていて、そのせいでフィオナが誤解しているのだろうか。

「おいおい、心配する相手が間違ってる。ケガしたのは俺じゃなくてアンソニーだよ。俺は手術に付き添って、そのまま病院に泊まったんだ。っていうかお前、試合を見に来てたよな?」

「うん、見てたわ。アンソニーがケガしたところもね。彼、ケガの具合はどうなの?」

「もう歩けない大ケガだった」

「なんてこと! 絶対に許せないわ!」

 電話越しの激怒に、アレックスは改めて反省した。アンソニーはあっさりと許してくれたが、これが普通の反応なのだ。やはり俺は罪深いのだ。

「ああ、本当に反省してるよ。俺は許されないことをしてしまった。けど、治ったんだ。アンソニーはさっき側転までしてた」

「怒ってるのはあんたに対してじゃ……って、はあ? 治った? 歩けない大ケガが一日で治るわけないじゃない」

「信じられないだろうけど、本当なんだ。あの気に食わないオーフェンのやつが名乗り出て、よくわからんが金と科学力で治してくれたんだ。悔しいけど、あいつは優秀だ」

 アレックスが言ったが、フィオナから返事は返ってこなかった。何やら小さなつぶやきが聞こえるので、何かを考えているらしい。

「……なるほどなるほど、それで対価としてヘラクレスを要求されたってことね」

「ああ、そうなんだ。よくわかったな。腹は立つけど、大人しく言うことを聞くことにしたんだ。あいつに対抗するためお前にもいろいろ手伝ってもらったが、アンソニーの足には代えられない。本当に済まないな」

「いいのよ。あんたは悪くないわ。悪いのは全部オーフェンなんだから」

「は? どういうこと?」

「一言で言うと、陰謀よ」

 アレックスは「また始まったよ」と口にしかけて、飲み込んだ。思えば、このヘラクレスとオーフェンの事件、始まりはフィオナの「陰謀よ」だった。プロレスを流行らせてくれたのもフィオナだ。彼女の言葉には力がある。軽視すべきでない。

「説明してくれ」

「ええ、もちろん。あなた今どこにいるの?」

「今は病院だけど、これからホテルネメアに行くんだ。オーフェンがヘラクレス譲渡の記者会見をやるってさ」

「記者会見ですって? それは素晴らしい。グッドよ、グッド。私もそこへ行くわ」

「それはわかったけど、どんなことか大雑把にでも説明して――」

「それじゃあ私は準備がしなくちゃだから、これで」

 返事はなく、通話は切れた。

 なんだかなあ。フィオナって頼れるやつなんだけど、微妙な感じだよな。緊張感が足りないのかな。
 アレックスはスマートフォンをポケットにしまい、ヘラクレスを取りに向かった。
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