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レイフォードside
しおりを挟むアーシャが家のために政略結婚を望んだことは知っていた。
妻としてこれから愛したいと思った。
愛したい気持ちよりも、失うことを恐れる気持ちが大きかった。
アーシャが僕に引け目を感じれば、僕から逃げることも出来なくなるだろう、離れられなくなるだろうと思うと止まらなくなっていった。
だが、アーシャは僕がどれだけ恩に着せても、ものともしなかった。
セバスチャンに避難することをすすめられたとき、真っ先にアーシャを守りたいと思ったから素直に避難することにしたのだ。
こんな身体で山登りなんてごめんだったが、アーシャを危険な場所に置いておく方が嫌だった。
アーシャを守るために護衛もたくさん連れて出ることにしたのに、よりによって護衛を守るために怪我をしてしまうなんて、考えられないことだった。
護衛に手当てを命じた後、外に連れ出すとアーシャと同じような傷をつけた。
「護衛ごときが僕の婚約者に守られるなんて、恥ずかしくないのか?」
「お前こそ自分の女すら守れず他人の俺たちに守られてるのは恥ずかしくないのかよ」
腹が立った。図星だったからだ。
護衛の男は畳みかけるように言った。
「守るどころか常にいびってんだろ? あの目見てみろよ。いつもお前を警戒してるぞ」
気がつくと刺していた。
「ゲホッ……、ゲホッ」
口からも血を吐くと自力で腹から引き抜いた。
「心臓はここだよ」
男が血にまみれた歯を覗かせて笑う。
刀が刺さったのは、男が指し示す所とはかけ離れたところだった。
その日の夜、こそこそとアーシャが外を出る気配に気付いて慌てて後を追いかけた。
男は死んでいるだろうと思っていたのに、アーシャから分けられたパンをもらっていた。
僕は一度もそんなことをしてもらったことはなかった。そして、頭の中で昼間の男の台詞が蘇る。「いつもお前を警戒してるぞ」
アーシャが急に大きな声をあげ、そのまま扉を飛び出した。
僕の代わりにアーシャが怖い目にあわされそうになっているんだと思っていた。
今こそアーシャを守るときなのだ、そう思って勇敢に護衛に飛びかかった。
それなのにアーシャは僕に向かって「やめてください」と言い放った。それも冷たい言い方だった。
僕はアーシャを守りたいのに、大事にしたいのに、感情がぐちゃぐちゃになって何が何だか分からなくなってしまった。
この護衛を殺してやろう、こいつを処分した後でアーシャと再出発をしよう。
教えて貰った心臓の位置をよく思い出す。
覚悟を決めて刀を振り上げると、頭に衝撃が走った。
「こいつ!!!!!!!」
アーシャのことを助けようと思ったのに、どうしてわかってくれないんだ。
悲しみが怒りに変わり、思わず手を上げてしまった。
きゅっと目を瞑り頭を守ろうとするアーシャの姿を見て、なんてことをしてるんだ、とハッとした。
次の瞬間、背中にするどい痛みが走った。
腹から飛び出た刀の先から誰のものかわからない血が流れている。
刀が引き抜かれると、立っていられなくて膝から崩れ落ちるように倒れた。
アーシャは僕のことなんて少しも見ていなかった。アーシャの瞳には、護衛が映っていた。
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