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逃避

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 アーシャが止めに入ると、レイフォードはますます興奮した。

 アーシャを突き飛ばすように退けると、イオの髪の毛を鷲づかみにし、何度も殴りつける。抵抗をしないイオはその度に地面に倒れた。

 倒れたイオを足蹴にすると、蹴られたイオの頭がボールのように跳ねる。肩を蹴飛ばして仰向けにさせると、地団駄を踏むようにイオの身体中を踏みつけていく。

 アーシャがレイフォードを止めようとするが、肥えた身体には無駄にパワーがあった。アーシャがぶら下がるようにして抱きついても何の意味もなさなかった。

 イオとレイフォードの間に割って入ったが、軽々と投げ飛ばされてしまう。

 レイフォードの暴力を受け続けたイオは地面に横たわったまま起き上がらない。

 ぐったりとしたイオが持っている剣を取り上げると、鞘から抜いた。長い刀身が暗闇の中できらりと光った。

 レイフォードの鼻息は荒く、正気を失っているようだった。手はガタガタと震えている。

 刀をイオに向けると大きく振りかぶった。

 アーシャが気がついたときには地面に落ちていた石を拾ってレイフォードの頭に打ち付けていた。

 石は拳ほどの大きさがあった。一度打ち付けると、恐怖心がすっと引いていく。何度も何度もぶにぶにとした脂肪に守られた頭を打ち付けた。

「アーシャ」

 イオが苦しげに呼ぶ声だけがはっきり聞こえた。

「こいつ!!!!!!!!!」

 レイフォードが叫び、アーシャに掴みかかる。

 手を振り上げられ、反射的に頭を抱えた。

 何の衝撃もない。レイフォードが小さく呻く。

「ぐっ、ぅ゛ぅ゛…………………」

 目を開けると、レイフォードの身体から刀の先が出ていた。刀を伝って血がポタポタと地面に滴る。
 イオがずるりと刀を引き抜くと、レイフォードの身体が崩れ落ちた。

 尋常じゃなく痙攣するレイフォードは、素人目に見ても放っておけば死ぬことがわかった。

「……どうしよう」

 イオは慌てた様子も無く、レイフォードの服で血を丁寧に拭った。元の輝きを取り戻した刀身を鞘に収めながら、呟くようにぽつりと言った。

「……逃げるか」
 
 アーシャは間を置かずに頷いた。

 ふたりはゆっくりと歩き出す。レイフォードに痛めつけられたイオは、足を引きずりながら。

「海に行こう!」

 元気よくアーシャが言うと、イオははじめて笑顔を見せた。

 レイフォードの別荘は山を一つこえた先の深い森の中にあった。ここから海まで歩くと休みなしでも一週間はかかるだろう。

 時々イオが苦痛に顔を歪めるが、アーシャは見ない振りをした。




 






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