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楽園

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────

 ドンドンドンドン……!

 絶えず叩かれる扉の音をオーケストラの演奏代わりにして、閉じこもった教会の中でふたり、壁を背にして寄り添うように座っていた。

「……大丈夫か」

 彼が紡ぐ言葉をひとつも聞き逃さないように、意識を彼に集中させる。

「ええ」

 あなたは? とは聞き返さなかった。
 しばらくしてから言った。

「私たちの前世は、私たちよりも悪い人だったのかしら」

 返事は無い。代わりに、すぅすぅと寝息のような呼吸音が小さく聞こえてくる。

 眠りについた彼の頭を、自分の肩に寄りかからせる。短く整えられた髪を撫でると、見た目に反してふわりとした手触りがした。

 教会の中を見回してみると、酷く荒れていて、落ちたキリストの像が恨めしく私を見つめている。床に敷かれていたらしい石のタイルは、下から突き上げるように繁殖した雑草に持ち上げられていた。

 高い位置に取り付けられたステンドグラスは、白く変色しひび割れている。陽の光が差し込むと映し出される、さほど美しくない模様。

 ぐらん、と彼の頭が私の肩を滑り落ちて項垂れた。大きな彼の身体を引き摺るようにして寝かせると、私も隣に寝そべった。

 抜け落ちた天井のすき間から、立ちこめた灰色の雲が見える。今にも雨粒が落ちてきそうで目を閉じた。

 瞼の裏に浮かぶのは、幸せそうな目で幼い私を見つめる両親の顔だった。
 
 目立つのが苦手な私は、家の中でこじんまりとしたパーティーを希望した。

 張り切った父親は毎年食べきれないくらいの料理を作ってくれて、母親はその年の私のためにドレスをこしらえてくれた。

 誕生日ケーキのろうそくを吹き消すときには、「お父さんとお母さんのような夫婦になれますように」と願った。

 ───そんな昔のことを思い出しているうちにぼんやりと眠くなってきた。

 彼の手をくぐるようにすると、今度は私の頭を肩に乗せた。お腹に手を回すと、そっと目を閉じる。

 閉じながら、彼の身体の向こうに蹴り開けられる教会の扉が見えた。

 扉が開くと同時に、海の上を通ってきた水気の孕んだ風が吹き抜けていくような気がした。

「剣士も女もここにいたぞ!」 

 私たちを祝福するみたいに駆け寄ってくる人々の足が踏み鳴らされるたびに、ガチャンガチャンと音が響いた。

 離れ離れにならないように彼の身体をぎゅっときつく抱きしめると、ふたりの輪郭がぼんやりとしてくる。

 輪郭と一緒に私の意識も薄くなっていき、彼のなかに溶け出していく。

 さいごに感じたのは、耳のそばで鋭く鳴ったジャギンッという音だった。








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