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ローザンヌ領
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ダルトワ侯爵のローザンヌ領は湖と山に囲まれた国境に近い広大な領地だった。
私達が住んでいた場所から馬車で十日も旅をしてようやく私はダルトワ侯爵の住む大きな城へと辿り着いた。
旅の間中、屈強な護衛の者がたくさんいて私とメイドのフランを守ってくれていたぇれど、彼らは騎士というよりは……
「まるで山賊団のようですね、アリス様」
とフランが言い放ったので、私は慌てて彼女の口を塞がなければならなかった。
「フラン、そんな風に言うものではないわ」
「だってアリス様、侯爵家からの使者だと言うから、どんなに素敵な騎士様がおいでになるかと思えば」
フランはそう言って馬車の窓から外を見た。
何の飾りもつけていない馬が数頭、馬車を囲んで走っている。
その馬にまたがり、腰に剣を差しているのは屈強そうな体格の大男達。
最初、彼らは物珍しそうにじろじろと私達を見て、それからは始終無言だった。
宿屋に泊まり身体を休める時も食事をとるときも彼らは遠巻きに私達を眺めるだけだった。
メイドのフランが一緒だったので旅の間は物珍しさで景色や宿で気が紛れた。
けれどいよいよ今夜にでもグリフィン・ダルトワ侯爵にお目にかかるとなると、緊張と不安で身体が震えてしまう。
ダルトワ侯爵はどんな方だろう。
そして侯爵の母上であるエレーヌ様。
「寒いですねえ、アリス様。気温が一気に十度も下がったかのよう」
とフランが両手をこすり合わせながら言った。
「そうね、こちらはかなり北国ですもの。春は短いと聞いているわ」
「そうなんですか」
フランははあっと白い息を吐いた。
やがて辿りついた侯爵家の城を私もフランもあんぐりと口を開いたまま見上げた。
「王様でも住んでるんじゃないですかね、アリス様」
とフランが言った。
「ほ、本当だわ……」
アンダーソン男爵家、いや、その上のコーンオール伯爵家でもこの城に比べれば小さく見えるほどの城。
見上げても目をこらしてもその全貌を理解するのは難しいほど、巨大で美しい城だった。
馬車のドアが開かれ老執事さんが手を差し出して、
「ようこそいらっしゃいました、アリス様」
としわがれた声で言い、にぃっと笑った。
「ど、どうも」
馬車を降りるとずらりと並んだメイドと召使い達が一斉に頭を下げた。
その赤い絨毯の先に立っていたのは全身が黒ずくめの衣服とマントを着用し、片目に黒い眼帯をつけたもの凄く長身の男性だった。
黒髪に開いた片方の目も黒曜石のように黒く整った顔立ち。
「ようこそ、我が城へ、花嫁殿」
低いテノールでまろやかな声でダルトワ侯爵が言った。
私達が住んでいた場所から馬車で十日も旅をしてようやく私はダルトワ侯爵の住む大きな城へと辿り着いた。
旅の間中、屈強な護衛の者がたくさんいて私とメイドのフランを守ってくれていたぇれど、彼らは騎士というよりは……
「まるで山賊団のようですね、アリス様」
とフランが言い放ったので、私は慌てて彼女の口を塞がなければならなかった。
「フラン、そんな風に言うものではないわ」
「だってアリス様、侯爵家からの使者だと言うから、どんなに素敵な騎士様がおいでになるかと思えば」
フランはそう言って馬車の窓から外を見た。
何の飾りもつけていない馬が数頭、馬車を囲んで走っている。
その馬にまたがり、腰に剣を差しているのは屈強そうな体格の大男達。
最初、彼らは物珍しそうにじろじろと私達を見て、それからは始終無言だった。
宿屋に泊まり身体を休める時も食事をとるときも彼らは遠巻きに私達を眺めるだけだった。
メイドのフランが一緒だったので旅の間は物珍しさで景色や宿で気が紛れた。
けれどいよいよ今夜にでもグリフィン・ダルトワ侯爵にお目にかかるとなると、緊張と不安で身体が震えてしまう。
ダルトワ侯爵はどんな方だろう。
そして侯爵の母上であるエレーヌ様。
「寒いですねえ、アリス様。気温が一気に十度も下がったかのよう」
とフランが両手をこすり合わせながら言った。
「そうね、こちらはかなり北国ですもの。春は短いと聞いているわ」
「そうなんですか」
フランははあっと白い息を吐いた。
やがて辿りついた侯爵家の城を私もフランもあんぐりと口を開いたまま見上げた。
「王様でも住んでるんじゃないですかね、アリス様」
とフランが言った。
「ほ、本当だわ……」
アンダーソン男爵家、いや、その上のコーンオール伯爵家でもこの城に比べれば小さく見えるほどの城。
見上げても目をこらしてもその全貌を理解するのは難しいほど、巨大で美しい城だった。
馬車のドアが開かれ老執事さんが手を差し出して、
「ようこそいらっしゃいました、アリス様」
としわがれた声で言い、にぃっと笑った。
「ど、どうも」
馬車を降りるとずらりと並んだメイドと召使い達が一斉に頭を下げた。
その赤い絨毯の先に立っていたのは全身が黒ずくめの衣服とマントを着用し、片目に黒い眼帯をつけたもの凄く長身の男性だった。
黒髪に開いた片方の目も黒曜石のように黒く整った顔立ち。
「ようこそ、我が城へ、花嫁殿」
低いテノールでまろやかな声でダルトワ侯爵が言った。
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