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破産宣告

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 大伯母様のおっしゃる通りだ。
「だったら大伯母様が援助してくれたらいいのに……」
 と小声で言ったのは末娘のマリーだった。
 私はマリーのドレスの裾を直す振りをして、マリーの顔を覗き込んだ。
 お転婆なマリーは目を大きく見開いておどけた表情で私を見た。
 今のような言葉が万が一大伯母様の耳に入れば!
 考えるだけで恐ろしい。
 確かに大伯母様の伯爵家は裕福で、ドレスも宝石も目を見張る品を身につけていらっしゃるけれど、大伯母様は一族の者に援助をするような方ではなかった。
「ダニエル叔父様や叔母様には申し訳ないと思っております。この屋敷内私で出来る事はなんでもいたします。従姉妹達が嫁いだ後には私が叔父様と叔母様のお世話をさせていただければ……」
 と私は言った。
「そうかい、アリス。お前のそういうしとやかな性格はよい事だと思うさ。だけどお前は綺麗だ。母親のケイトに似てたいそう美しい。それだけの器量をみすみすダニエル達の老後の世話で枯らしてしまうのも勿体ないと思ってね」
 と大伯母様は言いメイドの運んできたカップの紅茶を一口飲んだ。
「それで? 伯母様、アリスに何か良いお話でもありますの?」
 とエリザベスが言った。
「アリスに限った事ではない。この家の娘なら誰でもよいご縁だよ。相手はロザーレム侯爵のグリフィン・ダルトワ」
「ダルトワですって! 伯母様!」
 とダニエルが言い、エリザベスも口元をハンカチで覆った。その顔は何か恐ろしい物でも見たような青白い顔になっていた。
「グリフィン・ダルトワ侯爵ってどんな方なの?」
 長女のエマが言った。
 彼女は十五歳で社交界デビューには十分に若く美しい。
 殿方との出会いに興味津々な年頃だとは思う。
 だけどダニエルは愛娘の質問を無視して、強い口調で大伯母様に言った。 
「あり得ないですね。伯母様、ダルトワ侯爵に娘を嫁がせるなどと!」
「エマもハンナもマリーも。もちろんアリスだってあんな男に嫁がせるわけにはいきませんね」
 ダニエルのあまりの勢いにエリザベスや三姉妹は黙ってしまった。
 温和なダニエルがこれだけ激高するのだから、侯爵といえど相手は悪名高い人間に違いないのだわ。
「そうかい、ダルトワに娘を嫁がせるくらいならこの冬は皆で裸で抱き合って凍死すると言うのだね?」
 と大伯母様が女性にしては低い声で言った。
「どういう意味ですの?」
 エリザベスがさらに顔を真っ白にして小声で呟くように言った。
「ダニエル、お前は末弟のアルフレッドのばかげた賭けに乗って、もうすぐ全財産を失うという事態なのだからね」
 一同が大伯母様の顔をじっと見て、誰も何も言わなかった。
「そ、そんな……あれは……その場のジョークだと……」
 ダニエルの顔は真っ青だった。
「どういう事ですの? あなた」
 エリザベスがすがりつくようにダニエルの腕を揺さぶった。
「この夏休暇にお前達は揃ってアルフレッドの友人のセギュール家に滞在したね? そこで行われたばかげた賭けポーカーでアルフレッドは莫大な掛け金を失った。自身の財産なんぞすでになく、それを取り戻す為にアルフレッドはダニエルの懐を当てにした。そして負けたのさ。ちゃんと証文もある。お前は酒の席での戯れ言だと思っていたようだが、セギュールの人間はそんなに甘くない。この冬にはお前を一文なしにして、全ての財産を頂く、とはっきり言っているからね。莫大な掛け金はこの城もわずかな領地もお前の蓄えも、エリザベスの宝石やドレス、絵画、それに娘達に遺すべき財産、全て差し出して何とか片がつくという金額さ。お前達は無一文でこの城を出て行かなければならないだろう。小さな借家でも借りて、家族皆が働きに行けば飢え死にはすまい。だがアンダーソン男爵家はこれでおしまいという事さ。総領息子も授かって、安泰だと思っていたのにねぇ」
 シーンと静まり返った広間の中でエリザベスの膝の上のヘンリーだけがきゃっきゃっと笑った。
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