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鏡よ鏡
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そのまま主寝室へ連れて行かれて、胸はばくばくでなんか苦しくなってきた。
なんたって前世の記憶が鮮明にあるんだから、夜の営みだって経験はある。
けど、全然違う。
令和の夫は結婚したら釣った魚に餌をやらないタイプで、同居の姑が子作りカレンダーまで作る始末だったし。
だからこんな甘い甘い雰囲気で優しくエスコートなんかされた事ないし!
めそめそ泣き虫ヒロインのリリアンを強くすることは出来るけどこういうの苦手、とか思っているうちに気がつけばベッドに腰をかけ、横には侯爵が寄り添って座っていた。
あーウブな振りしなくちゃだよね?
伯爵家で男は父親か兄か年配の執事くらいだったしな。
「リリアン」
「はい、伯爵様」
「私の事はガイラスと」
「ガイラス様」
「甘い声で名を呼ばれるのはいいものだな。十で騎士団見習いに入ってから、私の名前を呼ぶのは男ばかりだった」
「まあ、そんなことおっしゃってますけど、国内外で敵なしと呼ばれたガイラス様ですもの、女性も放っておかなかってのでは?」
「小さかった誰かさんに助け船を出したおかげで、醜い死神将軍と呼ばれたこの私が? 女性達は噂だけで揃って逃げ出すさ」
「あら……そう言えばそうでした。も、申し訳ありません。確かに私のせいですわ」
侯爵ははっはっはと笑って、
「そうともあれが運命の出会いだった…リリアン」
見上げると息がかかるほどの距離に侯爵の顔、唇、頬。
日に焼けた肌、素晴らしく整い引き締まった精悍な顔。
ふとベッドの横にかけられてた鏡。
そこに映るはプラチナブロンドで白い肌、アクアマリンの宝石のようなブルーの瞳のリリアンだった。
彼女は少し悲しそうな顔でこちらを見ていた。
「リリアン……」
(どうしてあなたがそこにいるの? 私がリリアンだわ。伯爵家に生まれたのも育ったのも私なのに。あなたはどこから来て何故私のふりをしているの?)
(ふり?)
(あなたはリリアンじゃないでしょう)
(私は……)
(私が嫁ぐべき場所で嫁ぐべき旦那様だわ。あの日、旦那様が助けたのはあなたじゃない私よ。旦那様と運命の出会いをしたのは私だわ)
(そうかも……でもあなたはめそめそ泣くだけだったじゃないの。魔法も使えない役立たずと呼ばれて)
(まあ、あなたがそれを言うの? 酷い人ね。私から侯爵様を取り上げて、本当に酷い人)
(酷い? 私が?)
「どうかしたか? リリアン」
「え、いいえ、私、どうもしません……ガイラス様」
私は侯爵の腕にぎゅっとしがみついた。
急にまたどこかへ自分が行ってしまうような気がした。
「リリアン?」
私の背中を抱く侯爵の腕が温かくて、それだけで安心できる様な気がした。
「ガイラス様、私を離さないでくださいませ」
「可愛い事を言う。もちろん離さないよ。リリアン、私を夢中させる君を他所の男に譲るつもりはない」
「ガイラス様」
侯爵の指が私の顎に触れ、そして唇が近づいてくる。
心臓がばっくんばっくん鳴っているのを気付かれませんように、と思いながら私は目を閉じた。
なんたって前世の記憶が鮮明にあるんだから、夜の営みだって経験はある。
けど、全然違う。
令和の夫は結婚したら釣った魚に餌をやらないタイプで、同居の姑が子作りカレンダーまで作る始末だったし。
だからこんな甘い甘い雰囲気で優しくエスコートなんかされた事ないし!
めそめそ泣き虫ヒロインのリリアンを強くすることは出来るけどこういうの苦手、とか思っているうちに気がつけばベッドに腰をかけ、横には侯爵が寄り添って座っていた。
あーウブな振りしなくちゃだよね?
伯爵家で男は父親か兄か年配の執事くらいだったしな。
「リリアン」
「はい、伯爵様」
「私の事はガイラスと」
「ガイラス様」
「甘い声で名を呼ばれるのはいいものだな。十で騎士団見習いに入ってから、私の名前を呼ぶのは男ばかりだった」
「まあ、そんなことおっしゃってますけど、国内外で敵なしと呼ばれたガイラス様ですもの、女性も放っておかなかってのでは?」
「小さかった誰かさんに助け船を出したおかげで、醜い死神将軍と呼ばれたこの私が? 女性達は噂だけで揃って逃げ出すさ」
「あら……そう言えばそうでした。も、申し訳ありません。確かに私のせいですわ」
侯爵ははっはっはと笑って、
「そうともあれが運命の出会いだった…リリアン」
見上げると息がかかるほどの距離に侯爵の顔、唇、頬。
日に焼けた肌、素晴らしく整い引き締まった精悍な顔。
ふとベッドの横にかけられてた鏡。
そこに映るはプラチナブロンドで白い肌、アクアマリンの宝石のようなブルーの瞳のリリアンだった。
彼女は少し悲しそうな顔でこちらを見ていた。
「リリアン……」
(どうしてあなたがそこにいるの? 私がリリアンだわ。伯爵家に生まれたのも育ったのも私なのに。あなたはどこから来て何故私のふりをしているの?)
(ふり?)
(あなたはリリアンじゃないでしょう)
(私は……)
(私が嫁ぐべき場所で嫁ぐべき旦那様だわ。あの日、旦那様が助けたのはあなたじゃない私よ。旦那様と運命の出会いをしたのは私だわ)
(そうかも……でもあなたはめそめそ泣くだけだったじゃないの。魔法も使えない役立たずと呼ばれて)
(まあ、あなたがそれを言うの? 酷い人ね。私から侯爵様を取り上げて、本当に酷い人)
(酷い? 私が?)
「どうかしたか? リリアン」
「え、いいえ、私、どうもしません……ガイラス様」
私は侯爵の腕にぎゅっとしがみついた。
急にまたどこかへ自分が行ってしまうような気がした。
「リリアン?」
私の背中を抱く侯爵の腕が温かくて、それだけで安心できる様な気がした。
「ガイラス様、私を離さないでくださいませ」
「可愛い事を言う。もちろん離さないよ。リリアン、私を夢中させる君を他所の男に譲るつもりはない」
「ガイラス様」
侯爵の指が私の顎に触れ、そして唇が近づいてくる。
心臓がばっくんばっくん鳴っているのを気付かれませんように、と思いながら私は目を閉じた。
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