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 五月祭、M大学では春と秋、二回文化祭が行われる。
 秋の方が大がかりだし、五月祭は一般人の入場は禁止されているが、それはそれで結構盛り上がる。
 苺は所属している軽音楽部のライブの準備に追われていた。
「苺!」
「あ、真琴。この間はごめん。逃げちゃってさ」
「いーのよ。あんな事した奴が悪いんだから。大和君、心配してたわよ?」
 かっと苺の顔を赤くなる。
「上着、返してきてくれないかな」
「やあよ。せっかくなんだから、自分で行ってきなさいよ。あの三人も大和君をねらってるけど、この間のでポイントは下がったんじゃないかな?」
「はあー」
 苺はため息をついた。
 大和に会いたいのやまやまだが、顔が合わせづらい。
 ペタンの胸をみられて、どんな顔で会えばいい?
 きっと男の子はボインの方がいいに決まってるんだから。
「さっき食堂で大和君を見たわよ? まだいるんじゃないかな」
「そう、じゃ,ついてきてくれる?」
 上着の入った袋を持って、苺は渋々立ち上がった。
「しょうがないわねえ」
 真琴と一緒に重い足を引きずりながら、学食へと向かう。
「あ、あいつら! 苺!」
 有加と奈緒と早苗が二人の進行方向からきゃっきゃと楽しそうな様子でやってくる。
「あ、ちょっと。苺よ」
 苺に気がついた早苗が苺を指さす。
「あっらあ。AAカップの苺ちゃんじゃないの!」
「その後どう? 少しは大きくなった?」
「誰かにもんでもらったら? 少しは大きくなるかも、よ」
 顔を見合わせて三人は大笑いする。
 苺は袋を持ったまま、腕組みをした。
「ばっかじゃないの? 男遊びしてるのがそーんなに自慢かよ? あんた達と違って、あたしはあちこちの男に乳をもんでもらうよーな女じゃないからね!」
 と苺が叫んだ。
「ま、何ですって?」
「だって、そうじゃん? 言っとくけど、あんた達みたいに男の手あかがこびりついてるお乳とは違うのよ! 真っ新なんだから!」 
「ち、ちょっと、苺」
「何」
 振り返った苺の目に大和の姿が飛び込んで来た。
「や、大和君」
「苺ちゃん……」
 苺のセリフはしっかり大和の耳に入ったのだろう。
 大和が、かあと赤くなった。
「あっちゃー、ばか、あんたって間の悪い奴ね」
 真琴が自分の額を押さえた。
 途端に苺の顔がまっかっかになる。
「や、大和君、その、何でもない……です!」
 苺はくるりと振り返ると、一目散に逃げ出した。
 その苺を見送りながら、大和はぷっと吹き出した。
「苺ちゃんていつも走ってるね。あ、転んだ。あ、起き上がった。こっちに走ってくる」
 苺は大和の前まで全力で走りよってくると、ぜいぜいと言いながら、
「あ……の、これ。ありが……とう」
 と言ってまた走り去る。
「ああ、わざわざ、クリーニングしてくれなくても、ってもういない。あ、また来た。また、転んだ」
 三度走って来ると、
「あ……あの。五月祭でライブやる……んで。ぜひ来て下さい」
 大和の手に画用紙で作成したチケットを渡す。
「ああ……でもひざ小僧血が出てるよ」
「大丈夫! それじゃ」
 苺は本当に走り去りながら、ガッツポーズをした。
(うわわ。やった! 渡した! よっしゃあああ)

「どう、大和君、苺、可愛いでしょ?」
 真琴があっけに取られている大和の肩をつっついた。
「あ? ああそうだね。おもしろい娘だね」
「そうでしょ、そうでしょ。ね、ぜひ苺のライブを見に行ってやってね。あの娘、はりきると思うから」
「ああ」
 大和がさわやかに笑って頷いた。
「ちなみにあたしも出るのよね」
「え? 真琴さんも軽音楽部なの?」
「そうよん。苺がヴォーカルとギターであたしがベース。ドラムはマイダーリンよん」
「ああ、武とつきあってるんだっけ」
「あら、武を知ってるの?」
「高校が一緒だったからね」
「ふーん。それなら丁度いいわ。ね。また皆で飲み会でもやりましょうよ」
「いいね」
「OK、じゃね」
 真琴はさっそうとその場から退場。
 ついでにずっとその様子を見ていた三人娘にも、
「じゃあねえ」
 と意地悪く言った。
 苺に一歩リードされた三人娘は、
「キーキーキーキー」
 と黄色い声で悔しがっていたが、やがて有加が、
「許さないわよ。あの田舎娘! 大和君に手を出すとどうなるか思いしらせてやる!」
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