わけあり乙女と純情山賊

猫又

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引導

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 その瞬間にガイツが通路から顔を出して、リリカとゴードンの体勢を見てから鬼のような顔で、
「この白豚! 人の女に手を出すんじゃねえ! 丸焼きにしちまうぞ!」
 と怒鳴った。
「ガイツ、てめえ、大馬車を襲いに行ったんじゃないのか?」
 ゴードンがゆっくりと起き上がり、剣を手にしながら言った。
「そんなもんより、大事な宝をてめえに預けてあったんでな、返しにもらいに来たのさ」
 リリカはさっと飛び起きて、ゴードンから離れた。自分の剣をしっかりと握りしめる。
「宝だと?」
「そうさ。ゴードンよ。どうやらお前の所は人手不足らいいな。手下はどうした? 逃げ出したのか? 頭がろくでなしだと手下もろくなもんがいねえな」
「随分と余裕だな。お前の宝とはこの女の事か?」
 ゴードンはガイツの前に立つと、剣を構えた。ちらっとリリカを見る。
「おお、そうだ。俺様の大事な宝だ。ぶよぶよ太った汚い手で触るんじゃねえぞ。リリカはお前のような豚にゃあ、見るのももったいない女だ。何せ天使だからな」
 ガイツが壊れた! リリカは不安な顔でガイツを見た。
「はっ、ガイツ、いかれちまったようだな。哀れな男だ。せめて一瞬であの世に送ってやるぞ」
 ゴードンが剣を振りかぶった。
「うるせえ!」
 ガイツが叫んでゴードンに切りかかった。
 ガイツの一太刀目をゴードンは剣で受け止めた。触れ合った剣がぎりぎりと嫌な音をたててきしむ。さっと離れた瞬間のゴードンの剣がガイツを突き刺す。
 だが、ガイツはそれを大刀ではねのけた。
「お頭!」
 ゴードンの手下が三人、ガイツを襲おうとしたのでリリカは自分の剣でもって応戦した。 リリカは一人目を真っ向から切り下ろした。
 二人目は二、三合打ち合ってから胴体をまっすぐに切り裂く。
 三人目はリリカの剣がのどを貫通して、死んだ。
「リリカ、強くなったもんだな。凄い、凄い」
「ガイツ! よそ見してたら危ないわよ!」
「お? 心配してくれるのか? 優しいな」
 リリカは呆れたような顔でガイツを見た。
「ガイツったら、ゴードンの仲間が大馬車を襲ったガイツの仲間を襲いに行ってるのよ!早く助けに行かなくちゃ!」
「何? それなら遊んでる暇はないな。ゴードン、死んじまいな!」
 ガイツの大刀がゴードンに二度、三度と打ちかかった。
 巨大な大刀を振り下ろすガイツの素早さにゴードンの足が止まった。
 大刀は目にも止まらない早さで繰り出され、ゴードンはそれを防ぐのに精一杯だった。 ゴードンも決して弱くはない。だが、仲間がいない不安から切り出すタイミングが少しづつ遅れている。防御に徹してしまい、攻撃が遅れるのである。そして、大事なリリカを取り返すという目的のガイツにしてみれば、ゴードンは敵ではなかった。
「ゴードンよ、少しやせた方がいいな。鈍くなってるぞ」
 ガイツはにやにやとしながら、汗だくのゴードンの剣をカーンと飛ばした。
 ゴードンの顔が引きつり、喘ぎながら叫んだ。
「ま、待て! やめろ。ガイツ、俺の負けだ……」
「そんな事は報告してくれなくても最初っから分かってる。のらりくらりと弱い者いじめばっかやってるお前が俺様にかなうもんか。ゴードンよ、俺は忙しい身体なんでな、これで終わりだ。死にな!」
 ガイツの大刀がゴードンを真っ向から切り下ろした。
「グエエエエ!」
 ゴードンは恐ろしい形相で、恐ろしい悲鳴を上げて床に倒れた。
 だが、まだ息絶えてはおらず、ぴくぴくと蠢いている。
「リリカ、最後に引導を渡してやれよ」
 ガイツの言葉にリリカがうなずいた。
 自分の剣を両手で持ち、倒れたゴードンの身体に力一杯突き刺す。
「グエッ!」
 ゴードンは悶絶の表情のまま息絶えた。  
「よし、よくやったな、リリカ」
「ガイツ……」
 リリカの両目から涙がこぼれ落ちた。
「わ……リリカ、どうした?」
 あたふたとガイツがリリカに駆け寄る。
「ガイツ……ありがとう。これでようやく、敵討ちが終わったのね」
「そうだな。長い旅も終わりだ。これから新しい生活が……その……俺と……」
 先程の威勢はどこへやら、ガイツは急に真っ赤になってしどろもどろにつぶやいた。
 涙を拭いているリリカにそっと両腕をのばし、抱きしめようとする。
「ガイツ!」
「な、何だ?」
「大変よ! ゴードンの仲間が!」
「あ、ああ、そうか」 
 ガイツはがっくりと肩を落とした。
「そうか、行くか」
「そうよ! 早く、早く! 何やっての!」
 リリカは剣を腰におさめて、さっさと走りだした。
 ガイツは肩をすくめてリリカの後を追いかけた。
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